なおちゃんのこと
なおちゃんは、私より10歳近くも年下の、花屋の先輩だった。
なおちゃんは、その若さでもう他店の店長を任されており、
急に人が辞めてたいへんになっていた、私のいる店にヘルプに来てくれていた。
小さくて、可愛くて、しっかりもので、
どうでもいいが、氷川きよしに似ていた。
センスが良く、仕事が早い。
ある時、3000円のアレンジメントと、5本のチューリップを1つずつラッピングするという注文が入った。
当然、アレンジメントはなおちゃんが、ラッピングは私が担当することになる。
私が2本目を包もうかと思ったとき、なおちゃんのアレンジメントはもう、できていた。
びっくりした。
写真に撮ってあるなおちゃんのアレンジメントや花束は、ずいぶん時を経た今でも全然古びていない。
その店のまわりには、街なかなのに意外にもみどりが多く、
昼休みに一緒に出た時には、「これはヤマゴボウ」などと、
道の脇にある植物の名前を教えてくれたりもした。
今は都心で暮らしてるけど、実家は少し田舎にあって、
だから植物に詳しいんだよと笑っていた。
30歳過ぎての転職で、しかもこれまでとまったく違う花屋の仕事。
楽しくはあったけど、不安だらけの私に、
「すぐにニワちゃんのお店になるよ」
煙草の灰をとんとん、とトレイに落としながらそう言ってくれた。
仕事ができる女の人に、煙草を吸う人が多いと気づいたのもこのころだった。
そして、私はなんとなくもう気づいていた。
何年たっても、なおちゃんのようにはなれないだろうということを。
それでも、私はその店で4年を過ごした。
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