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堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家:1 /半蔵門ミュージアム

 半蔵門ミュージアムは、真言密教系の新宗教・真如苑による美術館。運慶作と推定される《大日如来坐像》の展示で知られている。
 このお像は長らく個人蔵で、2008年にクリスティーズでオークションに出品、海外流出の危機に瀕したところを真如苑が14億円で落札し、大きな話題を呼んだ。のちに重要文化財の指定を受けている。

 半蔵門ミュージアムの展示空間はこのお像を核としており、文字通りこの館の顔となっている。
 展示室では、向かって左方に密教の世界観を図像化した《両界曼荼羅》(昭和時代)、右方に醍醐寺三宝院伝来の《不動明王坐像》(平安時代)を従え、中尊、本尊になぞらえた厚遇を受けている。
 また、その部屋へと至る「うなぎの寝床」状のスペースにはガンダーラの石造彫刻が並び、釈尊の生涯を視覚的・立体的にたどることができるようになっている。
 流転の美仏は、すばらしい安住の地を得たのだ。

 ——ここまでが展示室のちょうど半分にあたり、ガンダーラには多少の入れ替えがあるものの、基本的に常設の展示内容となっている。
 展示室のもう半分では特集展示が折々に催され、その他の館蔵品を紹介。テーマとしては、やはり仏教美術が多い……というか、仏教美術専門の館というイメージすら持っていたのだが、今回は不意を突かれた。近代日本画、所蔵していたんだなぁ。
 調べると、この絵巻の展示は2019年にもおこなわれていたらしい。このときが、じつに40年ぶりの出現だったとか。それは知らなんだ……
 ただ、絵巻と同時に展示される近代日本画は、今回が初公開となる。いずれも山水風景を描くもので、仏教画題ではない。あの空間と、どう交わるか。見ものである。

 特集展示のゾーンに入ってすぐのところに、堅山南風《大震災実写図巻》は展開されていた。

 南風は巣鴨の自宅で被災。翌日、師・横山大観の無事を確かめるため不忍池ほとりの大観邸まで向かっている。
 このとき、浅草や上野の周辺を歩いた体験をもとに、震災の2年後、需(もと)めに応じて描かれたのが本作。
 つまり、実体験や当時のスケッチにもとづいてはいるが、時間をおいてから、回想を交えつつ制作したものとなる。出版物や新聞なども、参考資料として援用したのであろう。

 上中下の3巻からなり、縦はそれぞれ46.5センチ。全巻合わせて総延長27メートル強という大きな画面に、関東大震災の惨状と復興のようすが活写されている。
 各巻のはじめから終わりまでが連続する形ではなく、31の場面が3つに分けて巻子装にまとめられている。各場面の始まりには、題箋を付す。
 展示室には、そのすべてを広げるほどの余裕はさすがになく、それでも、全体の半分ほどは拝見が叶ったのだった。(つづく



今は亡き、浅草の名喫茶店「アンヂェラス」


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