見出し画像

産業用蓄電池の容量選定(記事6)

産業用鉛蓄電池の仕組みが分かったところで、次は蓄電池の容量選定の話になります。
負荷に対してどんな種類の、どの容量の蓄電池を選定すればいいか、の話になります。

※容量というのは、どれだけ電気を貯めこめて、これだけの時間バックアップできる大きさ(容量)の蓄電池か、という意味です。
蓄電池という容器の量と考えていいと思います。

というのも、各蓄電池製造メーカーからはさまざま種類の、しかもさまざまな容量の蓄電池が販売されているからです。
例えば、100 Ah(10 時間率)、500 Ah(10 時間率)、2000 Ah(10 時間率)といった具合にです。
また、通常の放電効率のものや、高放電率タイプのものも販売されています。
使用者は、この中から使用したい負荷に合う容量と種類の蓄電池を選ぶ必要があります。
実際にはメーカー営業に問い合わせて選定してもらってもいいです。
しかしそれでは、健全性がわからないよ、という方の参考になればと思い、書いていきます。

〇時間率について

蓄電池の容量を表すときによく使われるのは、時間率という言葉です。
10 時間率容量(C₁₀)、5 時間率容量(C₅)、1 時間率容量(C₁)といった具合です。

10 時間率容量とは蓄電池を10 時間放電したときの定格容量を表します。
たとえば、100 Ah(C₁₀)の蓄電池は10 A×10 時間=100 Ahです。
100 Ahという容量をきれいに使い切るためには、10 Aで放電する必要がある。
しかも、その状態で10 時間という長時間が必要、という意味です。
単純計算では、100 A×1 時間=100 Ahだから、100 Aを1 時間放電できるかといえば、そうではありません。
蓄電池は化学反応を利用しているからです。
 
MSEタイプの蓄電池では、100 Aでの放電可能時間は、約18分ほどです。
これはあくまでも蓄電池が劣化していない状態で考えて、です。

 
18 分以上放電を続けても電力は取り出せますが、取り出せる電圧がかなり下がってしまいますので、負荷の動作電圧が維持できず負荷停止となる可能性が高いです。
また深放電領域に入ってしまい蓄電池の劣化が早くなります。
ですので、取り出す電力の量を増やしたい場合は、深放電をするのではなく蓄電池を並列に接続するなり、もう1つ上の容量の蓄電池を選ぶなりしたほうがいいです。
寿命が早まってもよければ、深放電でもいいかもしれませんが下手をすると放電2~3回で蓄電池がその機能を失う場合もあるため、あまりお勧めはできません。

ですので、鉛蓄電池を使用する際には放電終始電圧というものが、製造メーカーにて決められています。
MSE型蓄電池 100 Ah(C₁₀)の放電電流と放電終始電圧との関係の一例です。

10 A未満または間欠放電(放電したり放電を止めたりを繰り返す)   1.90 V
10 A程度 1.80 V
17 A程度 1.75 V
23 A程度 1.70 V
65 A程度 1.60 V
65 Aを超える 1.50 V

65 Aを超えるような大きな電流を放電する場合は、放電電流が大きくなればなるほど放電可能時間は短くなります。
制限としては、以下のようになります。

発電機始動用のように、10 秒間だけ500 A(5 C₁₀)といった大電流を放電する場合では、放電終止電圧は1.2 Vまでが限界です。

また300 A(3 C₁₀)を超える放電では、放電時間は1 分以下が許容です。
600 A(6 C₁₀)を超える放電では、放電時間を5 秒以下が許容です。
これ以上の時間放電を続けると、発熱によって蓄電池が破損します。
蓄電池の性能の限界というよりは、構成品の銅バーや金属部分が熱によって破損しないための制限になります。

※蓄電池の業界では、放電量を示す方法としてC(A)という記載をします。
100 Ah(C₁₀)の電池で0.1 C₁₀放電と記載された場合は、100 (Ah)×0.1=10 A という意味です。
300 Ah(C₁₀)で0.1 C₁₀放電なら、300×0.1 =30 Aとなります。
何時間率の容量の蓄電池で、どれだけの電流を放電するのか、という記載をする際に便利なのでこういった記載を使用します。
ですから、100 Ah(C₁₀)の場合なら10 A放電とは記載せず、0.1 C₁₀放電と記載します。
300 Aでは、3 C₁₀と記載します。


