産業用蓄電池について(蓄電池の種類・充放電反応の詳細)(記事5)
蓄電池というのは、電気を貯めておくことができます。
そして好きな時に電気を取り出せます。
それだけではなく、時間をかければ小さい電流でも充電が可能です。
そして取り出せる電流は、充電していた電流よりも大きくもできます。
ある程度の大放電が可能ということです。
蓄電池はエンジン始動用のように、瞬間的に大電流を流す使い方もできます。
また少ない電流を長時間流し続ける使い方もできます。
蓄電池に求められるのは、ため込んだ電力を如何に損失なく放出できるか、です。
また放出できるまでの時間を如何に短くできるか、です。
また、如何に素早く充電できるか、も求められます。
ため込んだ電力を損失なく放出できれば理想ですが、そんなにうまくはいきません。
必ずエネルギー損失は生まれてしまいます。
また、電力が必要になって放出するまでの時間も、0ではありません。
また、満充電になるまでにもある程度の時間が必要になります。
ここからは、こういったものの理由はなぜなのか。
何が要因となっているのかを書いていきます。
具体的には、極板の構造や活物質、水溶液等をもっと詳しく見ていくことになります。
ここでは下の図についてのお話になります。
この図を見て何となく理解できる方は、これ以降は読まなくていいと思います。
時間がもったいないので。
その前に、まずは産業用鉛蓄電池の種類と特徴について簡単に書いていきます。
〇産業用鉛蓄電池の種類と特徴
産業用鉛蓄電池は、大きく2つに分類できます。
それぞれ性質が異なります。
産業用鉛蓄電池は、大きくわけて2種類に分かれます。
開放型鉛蓄電池と、制御弁式鉛蓄電池というものです。
・開放型鉛蓄電池
液式とも呼ばれます。
蓄電池のケースは透明で、外観から蓄電池内部が確認できます。
半透明のものもありますが、それは蓄電池内部を確認できません。
蓄電池内部には希硫酸がたっぷりと入っています。
極板はPb-Sb合金を使用しているため、水素過電圧が低くなります。
つまり水の電気分解が起きやすいです。
また極板の劣化が進むと、蓄電池を放電していない状態でも勝手に内部で放電してしまう(自己放電)現象が起きます。
充電をし続けると水の電気分解が進むため、水溶液の減りが早いので定期的な補水が必要になります。
また寿命も比較的短いです。(一般的なもので3~5年です)
※Sbを使用する理由液式タイプの鉛蓄電池は、劣化してくると極板にSb(アンチモン)が露出してしまいます。
これが水素過電圧を低下させます。
水素過電圧が低下すると、充電中に低い電圧でも水素ガスが発生してしまいます。
また自己放電量が多くなるのも、このSbのためです。
液式タイプの蓄電池は、希硫酸水溶液の量が多いために時間が経過してくると、水溶液中のイオン分布に偏りができてしまいます。
硫酸イオンは重いために水溶液の下のほうへ移動し、水素イオンは軽いため上のほうへ移動していきます。
すると極板の下側だけ酸化し始めるという現象がおきてしまいます。
また放電や充電にも影響が出てきます。
これを防ぐためには、希硫酸水溶液をまぜる必要があります。
水素ガスが極板で発生してくれれば、それがボコボコすることで水溶液の拡散が起きます。
これをうまく利用するために、Sbが添加されています。
・制御弁式鉛蓄電池
メンテナンスフリー(保守不要)を目的とした鉛蓄電池です。
ケースが透明でないので、内部が見えません。
開放型と違い電解液の量がかなり少ないです。
充電をしても内部の水が減らない仕組みになっています。
よって補水が不要です。また密閉された構造になっているために、蓄電池を横にしてもさかさまにしても水溶液が漏れません。
