聖徳太子と法隆寺:1 /東京国立博物館
東京国立博物館の特別展「聖徳太子と法隆寺」へ。
太子の1400年遠忌を記念する本展は、法隆寺所蔵の文化財と東博所蔵の法隆寺献納宝物であらかたを構成、一部を太子ゆかりの寺院から借用。27年前の「国宝法隆寺展」を濃縮させ、新たなスパイスを加えて味つけしなおしたような贅沢な展示であった。気になったものをいくつか挙げたい。
《夾紵棺(きょうちょかん)断片》は、太子が眠る棺の残欠と目されるもので、大阪・柏原市内の寺にひっそりと伝来した。このような一見して地味な資料が、太子にまつわる伝承なしで破却されずに伝わったのは奇跡的だろう。そしてなにより、これが太子の棺の残欠であろうということをよくぞ突き止め、裏づけてくれたものだ。
太子御廟のある叡福寺には、一度行っている。酷暑をものともせず、青々とした田んぼの畦道を闊歩した日のことが懐かしく思い出された。
聖霊院や東院舎利殿を再現した展示も興味深かった。これら非公開の堂宇がたとえ公開されたとしても、これほどの至近距離で観ることは叶わないはず。
とくに聖霊院は、平安期の太子500年遠忌にあたって創建されたものとあって、1400年遠忌を記念する今回の展示にはふさわしい。
聖霊院の本尊にして秘仏の太子像は、他の太子像とは一線を画す、近づきがたい森厳な空気を醸している。眼差しは鋭く、指先にいたるまで入念。ちょっと、こわい。
その反面、脇待として居並ぶ童子や侍者たちのゆるゆるな表情はなんだろうか・・・・・・このギャップには拍子抜けしてしまった。なんともふしぎな、聖霊院の内陣である。
全体の4分の1ほどを占める最後のフロアは、法隆寺が誇る仏像の有名作大集合といった趣の、これまた贅沢な空間になっていた。
そういえば2018年の「仁和寺と御室派のみほとけ」展でも、この最後のフロアは秘仏大集合だった。神呪寺あり、若狭の中山寺あり、道明寺あり、葛井寺ありのとてつもない陣容。正直のところ、御室派の寺院に伝来していること以外に一貫性はないのだが(それを言っちゃおしまい)、いやはや、あの部屋だけでも見応えは十二分であった。
今回は、オール法隆寺。
薄暗い金堂で金網越しにしか見えない四天王像が、こんなに目の前にある。それもすごいことなのだが、わたしとしてはすぐさま、その隣に勢ぞろいしている《六観音》に飛びついてしまった。
いずれも飛鳥時代の木彫で、作行きも制作時期も同じ観音たち六体。細身のすらりとした立ち姿、垂下する素直な衣文、なで肩。像容は、のっぺりとした面長。
隣にいた見知らぬ若い女性が「かわいい……」と洩らしていた。
そう、かわいい。目を奪われるほどにかわいいのだ。
とろんとした瞳の大男がガラスに映っていることに気がついて、ようやく我に返った。(つづく)