ヴァイオレット・エヴァーガーデン
この記事は、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-』のネタバレも多少含みます。本当は画像などがあれば良いのですが、著作権に違反してしまうのでそのシーンを言葉で説明したいと思います。映画見に行きたいけど今回は時間がないという方はこの記事を読むと物語の本筋は全て追えるかと思います。
9月18日の21時。待ちに待ったヴァイオレット・エヴァーガーデンの映画を仕事終わりに見てきました。開始数秒で目頭が熱くなった人は多かったのではないでしょうか。僕は映画が始まってすぐ、アン・マグノリアがおばあちゃんとなり、その孫がアンの母からの手紙を見つけて涙するシーン。アンに孫ができていたことが嬉しいことと、アニメの第10話が一瞬でフラッシュバックし涙する。この始まり方はずるい(褒めてる)。
アニメではまだ幼かったアンがおばあちゃんになり、亡くなてしまっている世界ということは、彼女よりも歳が上であるヴァイオレットやホッジンズ、カトレアなどCH郵便社の皆やヴァイオレットと各地で関係があった人々もおそらくもう亡くなてしまっているのだろう。ということがこの最初の導入部分でわかる。アンの死でその世界を伝え、さらに手紙が持つ素晴らしさまで伝わってしまう。映画が開始してほんの少しの時間で、こんなにも感じるものが多かったのは初めての体験でした。
物語はヴァイオレットが生きていた時代に遡り、大人気ドール(自動手記人形)となり活躍するヴァイオレット、カトレアはもちろんアイリスも予約がいっぱいのドールに成長し、時の流れを感じました。
お祭りを一人抜け、郵便社に戻るヴァイオレットは一本の電話をとり、ある少年の元へと向かいます。病気でもう先が長くないことを悟った少年は、残される家族へ、自分の正直な素直な気持ちを届けたいと願う。その透き通った心にヴァイオレットは特別料金での手紙の代筆を請け負う。
3ヶ月先まで予約がいっぱいの彼女は、決して時間に余裕があるわけではないと思うのですが、人の心に数多く触れ、「届かなくて良い手紙(想い)なんてない」ということを深く知っている彼女は少年のことをないがしろにできるはずがありません。
その後、手紙を書き終えた後に、もう1人手紙を書きたい相手がいるとユリスに伝えられますが、彼の体調が悪化してしまい、手紙を書くことなく、ヴァイオレットは病院を出ます。そして、少年が本当は手紙を書きたかった相手であるリュカが病院を覗いています。この病院のシーンの最初でヴァイオレット・エヴァーガーデンの個人的にテーマメロディと思っている曲が流れるのですが、その曲調が元のものより暗く、不穏さを感じ、映画の情景に合わせて変わる音楽もやはり映画を楽しむ上で必要不可欠だと思いました。
ヴァイオレットはまだまだ知らない言葉や不器用な部分もありますが、人の心に寄り添うということに自然とできるようになっていて、作品を通しての人間味が増してきており、嬉しさと安堵と言葉では上手く言い表せない感情になりました。
場所が変わり、見たことのない知らぬ土地でギルベルトと思わしき大人が子供達と過ごしている描写があります。子供は大人に戦争に行って帰ってこない父親への手紙の代筆を頼みます。あぁ……。ここにも帰りをずっと待っている人がこんなにもいるのだな…。と寂しくもなりつつ、ギルベルト(あえてもうギルベルトと書きます)自身も故郷に残した家族、ヴァイオレットのことを思うと心に響くものがあるのだろうと感じました。
子供の願いを聞き入れたギルベルトは手紙を書きますが、宛先不明で送り主に返されるものとなり倉庫で保管されていたその手紙をホッジンズが見つけたことにより、物語は展開を迎えます。
