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「埼玉の日光」妻沼聖天山 :2

承前

 聖天さんを祀るお寺はどこも庶民からの信仰が篤く、活気にあふれている。
 奈良の生駒聖天、浅草の待乳山聖天はその代表格で、これに妻沼聖天山を加えて「日本三大聖天」と呼ぶこともある(諸説あって、3つめは入れ替わる)。

 「生駒の聖天さん」は、大阪府と奈良県の境・生駒山の奈良側の中腹にある山岳寺院。大阪とは近鉄でつながっていて、周辺はベッドタウン。奈良というより大阪の文化圏といったエリアだ。

 石段の左右には、石燈籠が列をなしている。柱には寄進者の名前があって、大阪の人や会社名が多くみえ、どれも新しい。商売繁盛や子孫繁栄を願い、競って寄進されているのだろう。
 門前町には、赤線の雰囲気が残っている。待乳山聖天が浅草や吉原といった盛り場の近隣にあることを想起させるし、前回触れたように、妻沼の聖天さんにも、はるばる吉原から遊女が訪れたと聞く。聖天さんの境内や門前には、そこならではのたたずまいがある。
 ちなみに生駒の聖天さんは『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』で、寅さんとおふみさん(松坂慶子)がデートしていた場所だ。家族連れに呼び止められ、カメラのシャッターを押してあげる寅さん。別れ際に夫婦と勘違いされる……
 おふみさんは浪花の芸者。なぜこの地を選んで訪れたのか劇中で明言はないものの、大阪で水商売に従事するおふみさんが生駒の聖天さんへやってきたというのは、非常に納得できるのだ。

 ケーブルカーでもう一段上がれば、レトロな生駒山遊園地がある。
 寺社、赤線、遊園地――信仰と観光・レジャーが渾然一体となった生駒山、それに浅草の待乳山に比べると、ここ熊谷・妻沼の聖天さんは、素朴に無骨にストイックに「実盛公」を推してきた印象だ。関東武士の聖天さん。

 どうもこじつけくさいが、そんな無骨さは、ご当地の食文化にも表れているような気がした。
 うどん。

うどん

 ぶっとくて、歯ごたえのある麺。厚く大きく切った豚肉や葱、やはり大ぶりの茸。
 妻沼の聖天さんの門前で食した名物うどん、美味だった……

 ところがこの妻沼の聖天さん、無骨なばかりでもない。
 「派手好み」もまた、庶民性を感じる点なのだ。
 脱線してしまったが(いつものこと)、国宝の本殿の話に入っていきたい。(つづく


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