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大人は許すことができるらしい

 今日は約1年半ぶりに両親と食事をした。

 母は常日頃、父に対する愚痴をメールで頻繁に送ってくる。
 人の話を聞かない、せっかく作ったご飯を自分が席につくよりも早く食べ終わってしまう、同じことを何度も言う、すぐに要らないものを買ってくる、お酒を飲みすぎる、などなど。最上級に苛立っているときは、もう一緒に暮らしていたくない、別居したい、とまで言い出す。

 今回、自分を訪ねて来るのも、本当なら二人連れ立って来るのは嫌な様子だった。あんたも一緒にホテルに泊まらないか、とまで言われた。

 食事会は母の要望で寿司屋になった。
 各々好きなものを頼みながらも、母はずっと父がお酒を飲みすぎないか目を光らせていている。とは言え、父も母も近況を報告したり、昔の思い出を引っ張り出して話したりと、3人での食事を楽しんでいるようだった。

 もう十分に注文し、最後に赤出汁を頼もう、と父が言い出した。メニューを確認し、しじみが入っているものか素麺が入っているものか、と独りごちる。母が、私の分も頼んでよ、と言い、父が「しじみ2つ」と注文した。

 しばらくすると2つの椀が運ばれてきた。
 ふたを開けて、母が、赤出汁じゃない!と文句の口調で言い出した。続けて、赤出汁は苦手だけどお寿司屋の赤出汁なら食べても良いと思っていた、と言う。
 え?じゃあ、赤出汁じゃなくてよくない?なんで不満そうなんだ?……なんて思いながら静観する。
 父は、赤出汁を注文し直すか?と母に聞き、母は、いらないって、とやや喧嘩腰で返す。

 そこへ、店員が他の注文を持ってきた。
 父は、赤出汁いいんだね?と母に確認し直す、と、噛み付くように母が

いらないって言ってるでしょ!何回も何回も同じことばっかり言ってくるのやめて!いっつもいっつも!!


 え?

 なんで?

 父は店員が来たから、いいんだね?って再確認してくれただけじゃんか?


 母が怒った意味が分からなかったし、何より、店員の前で、声を荒げないで欲しかった。恥ずかしかった。

 母はこんな人だったっけ。
 父は昔から、マナーの悪い人に向かって聞こえそうな声の大きさで文句を言ったり、旅行などの最中になんでか急に不機嫌になったりすることがあって、そんな父が嫌だった。小さいときからよく見ていた姿だったから、逆に慣れているというか、父がそういう姿を見せても驚かない。
 でも母は……

 母が頻繁に送ってくる文句のメールは、父が本当に、母の言う通りの行動をとっていて、それに対して母が嫌になっているのだと思っていたけれど、もしかしたら随分歪曲した姿を聞かされていたのかもしれないな、と思った。

 母は、きっともう、父の些細な行動が許せなくなっている。

 父も、母を許せないことがある。

 お互いに、許せなくなっている。昔以上に。
 母がただいつものようにいつものような文句を言ってるわ、と受け流していたメールももっと深刻なのかもしれない。
 だって、このまま二人で老いていくなんて、しんどすぎるじゃん。

 そう気がついたからには、どうにかすべきなのかなあ。

 でも、自分も父と母のこんなやりとりや、些細な言動を許すことができない。
 だから実家には帰りたくない。もう成人して何年も経つし、ひとりで暮らし始めてから両親に感謝する気持ちも持てたりしたけれど、そんなことはさて置き、両親を許せずイライラしてしまう。イライラして両親にあたることは目に見えている。

 結局、両親の言動が嫌だと思っている自分もどこかで同じなんだな。

 明日も1日、両親と自分の3人で許せない時間を過ごすのだろう。

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