日常の維持管理も簡素化されています。
しかし高温にかなり弱いです。
周囲温度が35 ℃を超えると蓄電池の寿命が半減します。
50 ℃にもなると、蓄電池としての機能を失うことが多いです。
〇鉛蓄電池の電極及び活物質の構造及び特徴
ここからは、電極とそこにくっついている活物質(二酸化鉛や鉛)について書いていきます。
鉛蓄電池の極板には、鉛系の合金が使われています。鉛の純度を最も高くすると、硫酸(およびその他)に対して耐蝕が高くなります。
浸食されないということですね。
鉛蓄電池には希硫酸を使用していますから、時間とともにどうしても極板は浸食されます。
ですからなるべくそれに強い金属を使用したほうがいいです。
ですが、純度が99.99 %~99.997 %の鉛では使い物になりません。
というのも、引っ張られる力に対して弱いし圧縮強度も弱く、また硬さも低いためです。
鉛は手で簡単にちぎれるほどに、機械的な強度は低いです。
純度99.99%の鉛をそのまま電極板に使用しても、すぐに変形してしまいます。
蓄電池の電極には、『活物質』という化学反応を起こすための物質がくっつけられています。
鉛蓄電池の正極表面には、粉状の粒子が小さい二酸化鉛が無数に存在しています。
負極板には、粉状の粒子が小さい鉛が無数に存在しています。
これらを保持するためには、ある程度の重さには耐えられなければいけませんが、純鉛ではそれすらも難しいです。
ですから鉛蓄電池の電極板の材料としては、鉛合金が使用されています。
Pb-Sb、Pb-Ca系と呼ばれるものです。
合金にすれば、ある程度の強度が期待できます。
それでもかなり力を入れると、手で曲げられるほどですが。
この合金にも、欠点はあります。
〇Pb-Sb合金
開放型蓄電池のところで書きましたが、Sbが水素過電圧の低下を引き起こします。
つまり低い電圧でも水の電気分解がどんどん起きるようになります。
ですから鉛蓄電池を充電していると水溶液の減りが早くなります。
また自己放電を引き起こす原因になります。
〇Pb-Ca合金
高温下や過酷な環境下での使用時には極板の寿命が低下します。
よって現在では、正極板にはPb-Sb系合金を、負極板にはPb-Ca系合金を使用したハイブリッド型が主流となっています。
これらの極板表面に活物質の小さい粒が無数にくっついています。
活物質である二酸化鉛同士および鉛同士は、くっついているのですがその間には空間もあります。
密集しすぎてまったく隙間がなければ、二酸化鉛及び鉛同士の間に希硫酸が入っていけず、化学反応が起きないためです。
離れず、でも密集しすぎずの絶妙な距離感を保っています。
〇活物質
次は活物質についてです。
活物質としては正極板の二酸化鉛、負極板の鉛、水溶液中の硫酸水素イオンがあります。
これらをもう少し詳しくみてみましょう。
二酸化鉛は電気をよく通す伝導体です。
結晶性の微粒子集合体なので、多孔性です。
海にいるサンゴのように、表面がデコボコでたくさんの孔があります。
こうすることで水溶液と反応する表面積を増やしています。
鉛は海綿状鉛と呼ばれるもので、こちらも多孔性です。
鉛は伝導率があまりよくありません。
ですから伝導率がよい活性炭の粒を混ぜ合わせています。
またそれとは別の用途ですが、硫酸バリウムの粒も混ぜ合わせています。
鉛蓄電池放電後に生成される硫酸鉛は、絶縁体なのでそれ自体は電気を流しません。
これらを踏まえた上で、放電時及び充電時に鉛蓄電池の極板では活物質がどんな風に変化しているか、詳しく見てみましょう。
〇鉛蓄電池の放電時の反応