少し時系列が遡りますが、休日に出かけた際ヴァイオレットはギルベルトの母のお墓へと向かいます。そこで再開するギルベルトの兄のディートフリート大佐。個人的に今作で一番惹かれたのはディートフリートです。自分自身、これは昔は嫌な奴だった人が、物語の後半で味方になり、急に好感度が上がるあの現象によるものだということは、重々承知しているのですが、それでもディートフリートがヴァイオレットに優しい言葉を投げかけ、ギルベルトのものを分け与えようとするその姿勢は人の温もりを彼から感じることができ、嬉しくなりました。
ヴァイオレットに接触するディートフリートをホッジンズは快く思っていませんでしたが、カトレアは肯定的であり、その二人がギルベルトを失った痛みを共有することで生まれるものもあるのではないかと、ホッジンズを諭すシーンはホッジンズへの癒しでもありそれぞれの想いが間違ってはいないからこそ、面白いのだと思いました。
そして話は戻り、倉庫にある手紙の筆跡からギルベルトが書いたものであると推察したホッジンズはディートフリートの元へと手紙を持って行き、筆跡からディートフリートもホッジンズと同じものを感じ、ホッジンズからのギルベルトを捜索する依頼を快諾します。
ここのシーンはディートフリートの胸倉に掴みかかるホッジンズが普段は見せない猛々しさを感じ、勇ましく格好良かったです。そしてツンデレとは違いますが、棘のある物言いしかできないディートフリートは誰に対してもそうで、しかし心の底では相手を認めている。そんな雰囲気があり、昔よりも彼に人間味を感じることができました。
ギルベルトの居場所を突き止め、ホッジンズと会いに行くヴァイオレット。ホッジンズがまずはギルベルトに会いますが、ヴァイオレットには会えないと突き返されます。ですが、その間にヴァイオレットはギルベルトが先生をしている子供達からギルベルトと思わしき人物の話を聞き、期待に胸を膨らます。帰ってきたホッジンズから会えないと伝えられたヴァイオレットはそれが「会いたくない」という意味だということを察します。以前のヴァイオレットでしたらその言葉の裏にある真意には気づくこともありませんでしたが、多くの代筆を経験し、人の心に触れた彼女には、もうわかってしまう。彼女が一人の女性として成長していることは嬉しいはずなのに、「ウラハラ」がわかってしまうことの辛さ。なんとも言い難い感情です。
ですがヴァイオレットは軍人の頃自分の意思で何かをするのではなく、命令によって自分の行動を決めていました。そのヴァイオレットが自分の意思を持ってギルベルトに会いたいと駆け出し、病気の少年の手紙の依頼を請け。「人」としての成長が著しく、表情も豊かになり、それだけで彼女を思うと温かい心になれます。
その後、ギルベルトと扉越しで会話を交わし、突き放され、ヴァイオレットは雨の降りしきる中駆け出して行きます。どんどん感情を表に出していくことが多くなるヴァイオレット、病気の少年の前で見せた笑顔、ギルベルトのことを聞かれて俯いてしまった彼女、ギルベルトに会えるかもしれないと知って、今の自分がおかしくないか郵便社の皆に問い、そこに彼を想う愛があるのに、彼女はそれを上手く言葉にはできない。「人間らしい」その姿はすでに「人間らしい」。ギルベルトが望んだ「その名に相応しい女性」にもうなっているのに、ギルベルトは突き放してしまう。それは、ホッジンズに「大馬鹿野郎!!!!」と罵られてもしょうがないものです。
その夜、ヴァイオレットとホッジンズの二人が泊まる灯台に、ライデンから病気の少年ユリスが危篤状態になったとの知らせがと届き、ヴァイオレットは最後の手紙を書く約束をまだ果たしていないのですぐにでもライデンに帰ろうとしますが、船で3日かかる場所であり、どうしたって間に合わない。おそらくヴァイオレットは自動手記人形になり、自分が人の心が分からなかったこと以外で、自分の今の物理的な環境が原因で仕事を完遂できなかったことは初めてなのではないでしょうか。彼女は悔しさで涙を浮かべながらも病室に駆けつけたアイリスとベネディクトのお陰で、ユリスとリュカが最後に言葉を交わすことを叶えてくれます。物語の冒頭で、アイリスが、電話といういけすかない機械のせいで手紙なんて廃れる。と言いますが、その「いけすかない機械」のお陰で二人は言葉を交わし、笑顔でユリスは息をひきとることができました。手紙の素晴らしさ、手紙の無力さ、電話の便利さ、電話では言葉では素直に伝えられないこともあること、その二つの良い面と少し不便な面、「人間の不器用さと素直さ」、「人の心の表と裏」それがとても現れているシーンでした。