蓄電池から放電を始めて端子電圧を確認し、この電圧になったら放電を止めて充電すれば、鉛蓄電池にとって良い使い方です、という目安です。
何分間放電可能、というように時間で管理するのではなく、電圧で管理しているときの目安です。

このような数値が決められているのは、鉛蓄電池の放電特性にあります。
鉛蓄電池は放電直後は活性化過電圧や濃度過電圧のために放電電圧が急激に下がります。
その後電圧が一定になり、放電を継続すると徐々に電圧が下がっていくようになります。
そこからさらに放電を続けると、ある地点を境に急激に電圧が低下します。
ここまでいくと深放電領域に入っています。

放電終止電圧の設定は、この急激に電圧が落ちるもっと前です。
深放電領域に入る前です。

とは言っても、産業用の鉛蓄電池を使用する際には、こんな風に電池電圧をいちいち監視するわけにはいきません。
蓄電池につきっきりになるわけにはいかないからです。
また使用者によっては、そんな長時間かけて小さい電流を取り出すような使い方はしないと思います。

ある程度大きな電流を、1 分とか10 分、1 時間とかで十分なんだ、という人のほうが多いと思います。

ですから、負荷パターンをきちんと割り出して、それにあった蓄電池の容量を選定すれば、蓄電池を使用中に放電終始電圧や放電可能時間をそこまで気にしなくてもよくなります。
(蓄電池の劣化とともに放電終始電圧に達する時間も早くなりますが、そこは今はおいておきます)

〇蓄電池の容量選定

では、実際にはどの容量の蓄電池を選べばいいのか、という話です。
実際に蓄電池を選定する際には、まず使用条件を洗い出す必要があります。
蓄電池にどんな負荷(蓄電池で動かしたい機器)を接続して、その動作条件はどうなのか、です。

① 使用時の温度
② 使用する負荷の定格容量(負荷が100 %での運転時に必要な電力の量)
③ 負荷が電力を必要とする時間
④ 負荷の動作電圧の範囲(例:100 V±10 % つまり 90 V-110 V など)
 
例:
① 25 ℃で使用。
② 負荷の定格容量は500 VA
(負荷を100 %で運転させたときに5 A必要。動作電圧は100 V)
③ 30 分間
④ 負荷の動作電圧は90 V-110 V 

上限の電圧が110 Vですから、2 Vの蓄電池を52 個使用することにします。
というのも、負荷の動作電圧によって鉛蓄電池の必要数が変わります。
公称2 Vの鉛蓄電池なら50 個で100 V、54 個で108 Vです。
ですが実際に54 個使用すると、充電終了直後は112 V程度放電されるので、注意が必要です。
(2.08 V×54 個=112.3 V)
上限の電圧が110 Vであれば、蓄電池は52 個にしたほうがよさそうです。
(2.08 V×52 個=108.2 V)
すると放電する瞬間の電圧は、2.08 V×52 個=108.2 Vです。
下限は90 Vなので、90 V/52 個=1.73 V
これを放電終止電圧として、必要な容量を選定すればいいです。

蓄電池の放電終止電圧を1.73 Vとして、これが深放電にならないような十分な量の蓄電池容量を選定すればいい、という考え方になります。

※補足です。
先ほどは、MSE 100 Ahの蓄電池で10 A未満の放電は、放電終止が1.9 Vと書きました。
しかしここでは、放電終止を1.73 Vに設定しています。
さきほどの容量と放電終止電圧の関係は、以下のように言い換えられます。
10 A(0.1 C₁₀)放電で放電終止が1.9 Vなら、蓄電池の容量は100 Ahになりますよ、という意味になります。
5 Aを30 分間放電で放電終止電圧を1.73 Vにするなら、この5 Aが 深放電域に入らないような容量の蓄電池を選定すればいいです。
例えば、約0.2 C₁₀になるような蓄電池容量を選定すればいいですよ、という意味です。