負極板の海綿状鉛及び正極板の二酸化鉛は、表面がつるつるしたものではありません。デコボコしており孔がたくさん空いています。
放電時は水溶液中の硫酸水素イオンがこの孔の中にまで入り込んできます。
つまり多孔性のための表面積がとても広いということです。
表面がつるつるで孔が無いと、表面積が少ないために反応できる量が減ります。
多孔性のおかげで、鉛および二酸化鉛と、水溶液中の硫酸水素イオンが反応できる量が増えます。
結果として、短時間の大電流放電または小電流を長時間放電することが可能になります。
放電後の正極、負極には硫酸鉛が付着します。
〇鉛蓄電池の充電時の反応
ある程度放電してしまった鉛蓄電池の両極に、外部電源を接続して充電をするときの反応を見てみましょう。
まずは負極板からです。
鉛蓄電池は放電させたとしても完全放電させていなければ、負極板表面には鉛と活性炭と硫酸鉛がそれぞれ隣り合うように存在することになります。
この状態で充電をかけると、負極板表面から電子が硫酸鉛まで到達できます。
極板についている鉛及び活性炭が電子の通り道となって、硫酸鉛までの道ができるからです。
このような電気の通り道のことを電導パスと呼んでいます。
硫酸鉛は絶縁体ですが、電子はごく薄い層であればトンネル効果という現象で通過できます。
このような過程で、充電時は硫酸鉛の分解が進行します。
電導パスが多ければ硫酸鉛への電子供給が多いでしょう。
しかし鉛蓄電池の放電量があまりに多く、電導パスを担っていた鉛までもが硫酸鉛に変化してしまえば、電導パスを担うのは活性炭のみです。
そうなると硫酸鉛までの電導パスが減るか、もしくは電導パスがなくなってしまう可能性もあります。
上の図でいえば、硫酸鉛①、②、③へは電導パスが残っています。
しかし硫酸鉛④、⑤、⑥、⑦、⑧には電導パスが無いため、分解できません。
ですから鉛蓄電池は深放電(決められた電圧を超えての使用)は推奨されていません。
※補足です。
放電終止電圧(放電をやめる電圧)が1.75 Vと設定されていれば、それ以上放電することを深放電と呼んでいます。
放電終止電圧が1.6 Vと設定されていれば、そこで放電をやめたほうがいいです。
鉛蓄電池では、放電電流の大きさと放電終止電圧が決められています。
放電終止電圧に達した場合には、極板に生成される硫酸鉛の割合が全体の40%~50%になっています。
この状態であれば、まだ鉛が半分以上残っているので電気の通り道が確保されています。
硫酸鉛へも電気が通るので、充電すれば硫酸鉛が分解できます。
深放電をすればするほど、硫酸鉛がどんどん生成されて、全体を占める割合が増えます。
同時に鉛はどんどん減ります。
すると、電気の通り道がどんどんと減るわけです。
深放電をすればするほど、蓄電池の充電ができなくなる確率が上がります。
深放電をした蓄電池に充電をかけて正極と負極の電圧を測定すると、2 Vが計測されます。
ですから充電できているように見えますが、見かけ上だけです。
実際には硫酸鉛が十分に分解できていなければ、放電後すぐに電圧が急激に下がります。
蓄電池としては用を成さないことになります。
製造メーカーが出している値ですが、1例では、以下の通りです。
100 Ah(10時間率)の鉛蓄電池
10 A未満または間欠放電(放電したり放電を止めたりを繰り返す) 1.90 V
10 A程度 1.80 V
17 A程度 1.75 V
23 A程度 1.70 V
65 A程度 1.60 V
65 Aを超える 1.50 V
10 A未満の電流をずっと放電して1.90 Vまで達するには、相当な時間がかかります。
つまりその間ゆっくりと硫酸鉛が生成され続けます。
1.90 Vになる頃には、硫酸鉛が全体の40 %~50 %になっている、ということです。
