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本がそこにあったから【連載#うちんくの本棚】02

ハルエさん・20代
本屋に行くと店内を歩いて、ふと、足がとまった本棚から「あ、こういう本が気になるんだ〜」と、自分の気持ちの変化に気づくことが多い。

「本棚がわが家には無くて...」

連載のための取材依頼で連絡すると返ってきたのがこのメッセージだった。
本好きなのに本棚がないとは意外...!
どういうことだろう?

「私の本はぼぼ全て図書館カフェに並べている状況です」

以前、カフェに遊びに行ったとき、友達の家で本棚を眺めている気分になったのはそういうことか!と、納得した。

「図書館カフェ異国」があるのは、高知県東部にある古民家宿の一角。
図書館と名前にある通り、ここにある本は宿泊客も地域住民も借りることができる。
日本各地の飲食店やゲストハウスに本棚を持つ「うみの図書館」と連携していて、借りた本は旅先でも指定の本棚であれば返却できる仕組み。

「ここにあるのは半分がうみの図書館の本で、あとはわたしの蔵書です。国際協力や中東政治に興味があるから、社会問題に関する本も置くようにしています。フェミニズムや暮らし系のエッセイもあります」

机と椅子がある共有スペース、
こたつを置いた和室、
台所のカウンターなど、宿の至るところに本棚が点在する。
お客さんは自席を離れ、思い思いに本棚を眺めて過ごすのが図書館カフェ異国の日常だ。

昔から図書室が好きだった

図書館カフェ異国の店主はハルエさん。
幼少期から読書家な彼女は、もともと、ファンタジーが好きだったそう。
「子どもの頃は、魔法使いになりたかったんですよ(笑)1番、本を読んでいたのは小中学生のときかも」とほほえむ。

小学生のときに推理小説にハマり、中学生になると高知県出身の作家・有川浩さんの作品をよく読んだ。高校時代は、世界の名作集からライトノベルまで、読書の幅はグンと広がる。

学校の図書室にもよく通い、彼女にとって本の世界は身近な存在。
それは大人になってからも続き、旅先では本屋だけではなく、地元の図書館も巡る。
「もともと、図書館が好きなんです。その土地、その土地で、置いている本が違って、それぞれに特徴があるところが楽しい!」

言葉を味わう読書へ

読書に変化があったのは大学生のとき。
授業で必要な本を読むことが増え、子どもの頃のような楽しい読書からは遠ざかっていたそう。
国際政治を勉強したくて大学を選んだハルエさんは
「大学生になったらいっぱい議論するんだ!と思って入学したら、周りはそんな感じではなくて。。。大学が肌に合わず、休学することになったんです」と振り返る。

実家に戻り、ゆっくりと過ごす時間。
心がしんどい時期は誰かの主張を受け入れる余裕もなく、好きな読書からはさらに遠ざかっていった。

「この生きづらさはなんだろう?」と、モヤモヤを抱えていたとき、友人の勧めで海外の作家・J.D.サリンジャーの小説を読んだ。

「ビジネス書のように悩みに対する答えが書いてあるわけではないし、読んでみても分からない部分もあるけれど、それがなんだかよかったんです。文章をただただ味わう感じ。それまでの読書はストーリーを追いかけるものだったから、言葉の意味を味わえるようになったのはこの時期ですね」

少しずつ、ハルエさんの日常に読書が戻ってきた。
ひとつ変わったのは、今まで読んでいなかった“詩“を手に取るようになったこと。
特に、茨木のり子さんの詩集「おんなのことば」(童話屋)にある、「汲む」という詩に救われたという。

「それまで、自分の中にある弱い部分を直さなきゃいけないものと思い込んでいました。弱さも含めて、ありのままの自分を受け入れたらいいと、この詩に教えてもらった気がします。当時は、何をやっても傷ついてしまい、そんな自分に苛立つこともあったけれど、それこそが大事だという、詩の一文に救われましたね」

大学の勉強を頑張ることや目標達成のために努力を重ねることが大切だと思い、それに打ち勝てない弱い自分を閉じ込めようとしていた。
一編の詩が凝り固まっていた心をすーっと解きほぐす。
ハルエさんの中で、少しずつ何かが変わってきた。

「サイズ感がちょうどよくて旅先に持って行きます」

高知で暮らしをつくる

その後、ハルエさんは実家を離れて高知県に行くことを決める。
きっかけは、免許合宿だった。
「以前、免許合宿で高知県安芸市(あき)に来たとき、お昼ごはんを田んぼのあぜ道に座って食べたり、海や空を眺めたり、五感を使う暮らしが楽しくて、楽しくて!そんな高知での思い出が残っていたから、もう一度、行くことにしました」

高知県の里山でみかん収穫のアルバイトやってみたり、移住ポータルサイトで見つけた求人に応募したり。当初、1週間だけだと思っていた滞在は、どんどん伸びていった。
「移住者や地元の人、行く先々で会う人たちからいろんな生き方があることを教わりました。そのときは人生に迷う大学生だったから、こうした出会いのおかげで楽しく過ごせたんだと思います。高知の人はオープンな人柄で、それが心地よくて住み着いちゃったのかも(笑)」

高知県内の各地を巡った後、最初に訪れた安芸市に戻り、高知での暮らしをスタートさせた。


「本に触れる場をつくりたい」

本を借りる時は、カードに記入する。

図書館カフェ異国がオープンしたのは2024年8月。

「ここでの暮らしに慣れて、何か新しいことをやってみたいと思っていた時期。県東部には本屋が少ないので、本がある場所を持てたらいいな〜と思っていました」

いろんな人が来る図書館カフェ異国では、新しい発見もあるという。
本を貸し出すときに何気なく、その本を選んだ理由をお客さんに尋ねてみると、
「普段は読まないジャンルだけれど、おもしろそうだったから」
そんな返事が返ってきた。
またある時は、読書習慣のない飲み仲間が、カフェにふらっと遊びに来て本を開いてる姿を見かけたことも。
「思い返せば、子どものときに本を読んでいたのは、本がそこにあったからだった。本を読まない人が本を手に取ってみるのも、思わぬ本との出会いがあるのも、本がある空間だからこそできること。そんな、何かのきっかけに図書館カフェがなれたらいいなと思います」

ふとした瞬間に、過去に読んだ一冊の本に心が救われることがある。
それは、救われた経験がある人だけが知っていること。
詩や物語から元気をもらったハルエさんが、誰かを励ます日がやって来る。

取材を終えて、本棚を見て回った。
「西の魔女が死んだ」や「ポケット詩集」が並ぶ本棚から、茨木のりこさんの詩集を借りて帰った。

図書館カフェ 異国
毎週月曜日Open
詳しくは、Instagramをご確認ください。
📍Hostel 東風ノ家


#うちんくの本棚

本棚を切り口に持ち主の人柄や暮らしを紐解くWeb連載 #うちんくの本棚 。四国で暮らす誰かの本棚から、日々の暮らしや読書のことなど半径3メートル圏内のことを綴っています。

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