これらの条件がわかれば、あとは必要な容量を算定する式に当てはめれば、どの定格容量の蓄電池が必要なのか、その数値が出ます。

計算式は以下です。

C(容量)Ah=1/L×【T1×K1】=1/0.8×【5 A×1.1】=6.9 Ah 

よって6.9 Ahの直近上位の蓄電池を選定すればいいです。
MSEタイプの蓄電池のラインナップは、MSE50 Ah、MSE100 Ah、
MSE150 Ah、と続きますので、50 Ahを選ぶしかないです。

※もう1つ補足です。
Lは、保守率とよばれるもので、通常0.8としています。
鉛蓄電池は使用とともに劣化していきます。
新品の頃は放電後すぐに充電すればほぼ100%まで性能がもどります。
ですが劣化が進むにつれて、その戻り具合が悪くなります。
放電後に充電しても、性能の80%までしかもどらなくなった時を、寿命とすることが多いです。
ですから、最初からこの劣化分を見込んだ容量を選定しておこう、というのが保守率の意味になります。
保守率0.8で割っているので、蓄電池は新品のときは必要量の1.25倍の容量があることになります。
最初から劣化具合を見込んだ容量を上乗せしておけば、寿命期でも要求する放電時間を確保できるであろう、という意図です。
水増ししてより大きな容量の蓄電池を購入させよう、という意図ではないです。

T1は、電流値です。
・K1は、K値と呼ばれるものです。

 
蓄電池は何度で使用して、それだけの時間、どれだけ放電するかで放電深度がわかります。
放電し始めてから蓄電池電圧が何ボルトに低下するまで使用するのか。
また何分間放電させるのか。
この電圧と時間と該当蓄電池の放電特性を製造メーカーにて考慮したものがK値という係数になります。

K値についてこういった説明をすると分かりにくいと思いますので、違う言い方をします。
10 Aで10 分間バックアップをしたいんだけど、どの容量の蓄電池を選べばいいの?というときに便利なのがK値の存在です。
K値の表を見ると、放電終止電圧電圧が横軸に、放電時間が縦軸に並んでいます。
ですから、放電終止電圧が何ボルトか分かれば、まずそこからK値が分かります。
放電終止電圧とバックアップ時間がクロスするところの値がK値なので。
あとは10 AにK値をかけて、それを0.8で割れば必要な容量選定ができます。

製造メーカーは各ユーザーに対して個別対応はできないので、いくつかの定格容量の蓄電池を製造しています。
あとは、各ユーザーがその用途にあった蓄電池を算定し、購入して使用するというスタイルになっています。

〇ここからは、実際の負荷容量や選定条件を例に、蓄電池や整流器の容量選定の仕方を書いていきます。

といっても直流電源装置についての簡単な知識を知った上でのお話になるため、まずは直流電源装置について簡単に書いておきます。
整流器の詳しい話は、別の機会に書きます。

下の図が直流電源装置の単線結線図です。

〇整流器について

整流器とは、交流電力を直流電力に変換する装置です。
変換素子としてサイリスタやトランジスタを使用していますが、機能としては交流を直流に変換することです。
下の図は直流電源装置の複線図です。
太い線は給電用です。
細い線は、制御基板へ各電圧や電流のデータを送信し、またサイリスタへの動作信号を送るラインです。

赤で囲んだ部分はサイリスタ素子を使用した整流器です。

交流入力から絶縁トランスを通ってサイリスタ素子へ交流電力が送られてきます。
これを、サイリスタ素子及びそれを制御する基板を使うことで、直流へと変換します。
変換は、下のような感じになります。

①は、交流入力の波形です。
電気が流れる向きが瞬間瞬間で変わります。

②は、サイリスタ素子を通ったところです。
点線部分が反転されることで、③のようになります。
電気の流れる向きが一方向になります。
(図でいうと、マイナス側には電気が流れなくなる、という意味です。)

③を合成すると、④のような電圧の波形になります。
まっすぐな直流電圧ではなく脈動(リップル)がありますが、これも直流です。
これをさらに直流リアクトルやコンデンサ、蓄電池を使ってある程度除去します。
そうすることで、負荷へは極力脈動を除去した直流電力を送っています。

〇負荷電圧補償装置(ドロッパ)

整流器および蓄電池の下流側に取り付けられている機器です。
この機器の下流側の電圧を、決められた値に自動的に調整する機能を持っています。
下は概略図です。
太い線は負荷への給電用です。
細い線は、制御基板の電源や制御用電圧、MC等の制御用のラインです。

