大安寺の仏像:2 /東京国立博物館
(承前)
「現在の大安寺の寺域は、最盛期の25分の1ほど」
——現地に足を運んだことのある方であればなおさら、この数字がどれほどすごいか、ご理解いただけると思う。伽藍の周囲がガランとしていることもあるが、現状でもじゅうぶんに広大だと感じられるのだ。
とはいえ、通常の奈良観光では、大安寺をコースに組み入れづらいのもよくわかる。実感をもてるという方は正直、少ないだろう。かたや「奈良は効率よくまわって、お泊りは京都で」という方は多いのであろうし……
大安寺にこれから来ていただくためには、まずはその存在と、いかに重要な古代寺院であるかを知ってもらうことが大事だろう。
そして、それにも増して「行ってみたい」というきっかけになりうるのが、寺外にお出ましになることがほぼない、すばらしきみほとけたちである。大安寺には奈良時代の一木造のお像が9軀もあるのだ。
一度でも観ていただければ、きっと、また会いたくなる。
だからこその出開帳——奈良国立博物館「大安寺のすべて」展であり、年始からいままさに開催中の東京国立博物館「大安寺の仏像」展であるのだろう。
9軀のうち7軀は、お寺の宝物殿にいつでもいらっしゃる。宝物殿は鋭意リニューアル工事中で、このたび東下りをされているのはこの7軀となる。
残る《十一面観音立像》と《伝馬頭観音立像》は秘仏で、それぞれ秋・春の一定期間のみ公開。奈良博では前・後期での出品であった。
東博でお目にかかれないのは残念ではあるが、東京にいながらにして7軀のお像が拝見できるのは、またとない機会。新宝物殿が開館したら、寺外に貸し出されることはしばらくないであろう。
東博での展示は本館を入って右、仏像の常設展示室をまるまる使っておこなわれていた。この種の仏教美術の特別展示は、大階段裏手の「特5」と呼ばれる広間での開催が定番だったため、少し意外。
半年ほど前、東博のホームページに突如として本展の予定がアップされたときには「奈良博の巡回か!?」などと過剰な期待をしたものだが、このように出品点数を絞ってじっくりと拝見するのも、またよいものだ。古拙の美に、胸を打たれる。
もちろん、沈香と古材のにおいとが鼻孔をくすぐる古めかしいお堂のなかで拝見するのが、よいに越したことはない。
じっさい、こうして拝見していて、「ああやはり大和古寺はよいものだ」と認識を新たにした。定期的にやってくる古寺探訪へのうずきが、自分のなかで堪えがたいところまで達しているのが、たしかに感じられた。足が遠のいてはいるけれど、わたしのベースにはやはり「古寺」がある……
本展では奈良時代の木彫仏7軀に加え、近世の《弘法大師坐像》、東博所蔵の大官大寺、大安寺の古瓦も展示。
1部屋だけといえばそうなのだが、たいへん充実した気分になれる展示である。3月19日まで開催。
※大安寺は「癌封じ」の寺としても有名。祈祷済みの笹酒を取り寄せ、人に贈ったことがある。
※資料は無料配布。A4オールカラー16ページ・中綴じのきれいな冊子で、恐縮してしまう出来だ。会場設置でなく、インフォメーションで声を掛けるといただける「東博方式」。
※新宝物殿のクラウドファンディングも開催中。