Day.7 海外の選手にも伝わる言い方とは
「ベルギー野球 監督奮闘記」のDay.7です。
監督を始めたのが2023年冬のオフシーズン。冬のベルギーは雨が多く気温も低いので、どこのチームもオフシーズンは基本的に室内練習になります。
室内練習といっても、マウンドやボール飛散防止のネットがある訳ではなく、公共の運動施設の体育館を使うので練習内容も本当に限られます。特に打球を飛ばすバッティングなどはできる訳もなく、柔らかいボールなどを使って遊び程度に行うことがほとんど。室内スペースも限られるので、基礎練習を中心にやるしかありませんでした。
今回のDay.7は、そんな限られた環境の室内練習も終わって、嬉しい春到来の4月以降の屋外練習の話。ただ、コーチングは相変わらず四苦八苦の連続です(笑)。
ちょっと話は変わりますが、私が監督をしているのはベルギーのアマチュア野球チームですが、ベルギーだけでなく欧州各国の出身や中南米系の移民のプレーヤーが所属しています。
ベルギー・ブリュッセルはフランス語圏なので、チーム内はフランス語で会話されることが多いですが、色々な国の人がいるので英語もよく使われます。私も基本は英語でコーチングをしますが、やっぱり細かい感覚や動作の話は難しいところがあります。
教えようとすると、こんなフレーズが頭に浮かんできます。野球をやっていた方ならよく聞くような表現ですよね?
「投げる時はトップを作ったら、開かないように壁を意識しよう」
「打つ時はヘッドを返さずそのまま振り抜く意識で」
「バッティングで手を使い過ぎるとするとドアスイングになるよ」
とか、なんとか英語に訳しても通じているのか良くわかりません。
あ、ちなみにドアスイングは和製英語なのでそもそも通じないです(笑)。
日本の野球で使っている英語も変なものがあるので、ベルギーで野球を始めた当初はネットでよく野球用語をチェックしていました。(またこれは別の記事で書きたいと思います)
このように、言語も違うし、日本野球の感覚で教えていることが伝わらない環境で、伝えたいことをどう伝えるか。しかも、日本人のように監督の言うことをしっかり聞いて真面目にやろうとする文化のない土地で、です。
自分が考えた練習メニューをしっかり説明し、その通りやってもらうだけでも本当に難しい。
この練習はこういう感じで、この距離感でやってと言ってやって見せても、時間が経つとぜんぜん自分の思い描いてた練習になってないことなんてザラです。
そういう経験をすると、もうこれは何回も同じことをやって覚えてもらうしかないなと思うし、違う練習メニューをネットで調べたりします。しかし、それでは思考停止になってしまいます。どうやったら上手く伝わるのか、理解してもらえるのかを考えた結果、「キーフレーズ・合言葉を作る」という作戦を取りました。
例えば、選手に伝わりにくい(忘れ去られやすい)例で言うと以下。
NG例:「この捕球練習をやるときは、向かいの人と3~4mくらいの間隔でやって」
この指示はすぐに無視されることになります(笑)。気がつくと、10mくらいの距離感でやってたりします。その時点でマジで全然意味のない練習になってしまう。
そこで、以下の言い方に変えました。
OK例:「この捕球練習は、向かいの人と2トム(2✖️身長1.8mの選手= 約3.5m)でやってね」
そう、数字で言うより、ビジュアルでイメージできる誰かの身長を目安に覚えてもらいます。それからことあるごとに、これは1トムとか、3トムとか言うようにすると、とりあえず距離感は頭の中にインプットされます。まずは距離感さえ間違わなければ、大きくは練習の意図とずれないので安心できるんですよね。さらに今度は、みんなトムの名前をふざけて連呼したりして、「それは2トムじゃなくて3トムだろ!」みたいなツッコミを選手同士でやるようになり、遊び心やチームの距離感も縮まったりします。
他にも、チームのキーワードを作っていきました。
例えば、こちらの選手は感情的な人も多いので、ミスをするとすぐに「ちくしょう!」「くそ!」と言ってプレーを中断して最後までやらないことがよくあります。
そのたびに、「たとえ捕球ミスをしても急いで拾って投げなさい」とか、「三振をしてもキャッチャーがボールを落として振り逃げ(バッターは三振しても、キャッチャーがボールを落とすと一塁に走って良いというルール)できる可能性があるので、集中しなさい」と言っても言うことを聞いてくれない。
そこで、練習の際には「くそ禁止」を合言葉にしました。これは誰かがミスをした時に、「くそ!(フランス語でPutain!)」と言ったら、「くそ禁止!(No Putain!)」と遊び感覚で言うようにしてもらったんです。
他の選手をおちょくって楽しみたい彼らは、ここぞとばかりに「No Putain」を発して、私が指示しなくても自動的に言ってくれるシステムが出来上がりました。男って単純だなあ(笑)。
ちなみに、私はミスした時に「やべっ!」と言うクセはありますが、日本語なので彼らは気づかないのを良いことに練習中に「やべ」を連発している時もあります。ごめんよ、みんな。
それはさておき、こうやってチームの中でキーフレーズだったり、合言葉、モットーなどをわかりやすく作っていくことで、伝える力は上がりますし、チームのカルチャーも作りやすくなります。
このように、試行錯誤しながら私の監督活動は続いていきます。今後は、初めての公式戦のことや選手側からの監督への不満(?)になどについて書いていきたいと思います。
それではまた!