構成部品は、SID(ダイオード)、MC(マグネットコンタクタ)、制御基板です。
MC21が動作すると、それに連動してMC21のスイッチが閉じます。
※ダイオードは図では1個しか記載してませんが、実際にはSID21にはダイオードが7個直列に接続されています。
ダイオードに電気を流すためには0.7~1 V程度が必要です。
つまりダイオード1個あたり0.7~1 Vの電力損失があるわけです。
ダイオードを7個通すと、ダイオードの前後での電位差がおよそ7 Vになります。
7 V電圧が下がる、ということです。
制御基板は、SIDを通過させるかさせないかを制御しています。
電気通路にあるMC21、MC22スイッチを開くか閉じるかを制御するためのMC21、MC22を制御しているわけです。
制御の方法は、負荷への電圧をモニターして基板内のスイッチ①、②を開くか閉じるかを判断しています。

なぜこんな機器が必要なのか。
例えば、負荷の動作電圧が90 V~110 Vだとします。
こういった場合は、蓄電池の数を54 個直列に接続するのが一般的です。
MSEタイプの蓄電池だと、1個あたりの充電電圧は2.23 Vが製造メーカーで推奨されています。
2.23 V×54 個=120.4 V となります。
これが蓄電池54 個の充電電圧で、整流器か
ら出力される直流電圧になります。
充電電圧は、これより高くても低くても蓄電池に良くありません。
しかしこうなると、整流器から負荷へも120.4 Vが供給されてしまうため、負荷が壊れてしまいます。
そこで、負荷電圧補償装置をつけることで、整流器運転時でも蓄電池給電時でも負荷電圧を90~110 Vの範囲に制御しています。
動作としては、以下のようになります。

①整流器からの給電の場合

下の青い線が給電ラインになります。
SID21、22を通っていますので、ダイオードを14個通っています。
つまり、負荷へ給電される電圧は、120.4 V-14 V=106.4 Vとなります。
実際に測定してみると、もう少し下がって104.5 V程度になります。

②蓄電池給電の場合その1

停電が起きて整流器が停止すると、蓄電池放電になり負荷へ給電される電圧は113 V程度に落ちます。
そこから活性化過電圧や濃度過電圧、抵抗過電圧によって蓄電池電圧はさらに低下します。
仮に113 VからSID21、22を通過させると、電圧は113 V-14 V=99 Vとなります。
放電を続けると電圧はどんどん下がっていきます。
制御基板は電圧が95 Vまで下がったのを検知すると、①のスイッチを開きます。
するとMC21への電力供給が止まり、MC21のスイッチが開きます。
結果としてSID22を通過しなくなるので電圧が95 V+7 V(SID22分)=102 Vとなります。

③蓄電池給電の場合その2

その後も蓄電池から放電を続けると、再度95 Vまで電圧が低下してきます。
すると今度は基板の②が開き①が閉じます。
するとMC22の通電が無くなり、MC21が通電します。
結果としてSID21、SID22を通らなくなるので、再度電圧が102 Vまで上がります。
その後蓄電池の電圧が90 Vまで下がった場合は、負荷が落ちます。
負荷電圧補償装置とは、このような動作をしています。

〇蓄電池および整流器の容量選定

ここからは、実際の負荷パターンから蓄電池と整流器の容量選定をしていきます。
まず最初にするべきは、電力を供給したい負荷の動作電圧と定格容量を決めることです。

・操作・制御用直流電源装置

電気室内のVCB操作および制御用の蓄電池および整流器の選定について見ていきましょう。
下の表は、ある現場の電気室の負荷パターンです。

これが分かれば、蓄電池の容量選定ができます。
使用する環境が屋内であれば15 ℃、屋外なら5 ℃としてより悪条件での選定とします。
この表から、ドロッパー無しで15 A ドロッパー有りで10 A必要となります。

ドロッパー無しの負荷は操作用なのでバックアップ時間は1秒以下となります。
ですが蓄電池容量を選定する際には、最小単位が0.2 分(12 秒)なので、0.2 分で計算します。
ドロッパ有りの負荷は常時負荷と呼ばれるもので、常に電力が必要な負荷が多いです。
ですからここでは10 分間バックアップとして計算します。
容量を求める式は、以下になります。