65 Aを超える放電では、数秒~数分で1.50 Vに達します。
ですから、ここで放電をやめてください、という意味です。
続いては正極です。
こちらも鉛蓄電池を完全放電させていなければ、正極板表面には二酸化鉛と硫酸鉛がそれぞれ隣り合うように存在することになります。
この状態で充電をかけると、硫酸鉛からの電子が正極板まで到達できます。
正極板の二酸化鉛は良伝導体ですから、硫酸鉛と隣り合っていれば、極板との間の電子の通り道になってくれます。
・最後に水溶液中の硫酸水素について、ですが、こちらは何度も書いている通りですので省略します。
〇鉛蓄電池の劣化のメカニズム
ここからは、使用するにつれて鉛蓄電池がどのように劣化していくのかを見ていきましょう。
劣化の代表的なものは、以下の4つになります。
① 正極板の腐食
② 正極・負極の活物質の劣化・脱落
③ 正極板界面の不導体層の形成
④ 硫酸鉛の蓄積(サルフェーション)
順に見ていきましょう。
① 正極板の腐食
正極板は鉛合金でできています。
産業用の鉛蓄電池というのは、放電していないときは自動的にずっと充電していることが多いです。
そういった装置に組み込まれていることがほとんどなので。
鉛蓄電池を充電すると、正極板自体は酸化されてPb→PbSO₄→PbO₂と変化します。
その結果、二酸化鉛が正極板表面を覆うので極板内部の鉛合金は保護されることになります。
しかしこの被膜は完璧ではなく、わずかですが被膜に隙間ができます。
その亀裂部では二酸化鉛被膜の内側の鉛が酸化され、Pb→PbSO₄→PbO₂の変化がおきます。
このように二酸化鉛への変化が続くことを『腐食』と呼んでいます。
二酸化鉛は鉛よりも体積が大きいため、二酸化鉛の腐食層がある程度厚くなると、極板から剥がれ落ちます。
または体積膨張により極板が変形したり、切断されたりします。
この剥がれ落ちた二酸化鉛層が正極板と負極板の間に接してしまうと、微細な短絡が起きたりします。
また、極板の変形や切断は、電気の通り道を狭くします。
結果として鉛蓄電池から取り出せる電気の量が減ります。
② 正極・負極の活物質の劣化・脱落
正極活物質は、充放電を繰り返すと『軟化』と呼ばれる活物質の劣化がおきます。
正極活物質の二酸化鉛は、粒子同士の結合が弱めです。
ですから使用年数とともに粒子が破壊されて細分化して、最後には極板から落ちてしまいます。
活物質が脱落してしまうと、当然ですが鉛蓄電池から取り出せる電気の量が減ります。
負極板の活物質の鉛は、結合力は強いので極板からの脱落は少ないです。
使用年数とともに多孔度が落ちてしまうために、電解液との反応性が落ちてしまいます。
③正極板界面の不導体層の形成
②で書きましたが正極板の活物質は充放電を繰り返していくと次第に軟化が起きます。
すると正極板表面と活物質の密着が低下していきます。
そうなってくると正極板表面と活物質との界面(接触面)に希硫酸中の硫酸イオンが侵入してきます。
すると正極板表面にPbSO₄の被膜ができます。
通常の放電では、正極活物質のPbO₂が硫酸鉛に変化していたのですが、極板表面と活物質との間に硫酸イオンが入り込んだためにこれと極板の鉛が反応してしまったのです。
充電すると、この表面にできた硫酸鉛が二酸化鉛に変化します。
そして放電時にはこの部分が優先的に放電して硫酸鉛に変化するため、正極活物質との電導パスが切れてしまいます。
これが不導体層とよばれるものです。
④ 硫酸鉛の蓄積(サルフェーション)
主に負極の表面に起きる現象です。
鉛蓄電池を放電した後に充電せずそのまま放置すると、極板表面の硫酸鉛が肥大化して、充電をしても分解されにくくなります。
