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鹿島と香取:3 /茨城県立歴史館

承前

 かねてより拝見したいと思っていた作品にも、出合うことができた。
 香取神宮が所蔵する、古瀬戸の《黄釉狛犬》(重文)だ。高さは18センチ弱で、鎌倉後期から室町初期の作。
 キャラクター的なゆるさがありつつも、とくに頭部周辺の無駄のない造作からは、的確な造形力がうかがえる。萌黄の釉色が鮮やか。愛すべきペアといえよう。
 この狛犬はもともと、香取神宮の裏山にある摂社・又見神社を守っていた。香取神の御子神(みこがみ)を祀る小さなお社で、春日でいう「若宮」にあたる。
 小ぶりで愛嬌のある、少し気の強そうな佇まいは、若々しい神に仕える守護獣として、まことに似つかわしい姿ではないだろうか。

 阿形の狛犬は、普通切手のデザインになったことがある。また、授与品の陶製ミニチュアも人気。親しみやすさゆえの、ひっぱりだこであろう。

 このミニチュアを購入しようか、迷ったことがあった。もしミュージアムショップにあったら今度こそと思っていたが、残念ながら取り揃えておらず。
 玄関や神棚、文鎮など、家庭内での活躍の場面は多そうだ。いずれまた現地へ足を運んで、お迎えするとしようか。

 ——ここまで紹介してきた考古資料や神仏への信仰に関わる資料は、社寺名を冠したこの種の展示では、しばしば核となるもの。
 本展ではそれに加えて、ふたつの神宮をめぐるさまざまなトピックが、島並みのように連ねられていったのだった。
 利根川流域の水運と産業、参詣、近世の社家のようす、絵師による風景画、近現代の開発や観光…… 「名品展」とは差別化がはかられた、歴史系の博物館らしい視野の広い展示となっていた。

 なかでも、鹿島ならではなのが「鯰絵(なまずえ)」のコーナーで、とりわけて多くの点数が割かれていた。すべて、茨城県立歴史館の寄託品と館蔵品で構成。
 鯰絵とは、安政の大地震を機に爆発的に流行した浮世絵版画の一種。
 当時、地震は大鯰が暴れて引き起こすものと信じられていた。この伝承に、誰が言い出したか〝大鯰が暴れないよう、鹿島の神が「要石(かなめいし)」で抑止してくださっている〟〝先の大地震は、鹿島の神の隙を突いて起こったものだ〟といった尾鰭がついた。

 こうして、大鯰を鹿島神と関連づけたり、擬人化したりして描いた「鯰絵」が短期間のうちに大量に制作、流布された。
 鹿島神に例の長大な直刀でこてんぱんに懲らしめられる大鯰、要石の前で居眠りする鹿島神、復興特需に沸く大工や左官らに祭り上げられる大鯰……などなど、くすりと笑えるものばかり。被災後の不安をやわらげる、ガス抜きの役割も果たしたことだろう。

 ——さて。
 私事で恐縮だが、筆者はいま、千葉県の市川市にいる。
 旧江戸川に面する同市内の行徳(ぎょうとく)という場所は、江戸を舟で出発して鹿島・香取への参詣を目指す際の中継地点として栄えていた(成田詣の中継地点でもある)。本展でもそのことがたびたび触れられており、機縁を感じたものだ。
 さらに、奈良の春日大社との縁も。
 今年の2月に(もう何度めかわからないくらいだが)改めてうかがって、武甕槌大神が鹿島立ちし、はるばるやってきた長い旅路を観想したところだった。
 来週また、この市川の地を発って、鹿島と春日に所縁のとある場所へ行く予定である……今年はどうも、鹿島・春日に縁の深い1年となりそうだ。

こちらが「要石」。掘っても掘っても全容がみえないと伝わる
要石や社殿のある、鹿島の広大な社叢

 


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