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東京都の子ども医療費助成制度は多摩格差の象徴である

みなさんは多摩格差という言葉を知っていますか?

恐らく、政治に明るい人しか聞いたことがない、行政・政治関係に興味関心のある方は知っているのかなと思います。

どこの自治体にも多かれ少なかれ、自治体間による格差は存在すると思います
それは、単純に人口規模だけではなく地理的な要因・そこにある産業(企業)、住んでいる年齢や収入層など色々な要因が複雑に絡み合った結果であるからだと思います。
人生で初めて、地元から引っ越し(生まれた街は合併でなくなりましたが、その市内でうろちょろしていた)を昨年したのですが、横浜市は伝説のみどり税があり、同じ神奈川県内に住んでいたとしても住民税は高いです。

幸い、私は公園に囲まれたところに住んでいるので利益を享受できている側なので良いと思うのですが、これだって利益を享受できない人もいると思います。

話が脱線しました。

多摩格差というのは、東京都が主に実施・運営している事業や施設などが23区内と多摩地域及び島嶼部で比較すると明らかに差があることを表した言葉です。

毎日新聞に前回の都知事選挙の際に記事にされていたので埋め込んでおきますね。
例えば都立病院については、現在はすべて都立病院が独立行政法人化されたことにより単純な数の差は埋まりましたが、
民営化する以前は
多摩地域3箇所(ただし、成人向け1箇所・小児向け1箇所・神経専門1箇所):23区部5箇所(ただし、1箇所は精神科専門)ということで、
成人向けの治療においても小児向けの治療においても大きな格差がありました。

これが医療費助成制度にも存在しています。今も。

東京都内は医療費助成制度が充実していることは子育て世帯の中では割と有名な話みたいですが、この制度については23区と多摩地域・島嶼部で大きな違いがあります。

まず、乳幼児向け医療費助成制度のことは東京都ではマル乳と表現しており、義務教育向け医療費助成制度のことをマル子、高校生等向け医療費助成制度のことをマル青という略称で表現しています。
(補足ですが、ひとり親家庭等医療費助成制度のことをマル親と言います。)
以下の文章ではこの略称を使用することもありますのでご承知おきください。

まず、原則23区は所得制限がありません。

というか、財源の仕組みが多摩地域と23区で大きく違います。

ここで、出てくるキーワードが都区財政調整制度という制度になります。
通常、他の市町村の場合固定資産税(いわゆる不動産や土地にかけられている税金)は、それぞれの市町村の責任において徴収し安定収入として市町村の大切な財源となっています。
しかしながら、23区においてはその特性上固定資産税等を東京都が一旦徴収し、それを23区へ分配するという制度になっております。

特別区財政調整交付金について

 特別区財政調整交付金は、都及び特別区並びに特別区相互間の財源配分の均衡化を図り、特別区の行政の自主的かつ計画的な運営を確保することを目的として、都が課税・徴収する固定資産税、市町村民税法人分及び特別土地保有税並びに法人事業税交付対象額及び固定資産税減収補塡特別交付金の収入額の一定割合を、各特別区に交付するものです。

 交付金には、普通交付金と特別交付金の2種類があり、交付金の総額の95%が普通交付金、5%が特別交付金となります。普通交付金は、都が各特別区の基準財政需要額と基準財政収入額を算定し、需要額が収入額を超える特別区にその財源不足額に応じて交付し、特別交付金は、災害による財政需要など特別の事情のある特別区に交付します。

https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/05gyousei/04tokubetsukuzaiseichouseikouhukin.html

医療費助成制度についても、23区はこの制度を財源として運用されており原則として所得制限が一律ない形となっています
(以後、財調と略させていただきます。)

ここからは少し雑談ですが。

新年度から初夏にかけて、都が実施する子ども医療費助成制度の事務説明会というのが開催されるのですが、多摩地域と島嶼部は3部まで出なければならないのに対し、区部は2部までとなっています。

なぜかって?
3部は東京都からの補助金の申請書の書き方を説明する場だからです。
多摩地域と島嶼部については、東京都の一部補助金業務として医療費助成制度を運用しています。(上記の記事にもある通り、あくまでも子ども医療費助成制度は東京都においても、各市区町村が実施主体であり各々で条例・規則等の管理や財源の管理を行う必要があります。)

この、東京都から補助金が出る範囲というのがいわゆる所得制限の範囲になります。

ここにある多摩格差。

自分が任されていたマル乳。

東京都は所得制限の範囲内の子ども医療費助成制度については、半額の医療費及び事務費を補助金という形で支給して各市町村へ事務を任せていました。
なので、その業務を担当していた頃はよく庁内では自分の給料の半分は都知事から頂いてるのよ〜笑なんて言っていたものです。