深放電をした場合も、肥大化して分解されにくくなった硫酸鉛ができます。
鉛蓄電池を放電させると、極板表面に微細な硫酸鉛結晶が生成されます。
最初は小さい粒子の集まりですが、時間が経つにつれて大きな結晶へと成長します。
オストワルド熟成とよばれる現象のためです。
大きな粒子と小さい粒子が水溶液中にあると仮定します。
小さな粒子は水に溶けだして水溶液中を移動して、大きな粒子に再度沈着する性質があります。
これをオストワルド熟成と呼んでいます。
小さい粒子を消費してより大きな粒子に成長する、と見てみもいいかもしれません。
これが別の硫酸鉛結晶の表面上に、硫酸鉛として析出することで硫酸鉛が肥大化します。
つまり、硫酸鉛の総数は減りますがその代わりに肥大化した硫酸鉛ができるということです。
また、ほかの極小の硫酸鉛がゆっくりと溶け出したあとで肥大化した硫酸鉛の表面に析出するので、肥大化した硫酸鉛の表面は平滑になります。
結晶は、大きいほど、また表面が平滑であるほど安定した状態であると言えます。
しかし電気分解をする観点からみれば、表面積が少ないために分解するにはかなりの時間が必要となります。
多孔性の鉛等と比べてみればわかりますが、表面積の大きさの違いは化学反応に大きく影響します。
この肥大化及び表面の平滑化は、放電した後に放置すればするほど成長していきます。
鉛蓄電池は放電したらすぐに充電したほうがいいというのは、こういった理由です。
※負極板を作成する際に、活性炭とともに硫酸バリウムを添加する、と書きました。
硫酸バリウムにはこの硫酸鉛の粒子を微細化する性質があります。
これを添付することで寿命を延ばすことはできますが、硫酸鉛の粗大化を完全に防ぐことはできません。
そして硫酸バリウムには活物質を極板から脱落させてしまう性質もあるため、あまり大量には使用できません。
〇セパレータ
セパレータには劣化はありませんが、使用していくと困った事態も起こります。
鉛蓄電池は、放電すればするほど希硫酸の濃度が下がっていきます。
この濃度がかなり下がった状態(深放電状態)では、負極の電極の鉛が鉛イオンとなって溶け出すことがあります。
そのまま硫酸イオンと反応して硫酸鉛になってくれればいいのですが、希硫酸の濃度が下がっていると、そうならない鉛イオンも出てきます。
それが水溶液中を漂い、セパレーターの孔に引っかかってしまうことがあります。
この状態で鉛蓄電池を充電すると、セパレーターの鉛イオンが鉛なってしまいます。
これが成長してしまうと、正極と負極がつながって短絡を起こして蓄電池が壊れてしまいます。
〇放電時の鉛蓄電池の電圧低下について
鉛蓄電池に限りませんが、蓄電池は放電していると、徐々に電圧が下がっていきます。
つまり、蓄電池に負荷を接続していると、電圧が徐々に下がっていくわけです。
蓄電池から取り出す電流が大きければ、下がる電圧も大きくなります。
蓄電池から負荷へと電力を送っているんだから、当然でしょう?と納得できる方は、それでいいかもしれませんが、私は最初は疑問でした。
負荷が必要とする電力は変わらないとしても、蓄電池は放電すればするほど電圧が下がる理由がわからなかったからです。
蓄電池に蓄えた電力が減るから、電圧も下がるんだ、と言う人もいましたが、私はしっくりときませんでした。
以前書きましたが、正極板と負極板でそれぞれ化学反応が起きた時には、それぞれの極板間に電位の差つまり電圧が発生しました。
その値は2.08 Vでした。
蓄電池から負荷へと電力を送るということは、この極板での反応が続いているわけです。
となると、電圧が落ちるのは不自然だと思いませんか?
