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そのTOKIOちゃうんかい
子どもの頃は今のようにサブスクで聴きたい音楽をすぐに流せるわけではなかった。
音楽を聴こうと思うと、CDを買うかレンタルビデオショップで借りるしかない。
地元のレンタルビデオショップも、じわじわとTSUTAYAに吸収されていく時期だった気がする。
一枚50〜100円くらいでCDアルバムやシングルを借りて、カセットにダビング。
ダビングした音楽をカーステレオやラジカセで楽しんでいた。
一枚あたりが安いからとはいえ、そんなにたくさん借りれないし、再生機も一家に一台しかない。
お金持ちの家にはもう少しあっただろうが。
今みたいにイヤホンで自分の好きな曲を好きなタイミングで聞けるわけではない。
ましてや子どもはウォークマンのようなものを持っていない。
そんな状況もあり、車の中では親の好みの曲(60,70年代ヒットソング)が多くなる。
異邦人、木綿のハンカチーフ、チャンピオン、神田川
「昔の曲ってなんかちょっと悲しいものが多いな」とずっと思っていた。
正直、親の青春時代の曲よりもSMAPやZARD、TRF、B'zばかり聞いていたかった。
たまにオリコンランキングトップ10の曲をまとめて借りて聞くこともあった。あとは幼い兄弟に合わせた特撮やアニソン、童謡も多かった。
だが、耳に焼き付いているのはいわゆる「懐メロ」というものだった。
ある夜、習い事帰りの車の中で、いつもと違う雰囲気の曲が流れた。
いつもならUFOや俺ら東京さ行ぐだが流れそうなものなのに、どうも様子が違う。
習い事は夜9時に終わるので、夜のドライブ。
その夜の雰囲気にマッチしているような。
アップテンポでいつもと違ってきらびやかな曲だと、子どもながらに感じたのを覚えている。
曲が一番盛り上がるところで、衝撃が走った。
トキオ!
と男性がノリノリで歌っている。
「トキオ」が何なのか、私にはわからなかった。
人の名前っぽい。
時男と書くのだろうか。
どうやらトキオさんは二人を抱いた状態で、空を飛ぶのだという。
夜の空をトキオという大きな人が、男女カップルを抱きかかえて飛び回る姿を想像した。
「トキオさんは何者なんだ・・・・・・」
すぐさま母親に「トキオ」が何なのか聞いてみた。
母親は「TOKIOね。東京のことやで」と教えてくれた。
東京が二人を抱いて空を飛ぶ???
意味はさっぱり理解できないが、曲調と歌詞、そして歌声に心を鷲掴みにされた。
「誰が歌ってるん?」
「沢田研二!ジュリー!」
なんで沢田研二でジュリーなんやろうとも思ったが、私は「トーキオ!!」がいっぺんに好きになったのだ。
当時、小6だったと思う。
次の日学校へ行くと女の子たち数人がワーキャー何か騒いでいる。
彼女たちはクラスの中心で、常に流行の最先端を走っている子たちだ。
いわゆる「リア充」だとか「スクールカースト上」だとかそういうカテゴライズが当てはまるかもしれない。
彼女たちと私はたまに遊ぶけど、基本的に話が合わない。
私はどちらかというと”陰キャ”なのだ。
そんな彼女たちは、手当たり次第、クラスメイトに何か同じ質問をして回っているようだ。
「どっちがかっこいいと思う?」とかそういうアンケートだろうか。
もれなく私のところにも来た。
手には自由帳と鉛筆。
「ねえ、こうぶつ〜〜〜!トキオの歌知らない?」
え?
トキオ?
昨日、私が心を鷲掴みされた、あのトキオ??
古い曲なのに、流行の最先端を行くような彼女たちがトキオの曲を知りたいって?!
何たるタイムリーな!!
「知ってる!昨日聞いたばっかし!」
めちゃくちゃ嬉しくて、興奮気味に答える。
彼女たちの顔がぱっと華やいだ。
「歌詞、メモするから教えて!!!」
「もちろん!!!!」
嬉しい。
彼女たちとはウマが合わないと思っていたけど、まさかこんなところで共通の話題で盛り上がれるなんて。
「トーキーオ!!」
自信満々にあの曲を歌った。
「は??」と彼女たちの眉が一瞬で下がった。
なんだかおかしい。
ひっかかりながらも、私は続けた。
しかし、トキオが男女を抱きかかえて空を飛ぶか飛ばないかのあたりで、
「ちゃうし」
「なんそれ」
と彼女たちはチベットスナギツネのような顔をして去っていた。
意味がわからない。
「トキオの歌」って言うてたやん。
「あのさー、こうぶつ、あたしたちジャニーズのTOKIOのこと聞いてるねん」
彼女たちの一人が戻ってきて、教えてくれた。
ジャニーズってSMAPや光GENJIの?
TOKIO?
誰?
「SMAPとか光GENJI以外にいるの?」
「新しくデビューするの✨️」
「アニメのツヨシしっかりしなさい、知らないの?」
残念ながら『ツヨシしっかりしなさい』はそんなに好きじゃなかったから観ていなかった。
どうやら新しくデビューするTOKIOが主題歌を歌っているらしい。
彼女たちはTOKIOのデビュー曲「LOVE YOU ONLY」の歌詞を知りたかったようだ。
そのタイミングで、奇しくも沢田研二の曲に心を鷲掴みにされた私。
タイミング合いすぎやろ。
とんだ恥かいたぜ。