宗教都市・天理さんぽ
奈良県天理市の自治体名は、新宗教の天理教にちなんでいる。
金光教に由来する岡山県の金光町が平成の大合併で消えてからは、特定の宗教名がついた自治体としては、天理市が唯一の存在となっている。
そういうわけで、天理といえば天理教のイメージが強いけれど、スポーツ好きであれば柔道や野球、ヤング(死語)であれば天理ラーメン、歴史ファンであれば古墳や山の辺の道、天理参考館など、人によってやや異なるところはあるかと思う。
多様で、異様で、なつかしい——そんな天理の街を、今回はご紹介したい。
天理駅には、JR線、近鉄線のどちらもが通っている。
天理教では、ここ天理を「ぢば=人類創造の場所、ふるさと」としており、全国各地の信徒たちが大挙して巡礼に訪れる。テレビCMでおなじみ「こどもおぢばがえり」は、夏休みに子どもたちが天理を訪ねる一大イベントである。
天理駅が近づいてくると、車窓からは、瓦屋根のついた団地のような建築が頻繁に目に入ってくる。おぢばがえりをする信徒の宿泊所である。
それほど、多くの人が集まるのだ。鉄道会社としては、この大きなパイを逃す手はないだろう。
きょうは、JRのほうの天理駅に降り立った。駅構内の柱は、天理カラーの紫に塗装。天理高校の野球のユニフォームも、この色だったっけ。
駅構内をはじめ、街のあちこちに掲げられた「ようこそ、おかえり」の幕。おぢばがえりをする信徒へ向けた、歓迎の言葉である。
駅前の広場は2021年に再開発され、「コフフン」となった。その名のとおり墳丘をイメージしたドーム群に、さまざまな施設が入っている。
下の写真は、モンベル天理店。天理から山の辺の道をハイキングする人、その向こうの山に入らんとする登山客からの需要を見込んでいるのだろう。
全長およそ1キロにも及ぶアーケード街・天理本通は、コフフンから横断歩道を渡ったあたりからスタート。
上の写真・右奥の黄色い店の前に、何人かが列をなしている。天理ラーメンの有名チェーン・天理スタミナラーメン(通称・天スタ)である。
醤油ベースでピリ辛、野菜たっぷり、ニンニクはもっとたっぷりの天理ラーメンは「奈良のソウルフード」と称されることもあり、天スタと彩華が人気を二分する。どちらかというと、わたしは彩華派だ。
他にも、アーケードには素通りしがたい食の誘惑がちらほら。この日は結局、暖簾をくぐることはなかったものの、いずれまたリベンジしたいと思わせた。
アーケードが途切れると、そのまま天理教の宗教施設群へ。天理教の施設は、どれもこれも巨大で圧倒されっぱなしだ。
天理参考館は、世界各地の民俗資料・考古遺物を集めに集めたミュージアム。国立民族学博物館と国立歴史民俗博物館を足して2で割って、少しサイズダウンしたような展示施設である。床面積こそ2館には及ばないが、内容の広さと濃さはそれに匹敵するだろう。
企画展示の幅広いテーマを見ていただければ、どれほどスケールの大きなミュージアムか、その一端が伝わるのではと思う。
天理参考館の反対側のウィングにさらに連なっていく建築群が、天理大学。
訪問した1か月前はパリ五輪の興奮冷めやらぬ頃で、柔道の試合を毎晩熱心に視聴していたわたしとしては、胸に迫るものがあった。
パリで連日にわたってわかりやすく、熱のこもった解説をされていた穴井隆将さん、大野将平さんはともに天理大OB、穴井さんは現監督である。女子70kg級の新添左季選手は天理中高の出身。
このあたりでトレーニングされたのだなと思うと、それだけで景色が変わって見えた。違った意味での聖地巡礼である。
石上神宮からの帰り、往路とは違った裏道を歩いていたところ、こんな看板が!
体育館の中では祝賀会がまさに開催中のようで、いま挙げた皆々様もその場にいらっしゃったのだろう。すごい偶然。
天理駅前へ戻ってきて、あるモニュメントに気がついた。
天理市内の遺跡から出土した、天理参考館所蔵の海獣葡萄鏡のレリーフだ。実物を5倍の大きさに拡大。巨大化したことで、彫りの複雑さや緻密さがよく感じられた。
——天理参考館の企画展やら、山の辺の道散策やらで、これから訪ねる機会がたびたび出てきそうな天理。まだまだ、いろいろと探検してみたい。