電線を見てみると、内部に電子が通過するのを邪魔する電気抵抗があります。
熱で振動している金属原子です。
そのため電力を供給するとその抵抗のせいでエネルギーの一部が熱に変わり、電圧降下が起きます。
蓄電池内部にも抵抗があり、そのために電圧が落ちます。
蓄電池から電力を取り出すときにはエネルギー損失が発生するために、どうしてもその損失分だけ電圧が落ちてしまう、ということです。
違う見方をすると、内部抵抗が0であれば、電圧が落ちることはなく蓄電池からは何の損失もなく完全にエネルギーを取り出せることになります。
まあ、理論上は可能でも現実問題としてそれはとても難しいことですが。
蓄電池内部のエネルギー損失の要因としては、以下の3つが挙げられます。
1. 活性化損失(活性化過電圧)
2. 拡散損失(濃度過電圧もしくは拡散過電圧)
3. 電気抵抗損失(抵抗過電圧)
それぞれ見ていきましょう。
1. 活性化損失(活性化過電圧)
過電圧とは、理論値と実際の現象との差を指しています。
ある物質が他の物質へと変化するためには、外部から何らかのエネルギーを与えてやらないと変化しません。
たとえば、H₂分子とO₂分子が近くによってきたからといっていきなり結びついてH₂Oつまり水になることはないです。
H₂ガスが空気中で燃焼して酸素と結びつくことで、水が発生します。
燃焼させるためには、自然発火でなければ外部から高温を加えるなどの今よりも高いエネルギーを与える必要があります。
この高いエネルギーのことを、活性化エネルギーと呼んでいます。
つまり、物質は元のものから他のものへと変化する際には、活性化エネルギーというものを得て、一度エネルギーが高い状態を経由する必要がある、ということです。
でないと、H₂分子とO₂分子が触れた瞬間に勝手に燃焼しだしちゃいますからね。
さて。鉛蓄電池ではどのようになるのでしょうか。
鉛蓄電池に負荷を接続すると、電力を取り出すための反応が起き始めます。
・負極板ではイオンになりやすいPbが電子を2個放出してPbイオンとなり、溶液中に溶け出します。(酸化反応)
そしてPbイオンと反応しやすいHSO₄⁻イオンと反応して、PbSO₄となります。
この時に活性化エネルギーが必要になります。
常温ではイオンは水溶液中を活発に動き回っています。
周囲温度からエネルギーを受け取っているので、活発に動き回れるからです。
Pb²⁺イオンは水溶液に溶け出したときに、このHSO₄⁻イオンと近づき、ぶつかることでエネルギーを得ます。
これが活性化エネルギーとなりPbSO₄へと変化するわけです。
・正極板では、負極で放出されたイオンを受け取ることでPbO₂(Pb⁴⁺とO²⁻ ×2の結合物)からPb²⁺になり、水溶液中に溶け出します。(還元反応)
あとは、負極と同様の反応が起きます。
蓄電池は周囲温度が高くなればなるほど、この活性化エネルギーを持つ物質が多くなります。
ですから内部抵抗が下がり、反応が活発になり取り出せる電力量が増えます。
逆に低温になればなるほど、反応が鈍くなり取り出せる電力量が減ります。
蓄電池から取り出す電流が少ないときは、活性化過電圧はあまり大きくありません。
しかし、蓄電池からある程度の大きさの電流を取り出すためには、上記のようにかろうじて起きている化学反応をもっと活発にする必要があります。
かろうじて反応が起きていますよ、程度では足りないです。
放電電流が大きくなるにつれて、活性化過電圧によるエネルギー損失が大きくなります。
これは蓄電池が化学反応で発生したエネルギーの一部を活性化エネルギーに充てて、化学反応を次から次へと起きるようにしているからです。
この損失を、活性化過電圧と呼んでいます。
2. 拡散損失(濃度過電圧もしくは拡散過電圧)
極板付近の反応できるイオンの増減による理論値との差を濃度過電圧と呼んでいます。
蓄電池から放電が始まると、正極付近または負極付近の硫酸イオンの濃度が低下します。
正極のPb²⁺および負極のPb²⁺とHSO₄⁻イオンが反応し始めるからです。
ですが、極板から離れたところの水溶液中には硫酸水素イオンがまだたくさんあります。
よって電極付近と電極から離れたところ(沖合なんて呼びます)には硫酸水素イオンの濃度差ができます。