容量(C)=1/L[K1×I1 + K2(I2-I1) + K3(I3-I2) + ・・Kn(In-In‐₁) (Ah)

Lは保守率です。
蓄電池は容量の80 %まで低下したときに寿命と判断します。
よって最初に1/0.8 つまり1.25倍しておくと、寿命期になっても負荷への給電が10 分間できる計算になります。
保守率を考慮しない場合は、寿命期になったときには負荷へのバックアップが十分にできない可能性があります。

人によっては、保守率を考慮せず選定する場合もあると思いますが、それは個々の判断になります。

上の式に数値を当てはめると、以下になります。
容量(C)=1/0.8[(0.736×10) + 0.52×(25-10)]
    =1/0.8[7.36 + 7.8]
    =1/0.8[15.16]
    =18.95

※9.8 分放電のK値:0.736 
※0.2 分放電のK値:0.52

下の図は、放電パターンです。

蓄電池は、18.95 (Ah/10時間) 以上のものを選定すればいい、ということになります。
MSEタイプの鉛蓄電池では、最小で50 Ah/10時間 となるので、これを選定します。

※補足です。
蓄電池容量の選定方法は上記です。
しかし蓄電池の容量選定の方法は、タイプ別で2つの計算方法になります。
①放電電流が時間経過とともに増えていく場合
②放電電流が時間経過とともに減少する場合
③放電電流が時間経過とともに減少し、再度増える場合

①は、上記の通りの計算式で問題ありません。
②、③については、この補足に記載しておきます。

②放電電流が時間経過とともに減少する場合
例えば上記の場合で、まず停電時すぐにドロッパ無し15 Aと、
ドロッパ有り10 Aが必要になったとします。
そしてその後はドロッパ有り10 Aのみの放電が必要、となった場合には、以下の放電パターンになります。

これが放電電流が時間経過とともに減少する場合に該当します。
この場合は、電流が減少しているところで区切って計算する必要があります。
下の図のように、CaとCbを計算して、数値が大きいほうの容量を選定する、というのが一般的です。

計算すると分かると思いますが、電流が減少すると、計算では蓄電池の必要容量がどんどん減少します。
しかし初期に放電する電流量が最大であるので、ここで必要量を放電できるだけの蓄電池容量は必要なわけです。
結果として、初期の放電量を確保できれば後は残りの容量で放電できる場合が多いため、こういった選定方法になっています。

公式に当てはめて計算すると、以下のようになります。

容量(C)=1/L[K1×I1 + K2(I2-I1) + K3(I3-I2) + ・・Kn(In-In‐₁) (Ah)
   Ca=1/0.8[0.52×25]
    =1/0.8[13]
    =16.25

   Cb=1/0.8[(0.74×25) + (0.736×(10-25)]
    =1/0.8[18.5 + (-11.04)]
    =1/0.8[7.46]
    =9.325

※10 分放電のK値:0.74
※9.8 分放電のK値:0.736
Cbの計算は、下の図のようにまず青い部分を計算して、そこから赤い部分を引いている、ということです。

CaとCbを比較して、数値の大きいCaの16.25を採用します。

③放電電流が時間経過とともに減少し、再度増える場合
例えば上記の場合で、まず停電時すぐにドロッパ無し15 Aと、
ドロッパ有り10 Aが必要になったとします。
そしてその後はドロッパ無し10 A放電が必要になったとします。
その後再度、一瞬だけドロッパ無し15 Aとドロッパ有り10 Aが必要になったとしましょう。
すると放電パターンは下の図のようになります。

この場合は、下の図のように2パターン計算する必要があります。

CaとCbを比べて、大きいほうを採用する、ということです。
計算すると、以下のようになります。

容量(C)=1/L[K1×I1 + K2(I2-I1) + K3(I3-I2) + ・・Kn(In-In‐₁) (Ah)
   
Ca=1/0.8[0.52×25]
    =16.2

   Cb=1/0.8[(0.74×25) + (0.736×(10-25) + (0.52×(25-10)]
    =1/0.8[(18.5) + (-11.04) + (7.8)]
    =1/0.8[15.26]
    =19.075
Cbの計算は、下の図の青い部分を計算して、そこから赤い部分を引き、そこへ緑の部分を足していることになります。

