3 転成ソフトマター研究室(黒川研)①
スタッフ
教授 黒川 孝幸
3.1 キャッチフレーズ
高分子ゲルの基礎的理解が、新たな材料を生む未来への扉
3.2 主な研究分野
1位 物理,2位 化学,3位 生物
3.3 キーワード
ダブルネットワークゲル(DNゲル),摩擦,人工軟骨,細胞培養基盤,バイオマテリアル
3.4 研究内容
生物を材料的な観点から見ると,水を多く含む柔らかいゲル状態であることに気づくと思います。しかし,生物の体はちょっとした衝撃で壊れてしまうような脆い物体ではないですよね。転成ソフトマター研究室では,機能性高分子ハイドロゲルの創製・解析を行うことで生物の性質を理解することを目的としています。また,生物を理解するためのゲルであれば,生体とのなじみが良く,医療に応用していくことも可能です。
高分子ゲル(ソフトマター)とは?
高分子ゲルは,分子を鎖のようにつなげた高分子鎖同士を架橋することにより網目構造を作成し,その三次元網目構造内に水などの溶媒を含ませた物質のことです。こんにゃくやプリンは身近にあるゲルの一種です。
高分子鎖や溶媒の種類を変えることにより,多種多様な機能を持った高分子ゲルを創製できることが分かっています。機能性ゲルの例としては,DNゲル(黒川教授が発明),温度応答性ゲル,シリカゲルなどが有名です。
自然界の物質を模倣したソフトマター
一般的に硬い材料は脆く,柔らかい材料は損傷に強い特徴があります。自然界に存在している物質には,破壊を防ぐための強靭化メカニズムが組み込まれており,エネルギーを上手く分散する構造を持っています。人間の腱を考えてみましょう。腱は1つの筋肉線維ではなく,腱ユニットは多くのコラーゲン束と細胞外基質でできており,さらにコラーゲン束は多くのコラーゲン分子によって構成されています。つまり,腱に力がかかった時に,1つのコラーゲン束に力が集中するのではなく,複数のコラーゲン束に力が分散され,同じようにコラーゲン分子に力が分散されるのです。このように,階層的に力を分散させる自然界の構造を模倣し,頑丈で機能的な合成材料の創製をめざしています。
ソフトマターの性質解析
ソフトマターは多種多様な機能や特性を持っており,その機能を理解することで新たなゲルを創製することができるようになります。しかし,不均質なソフトマターの構造解析は容易ではなく,新しい物性評価法を考案する必要があります。黒川研では,探針電極を高分子電解質ゲルに挿入することで,そのゲルの網目構造の大きさ,密度を計測する方法を開発し,不均質な性質をより深く理解しようと試みています。(電極周辺のカウンターイオン濃度 (ドナン電位)を測定して,ゲルの高分子鎖のイオンを感知し,ゲルの鎖の濃度を測定している。)
また,黒川研で着目しているソフトマターの性質として,摩擦と接着があります。摩擦は人工軟骨などのバイオマテリアルを体内に埋め込んだ際に重要となる性質で,摩擦係数が大きすぎる人工軟骨は接合している骨に対してダメージを蓄積させてしまうため,低摩擦のバイオマテリアルを開発する必要があります。また,接着は複雑なデバイスの構成要素として重要な性質となっています。
新たなバイオマテリアルの開発
ソフトマター研究の究極目標は,ソフトマターの性質への理解を深めることにより生体を模倣した新たなバイオマテリアルの創製です。ソフトマターの解析・創製を続けていくことにより,皮膚,腱、軟骨などに対応するバイオマテリアルの開発が可能になっていくでしょう。
まとめ
バイオマテリアルの開発や解析に興味がある方は,転成ソフトマター研究室を見学しに行こう!!
豆知識
Q 転成ソフトマターの転成には,どのような意味が込められているのでしょうか?
A 基礎研究(摩擦など)を行うことで,医療分野に転成していこうという意味が込められている。
黒川研ホームページ(2023年1月)
https://altair.sci.hokudai.ac.jp/tsl/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?