こうなると水溶液中のこれらのイオンは、その濃度差を埋めるように移動を始めます。
また、生成された水などは沖合へと排出される必要があります。
極板付近にとどまると、滞って反応の邪魔になるからです。
ですが極板での反応速度が、このイオンの移動速度を超えてしまうと、極板付近のイオンの濃度が下がります。
電極付近にイオンが不足するために、鉛蓄電池から電力を取り出そうとしても十分な化学反応が起きなくなります。
イオンの濃度を濃くするためには、沖合からどんどんとイオンを引っ張るしかありません。
つまり、電位差を作ってイオンを引っ張るしかないです。
反応物質さえあれば、活性化エネルギー損失だけで済みます。
ですが反応するための物がなければ、まずそれを集めるためにエネルギーを使わなくてはなりません。
蓄電池が化学反応で発生したエネルギーは、ここにも使われます。
このエネルギー損失が、濃度過電圧と呼ばれます。
じゃあ急激に大電流を放電するのではなくて、小さい電流をゆっくりと放電すればこの濃度過電圧は小さくなるんじゃないの?という疑問が出ると思います。
鉛蓄電池はそういった小さい電流を長時間放電するのが得意な電池なので、使い方としてはそのほうが適しています。
ですがエンジンスターター始動用などに使う場合は、短時間(2~3秒)の間に大電流が必要になります。
産業用の発電機を回す際に必要な電流は、大きい場合が1700 Aになることもあります。
こういった場合には濃度過電圧が重要になってきます。
また鉛蓄電池に負荷を接続して電力を取り出すと、正極板及び負極板の表面に硫酸鉛がどんどんくっつきます。
放電すればするほど、この硫酸鉛が極板表面にくっつき、水溶液と極板との接触面積を小さくしていきます。
つまり放電していくと、極板と水溶液との接触面積減少のために過電圧つまり抵抗成分が大きくなっていくということです。
鉛蓄電池を放電していくと、どんどんと取り出せる電圧が下がっていくのはこういった理由もあります。
3. 電気抵抗損失(抵抗過電圧)
過電圧とは、理論値と実際の現象との差を指しています。
抵抗のせいで、理論値と実際の現象との間に時間差ができてしまうため、それを抵抗過電圧、と呼んでいます。
電流の正体は電荷をもった物質の移動ということは広く知られていると思います。
金属中であれば電子が、電解液中であればイオンが移動することで電流が流れます。
電子には電気的にマイナスの性質をもつ『電荷』というものがへばりついており、
原子核には電気的にプラスの性質をもつ『電荷』がへばりついていると考えられているからです。
物体が分子もしくは原子の状態では、その物質は電気的には中性です。
なんらかの原因で電子がその物質の内側から外側へ出ていけば、その物質はイオンとなり電気的にプラスの性質を持ちます。
外側へ出た電子は、電気的にマイナスの性質を持ちます。
当然ですが、これらの物質を移動させるには、それぞれの電位に差があることが必要です。
電源につないで電圧をかければ、移動させることができます。
金属中、たとえば銅線を電気が流れると、少なからず発熱します。発熱量は流れる電流の量にも左右されます。
電流が多く流れれば温度は高くなりますし、少なければ温度は低いです。
これは、銅線の内部に電子の移動を妨げる金属イオンが多く存在しているためです。
電圧をかけることで電子は銅線内を移動しますが、金属イオンが邪魔なためぶつかります。
常温であれば銅線内の金属イオンは振動しています。また電子自体も電圧の大きさによるポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)を持っていますので。
電子がぶつかるときにこのエネルギーを金属イオンに渡すときに発熱するわけです。
発熱するということは、電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変わったことを意味します。
金属内の金属イオンという抵抗によって、電気エネルギーが消費されるために蓄電池の電圧が少し下がるわけです。
蓄電池から取り出す電流が小さければ、電圧降下は小さいです。
わかりやすい例で言えば、テスターがあります。