ただ、何度も言っていますが東京都の補助金が出るのは所得制限内の部分のみになります。
23区は補助金の申請の必要もなく、財調にて所得制限もない。
23区で勤務したことは無いので、実態がどうなっているのかはわかりませんが、補助金の申請は本当に骨が折れる作業です。
システム担当や財政担当部署との協議や供覧、財政課との毎年恒例の査定の際にも当たり前ですが補助金がある部分と、独自の事業として運用している部分の金額はそれぞれで査定しなければならず、景気が良いと独自事業分が増え、悪ければ減るので本当にその年によってわからないのです。

僕が実際に業務に携わった際に、補助金として申請できる部分が抜けていることに気がつき補助金の額が大幅にアップし、市の財源の確保に寄与した話は今度ゆっくりします笑

所得制限内・外で区別しなきゃいけない。

当時(2016年頃)でもマル乳については、多摩地域ではほとんど所得制限撤廃し、東京都の補助金が出ない範囲については各市町村の独自財源にて運営されていました

毎年の更新については、児童手当の所得審査が終わったあと7月〜8月ごろに所得の審査をかけていました。もちろんシステムで実施するので手作業ではありませんが、これが厄介。
医療機関に対しても都から、10月1日付で更新されるので公費負担者番号の確認徹底をお願いしますと依頼とともにポスターを配布はしていたのですが、多くの医療機関ではパッと見ただけで持っていればOKという認識の医療機関も多かったのが実情でした。

そもそも、公費負担者番号が変わることは自治体の負担だけではなく医療機関においても負担をかけることになります。
レセプトの訂正を依頼したり、取り下げ依頼をしても「なんでこんなにわかりにくいんだ」と言われてしまうと、どうしようもありませんでした。

事務的な話。

まずシステムがすごく煩雑になっていました笑
判定に誤りがないかもExcelでチェックするという謎の作業もたくさんしました笑

あとは、請求書が社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険連合会からそれぞれ補助分・独自分でくるので支払いを2回ずつ決裁しなければならなかったので毎月4回の大口支払いを行っていました笑
途中からは仕事に慣れ、先輩や係長の分も支払い伝票作成できるようになって言ったので、結果的には良かったのかもしれませんが笑

あくまでも個人的な意見。

東京という土地は、その特性上23区だけで完結していることもなければ多摩地域だけで完結していることもありません

多摩地域の多くの住民は23区へ通勤電車に揺られ、そこで仕事をし多摩地域に帰っていくという人が多いのではないでしょうか。

水道や公営住宅についても、多摩地域があるからこそ成り立っている23区であり、23区があるからこそ多摩地域が成り立っているということを業務をしながら強く感じていました。

念願のマイホームを多摩地域で買いました。でも、医療費助成は受けられなくなりました。
では、なんか悲しくないですか?
今回、年齢が拡大したことは素晴らしいことだと思います。

実際に、高校生になった途端に大きな病気をして医療費助成が受けられないのはきついという市民の声もたくさんありました。
小児慢性特定疾病医療費助成制度のご案内をして、助かったと言われたことも数知れず。でもあの制度は自己負担がありかつ条件をクリアする必要がありました。
高校生が安心して医療にかかることのできる仕組みができたことは本当に喜ばしいことだと思います。

ただ、多摩格差を置き去りにしてしまったことはやはり課題なのでは無いでしょうか。

所得がある=医療へのアクセスが容易であるというのはちょっと違うのかなと思います
ましてや、被保険者に一定以上の所得がある場合家族構成等に関係なく高額療養費制度の限度額は上がります。
(付加給付等もありますけどね)

そういったことから、所得があるから都は補助しない→独自事業ができない自治体では医療費助成が受けられない(マル子・マル青)っていうのは子育てする世帯にはちょっと厳しいのかなと思ったり。
頑張って稼ぐと、サービスの外に追いやられてしまうというのは難しいと本当に感じていました。

窓口や電話でも何度も苦情や苦言を言われました。
でも、各市町村にそれだけの体力があるのかと言われると一律にはありません。(逆を言えば、財源に余裕のある多摩地域の自治体ではマル子でも所得制限なしで運用されてました。)

自分が勤務しているときにも、所得制限撤廃し独自事業として運用するかどうか検討されたこともありましたが、まず読めないんです。金額感として。人数はわかります。が、一人あたりの医療費で単純に計算してそれで本当に運用できるのか。それは一番最初に書いたとおり誰にも保証はできないと思います。

本当に未来の子どもたちへ投資をする、というのなら多摩格差も是正してほしいと強く願っています。

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