アニメの第6話を見返して思ったのですが、オスカーの子供も病で亡くなってしまいましたが、ユリスと同じ病気なのでしょうか、この世界の子供がかかる流行病なのかと思うと、同じように命を落とす子供が、他にもいるのかもしれません。
次の日に子供を通じヴァイオレットはギルベルトに手紙を渡し、その手紙を受け取る時にディートフリートもギルベルトの前に現れ、ブーゲンビリアの家は俺が継ぐから、お前はもう自由になれと、ヴァイオレットの手紙を読み終えた弟に兄は告げます。ようやく心の枷を解かれ、ヴァイオレットの乗った船を追いかけ、駆け出します。エカルテ島のご老人が「皆んな傷ついておった」と言いますが、誰よりも傷ついていたのはギルベルト自身だったのでしょう。
駆け出し、波止場に向かい、もう船に乗って出航してしまった彼女の名前を叫ぶギルベルト、その叫ぶ声を聞き逃さなかったヴァイオレット、彼女は船を上を駆け、海へと駆け出します。ようやく二人は相対し、互いの胸を打ち明けるかと思いきや、ヴァイオレットは「あいしてる」ギルベルトを目の当たりにし、感情が高ぶり、涙し、言葉が上手く出てきません。ギルベルトも時間をかけ少しずつ歩み寄り、彼女を抱き寄せ、ようやく二人は触れ合います。ここのシーンは本当に感動的でした。なによりも、ギルベルトに宛てた手紙の最後に、ヴァイオレットは、「あなたを愛しています」とおそらく書いていると思うのですが、やはりその人を目の前にその言葉が胸でつっかえ、発することはできず、しかしそ表情、涙から彼女の彼を想う気持ちが愛であることが紛うことなき真実であることは、誰しもが賛同してくれると思います。
再び物語はアンの孫であるデイジーのシーンへと戻り、ヴァイオレットが郵便車を辞めた後に過ごしたエカルテ島にたどり着き、その島が手紙の利用が最も多い街であることを知ります。人を多く殺してきた彼女に「人を結ぶ手紙を書くのか」とかつてのディートフリートは言いましたが、多くの人の命を奪い、誰よりもその身が「燃えていた」彼女だからこそ、今を生きる人々の心に寄り添い想いを紡ぐことができたのでしょう。
エンドロールが開けたあと、指切りをする2人の姿はとても温もりと尊さにあふれていました。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」僕も友人に勧められて最初はアニメを見たのですが、今は自分の人生の中で見てきたアニメの中で最も好きなアニメの一つになりました。普段アニメを見ていない人にこそ見て欲しい。そう思う作品です。
劇場で貰える特典はすべて手に入れましたがまだ読んでいません。10月2日に配布が開始される特典もゲットしに行きます。今は原作小説の外伝を読んでいますが、全部読み終えた時に、ネタバレがありなしの区分をつけた「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の紹介文を書いてみたいです。
最近は美容師視点のものを書いていませんが、ただ書きたいことを書いている。日記のようなものです。
そして現在、僕の祖父は余命一年以内、あと数ヶ月を言い渡されているのですが、来月手紙にして想いを伝えようと思いました。手紙を書こうと思えたのはこの作品に出会えたからです。普段言えない、伝えることができなかった想いを伝えることができる手紙という手段。それは現代社会でも根強く残っています。
これから先も原作者の暁佳奈先生、京都アニメーションを応援していきたいと思います。
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