CaとCbを比較して、大きいほうの19.075を採用します。

蓄電池の容量計算は、放電パターンによってこのように変わります。
ですから、まず放電電流と放電パターンをしっかりと決める必要があります。

〇電池の容量が決定したら、次は整流器の選定となります。

整流器は、蓄電池への充電電流と負荷への電流供給ができるだけの容量で十分です。

選定の決まりは、下の表に沿って行います。

蓄電池への充電電流は、蓄電池容量の1/10が一般的です。
つまり、50 Ahの1/10なので、充電電流は5 Aとなります。

また、VCB操作用の負荷は基本的には整流器からではなく、蓄電池から供給される、と考えていいです。
VCBが遮断され、また再投入するような状況では、商用電力が停電中の可能性が高いからです。
ですから、VCB操作用を整流器容量には含めなくてもいいです。
ではVMC投入用は?となりますよね。
力率改善コンデンサの上位側についているVMCは、投入で3 A 以後保持するために0.05 Aとなっています。
こうなってくると、後は使用者と相談となります。
ドロッパ無しの電流値は余裕を見て10 Aとしているので、VMC込みで見てもいいぐらいの電流値だと思われます。
VMCはそこまで頻繁に動作しないけれど、選定に入れてほしい。
整流器容量が大きくなってもいいから、となれば、VMC電流も考慮します。

→VMCを考慮しない場合は、以下になります。
充電電流 5 A + 負荷電流 10 A = 15 A
整流器の容量は、その直近上位の 15 A を選定することになります。

→VMCを考慮する場合は、以下になります。
充電電流 5 A + 負荷電流 13 A =18 A
整流器の容量は、直近上位の 20 Aを選定することになります。

・発電機始動用直流電源装置

大型の非常用発電機のセルモーターを回して、非常用発電機を始動するための蓄電池および整流器の選定になります。
下の図は、発電機の始動パターンの図です。

基本的に、満充電状態から5回は発電機を始動できる容量を選定します。
※最近では3回始動でもいいようですが・・・・・

まずは蓄電池の容量選定です。
1100 Aを20 秒間放電し、その後160 秒間休止、というサイクルを5回繰り返すパターンです。
合計740 秒になります。
これは間欠放電(放電と休止を繰り返す)になります。
この場合は、下の図のような放電パターンに置き換えることができます。

休止時間中も放電しているとみなして、1100 A×4回の電流分がずっと放電しているとみなして考えます。
上の図の最後の20 秒間は1100 Aを放電します。
ですからその直前までの720 秒間で、合計1100 A×4回分の電流量をずっと流し続けているとみなします。

上の図のように、(20 秒×9)×4サイクル=720 秒となります。
20 秒を起点にすると、9×4=36サイクルで720 秒ですね。
ですから、合計1100 A×4回=4400 Aを36等分すれば、20秒を起点とした電流の平均値が出ます。
4400/36=122.22222
      ≒122 A

あとはこの放電パターンのK値を求めれば、蓄電池容量の選定ができます。
発電機始動用に使用する蓄電池の放電終止電圧は、1.2 V以上とします。
1.2 Vを下回る放電をすると、深放電となり蓄電池の劣化が早まります。
また、蓄電池が充電できなくなる可能性もあります。

下の表が発電機始動用のK値の抜粋です。

今回の蓄電池選定条件は、周囲温度5 ℃、放電終止電圧1.2 Vとします。
20 秒放電のK値が記載されていませんが、25 秒で代用して0.180とします。

720 秒のK値はこの表にはありません。
こういった場合には、K値は以下のような式で求めます。
K=Kⅿ - Tⅿ + T
※T(時)です。1時間単位です。
・Km:表に記載されているK値の最大値、MAX
・Tm:表に記載されている時間の最大値、MAX

上の表でいえば、5 ℃のKmは0.265です。
Tmは165 秒/3600 秒=0.04583333≒0.046(1時間単位の換算のため)
720 秒は、1時間単位に換算すると、720 秒/3600 秒=0.2

