見出し画像

ちょっとレアな車に乗ったよ

「何も聞かずにウチに来い」

突然のLINE、年に4~5回遊ぶ千葉の友達からだ。たいていこの手の連絡は、『物資運搬作業の人手が足りない、軽トラ貸してやるから手伝え。』というのがほとんどだ。(彼は、私が軽トラの運転が好きなことを知っているのだ。)
彼からの連絡には、他にも所要日数や合流地点に関する話もあった。たまたま予定に空きがあった私は、二つ返事で彼の家に向かうことにしたのだった。

友人の家に着く。しかしそこには違和感があった。肝心の軽トラの姿が見えない。それどころか、いつも貸してくれる軽トラがあるはずの場所に見知らぬ車が停まっているではないか。

「こいつはプレオ、富士重工最後の軽自動車だ。」

なんでも話によると、旧車好きの親戚に軽トラを貸し出したところ、代車としてプレオが来たらしい。NAの5MT、しかもワイヤースロットル車だ。プレオは、富士重工株式会社が販売していた軽自動車の一つにして、自社生産された最後の軽自動車の1つでもある。普通軽自動車は軽量化のため、エンジンは3気筒が一般的なところ、本機は4気筒のエンジンを搭載している。(wikipediaより)

「なぁ、乗ってみたくないか?」

彼の口から待ち望んでいた台詞が出る。願ってもないことだ。富士重工製の軽自動車、しかもMTに乗れるなんて次いつあるか分からない。いや、これが最後の機会かもしれないのだ。私は二つ返事で答えた。

「じゃ、そういうことで」

軽い返事。まるでそれを望んでいたかのような。
嫌な予感がした。そうだ、今回の様な連絡は『物資運搬作業の人手が足りない』時に出されるものだったのだ。案の定、彼は家から自転車や家具、複数のコンテナを持ってきてプレオに無理やり詰め込み始めた。運転席は一番前まで出され、助手席は前倒しにされた。運転席から後ろが見えなくなるほど限界まで詰め込まれた荷物。彼はプレオを軽トラか何かと勘違いしてるのではないかと思うくらいの積み様である。

「この荷物を群馬まで運んで欲しい。」

やっぱりか…
半ば諦めた表情で車に乗り込む。手荷物を荷台の空いたスペースに詰め込み、エンジンをかけてみる。ブルンッという音と共に、軽自動車とは思えないほど大きく、軽快なエンジン音が響いた。暖気の間、車内をいろいろ弄ってみた。エアコンスイッチ、シフト、基本的に全てが扱いやすい配置にあり、視界も良いため運転しやすそうだ。ただ、ステアリングは社外品が取り付けられており、ウインカーが触りにくい。ハザードスイッチは何故か、ステアリングの上と横との2箇所ある。シフトは1足の入りが渋かった。

いよいよ出発。半ば無理やり1足に入れ、車を動かす。ミートポイントがやや深いところにあり、クラッチがすぐに繋がる。ガクンという格好つかない発進。幸いにもエンストはしなかった。住宅街を抜け、大通りを走るとプレオはその本性を現し始めた。軽とは思えないほど軽快でパワフルな走り。それでいて扱いやすくリニアなアクセルとブレーキ。ワイヤースロットルのおかげで踏み具合いに応じた加速をしてくれる。今の燃費重視の電子スロットル式軽自動車とは大違いだ。

高速道路に入ると、走行安定性の良さが見えてくる。まるでスポーツモデルの軽自動車と同じような安定感。高速道路を走ってるにもかかわらず直進安定性と剛性感がしっかりしているおかげか、不安感が全く無い。なんて素晴らしい車だろう。今新車で買える車よりもよっぽど運動性能が良いではないか。プレオの性能に感極まっていた私。しかし事件とはふとした時に起きるものだ。特に古い車ならなおさらである。

大泉JCTを走行中のことである。5速から4速に入れようとした際、ギャリギャリギャリという異音と共にギアが入らなくなった。登り勾配のため、車はみるみる失速する。後ろからはトラックが何台も押し寄せて来た。まずい、このままでは。そう思っていると、左手に広いゼブラゾーンが現れたではないか。私は無我夢中でそこに逃げた。その後暫くギアを弄って、なんとか2速に入れることに成功した。古い車はどんな危険が潜んでいるかわからない。特にギアボックスにあらかじめ問題があることがわかっていながらその可能性を全く考慮していなかった私にも落ち度があるだろう。とにかく事故にならなくてよかった。少し落ち着くため、私は三芳PAに向かった。

その後は関越道を問題なく走り、無事目的地へ到着した。先に到着していた悪代官(友人)にプレオを引き渡し、無事今回の仕事を終えたのだった。


なお、帰りの新幹線は自費である。






いいなと思ったら応援しよう!