蓄電池の電圧を測定する際にはテスターを使用します。
テスターはその内部にかなり大きな抵抗が入っています。
ですからテスターの測定部を、蓄電池の正極と負極に当てて電圧を測定するときにも、蓄電池からテスターに流れる電流値は極小です。
この状態をしばらく続けても、蓄電池の電圧は落ちることはなく、ほぼ変化はありません。
これらの過電圧のために、実際の蓄電池の放電時の電圧は以下の表のようになります。
①放電初期は、過電圧の影響で電圧が急激に下がります。
②過電圧のよるエネルギー損失が継続しますが、この値に落ち着きます。
エネルギー損失が毎秒この値になるために、電圧低下が落ち着いたように見えます。
ですが極板には硫酸鉛が生成されるために、希硫酸と接する面積が徐々に増えていくため、化学反応できる接触面積は減少していきます。
そのため、過電圧が徐々に増えていくため電圧は徐々に低下していきます。
③放電が続き、硫酸鉛が占める割合が50%を超え、60%を超え、といったところで電圧が急激に下がります。
放電終止電圧を超えて、深放電域に入っています。
実際に硫酸鉛が全体の何%になれば電圧が下がるのかは各蓄電池によって違うので試験をしないとわかりません。
ですが、深放電を続ければある個所で急激に電圧が低下します。
※補足です。
蓄電池の劣化が進むほど、②の時間が短くなります。
極端な話、劣化が相当進んでいる場合には①の領域から②ではなく③の領域になって、放電を始めてすぐに放電終了になります。
負荷が落ちてしまう、ということです。
下の図の、赤い線です。
〇鉛蓄電池から取り出せる電流の最大値について
鉛蓄電池では上記のような抵抗成分があります。
内部抵抗が小さければ小さいほど、取り出せる電力の損失が減るために、製造メーカーはさまざまな工夫をしています。
・水溶液の粘度を下げる・極板を薄くしてその枚数を増やし、極板表面の反応物質と水溶液の反応面積を増やす
・反応物質の伝導率を上げる工夫
・反応物質を多孔性にして水溶液と接する面積を増やす
MSEタイプの鉛蓄電池で、放電で許容されている電流の最大値としては、以下のようになります。
1分間なら3×100=300 A
10秒間なら6×100=600 A
これは鉛蓄電池の化学反応速度の限界ではありません。
放電の際に発生するジュール熱で金属部分が焼損する可能性があるための制限です。
もし蓄電池で短絡事故が起きたとしたら、どの程度の電流が流れるでしょうか。
鉛蓄電池の内部抵抗値は、一般的には0.01Ω以下になっています。
MSEタイプの産業用鉛蓄電池では、新品では種類によっては0.2mΩなので0.2/1000=0.0002Ωとなります。
2Vくらいの電圧だと、短絡させても目に見える現象が起きにくいので、100Vで考えてみましょう。
1個2VのMSE100Ah(10時間率)の鉛蓄電池を50個直列に接続すると、100Vの蓄電池がつくれます。
この種類の蓄電池の内部抵抗が1個0.0002Ωなので50倍すると、0.01Ωになります。
これがこの50個の蓄電池全体の内部抵抗になります。
この蓄電池の電圧が100Vなので、100V/0.01Ω=10000A これが短絡した際に流れる計算上の電流値になります。
ですが実際には、ここまで流れません。
鉛蓄電が短絡すると、どこか弱いところが熱で溶けて破損してしまうため、そこで電気回路が破断するので短絡電流を流し続けることはできません。
また、内部の化学反応が追い付かないので過電圧が上昇するのでそこでエネルギー損失となるため放電電流の上限が止まります。
実際にMSE100Ahタイプの蓄電池を短絡させたときには、蓄電池同士の接続バー(銅製の金属の板)のボルト部分から火花が散り、ボルトと銅バーが焼き付きました。
また、蓄電池内部からシューっという音がして、その数秒後にボンっとガスが放出される音がしました。
この時の電流値は測定できませんでした。
鉛蓄電池は、蓄電池のサイズが大きくなればなるほど内部抵抗値が減少します。
ですから、取り出せる電力も大きくなり電流値も大きくなります。
つまり内部抵抗を極限まで減らせれば、もっと電流を流せるということです。
よって、製造メーカーがさまざまな工夫をしています。