よって720 秒のK値は、以下です。
K=Kⅿ - Tⅿ + T
  =0.265 - 0.046 + 0.2
  =0.419

これを蓄電池容量計算式に当てはめれば、以下となります。
容量(C)=1/L[K1×I1 + K2(I2-I1) + K3(I3-I2) + ・・Kn(In-In‐₁) (Ah)
    
=1/0.8[(0.419×122)+(0.180×(1100-122)]
    =1/0.8[51.118 + 176.04]
    =1/0.8[227.158]
    =283.947
よって、直近上位のMSE300 Ahの蓄電池を選定します。

整流器は蓄電池充電のみになります。
発電機始動用の充電電流は、蓄電池容量の1/50で良いとなっています。
よって、300 Ah/50=6 となるため、直近上位の10 Aの整流器を選定します。
単線結線図では、下のようになります。

充電電流は小さいので、電線は2sqでも十分です。
ですが蓄電池からの放電電流は大きいので、250sqが2本必要になります。
整流器の電圧は蓄電池電圧よりも高いので、蓄電池からの放電電流が2sqの電線を流れません。

・非常照明用直流電源装置

非常照明は停電時に点灯する照明です。
よって蓄電池からも停電時にしか電力供給がされません。
下の表が非常照明の負荷容量です。

必要容量の合計は6180 VA、動作電圧は100 Vとなっています。
よって6180 VA/100 V=61.8 Aとなり、必要な放電電流が出せます。

ここで注意が必要です。
非常灯が蛍光灯なら、動作電圧は100 Vと考えていいです。
90 Vを下回れば、消灯します。
ですがLED灯の場合、80 Vでも点灯します。
ですから、放電終止電圧を何 Vに設定するかを決める必要があります。

動作電圧は100 Vなので、蓄電池の個数は50 個直列に接続すると考えましょう。
→90 Vを放電終止電圧とするなら、蓄電池1個あたりの放電終止電圧は
90 V/50 個=1.8 V

→80 Vを放電終止電圧とするなら、蓄電池1個あたりの放電終止電圧は
80 V/50 個=1.6 V

今回は、放電終止電圧を1.6 Vとして考えてみましょう。
周囲温度は15 ℃、放電時間は30 分、必要な放電電流は77.25 Aです。
動作電圧は100 Vでその時の放電電流は6180 VA/100 V=61.8 Aです。
しかし電圧が下がるにつれて流れる電流量は増加するため、77.25 Aで計算します。
放電パターンは以下の図の緑線になります。

放電終止電圧1.6 VのK値は、以下の表になります。
15 ℃、30 分では、0.98になります。

これを蓄電池容量計算式に当てはめれば、以下となります。
容量(C)=1/L[K1×I1 + K2(I2-I1) + K3(I3-I2) + ・・Kn(In-In‐₁) (Ah)
    =1/0.8[0.98×77.25]
    =1/0.8[75.705]
    =94.631

よって蓄電池は直近上位のMSE100 Ahを選定することになります。

蓄電池容量が分かれば、あとは整流器容量を決めればいいです。
整流器は蓄電池の充電のみに使われるので、それを考慮すればいいです。
消防設備用非常電源にあたるため、充電電流は1/15でいいです。
100 Ah/15=6.66
よって直近上位の10 Aの整流器で十分です。

単線結線図では、以下のようになります。

※補足です。
上の結線図のMCは、マグネットコンタクタと呼ばれるものです。
ある電圧になったらMCを動作させて、回路を切り離す役割をします。
過放電防止に使用されます。
つまり、停電して蓄電池放電が続いたとして、蓄電池電圧が80 Vを下回ったときにMCが動作すれば、蓄電池からはそれ以上放電されません。
深放電を防げるので蓄電池保護になります。

ですが、消防法ではMCの動作電圧は、鉛蓄電池1個あたり1.5 Vと決められています。
つまり、1.5 V×50 個=75 Vまでは回路を開放してはいけないわけです。
放電終止を1.6 Vと決めても、1.5 Vまでは放電し続けてしまう、ということです。
MCの設定値を1.6 Vに変更することは可能ですが、法令違反になるのでおススメできません。

MCの設定値と、蓄電池の放電終止電圧に差異があることは知っておいてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?