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生誕110年 香月泰男展:2 /練馬区立美術館
(承前)
前回も触れたように、香月の回顧展ともなると、どうしても「シベリア」がメインで扱われ、全体の構成に大きく影を落とす。本展でも暗めの色調の作が過半を占め、館を出たあともしばらくは重たい気分が続いた。
そんな重厚な時間をひっくるめて「香月展の鑑賞」だったとは思えるのだが、展示室でときおり垣間見られたカラリストとしての側面、遊び心ある小じゃれた感性に、見捨てがたい魅力を感じたのもまた事実であった。
香月という画家を「シベリアの画家」のイメージのみに留めておくのは、非常にもったいない。
まずは、わたしがミュージアムショップで購入した絵はがき3点をご覧に入れたい。
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先ほど述べた「カラリスト」「遊び心ある小じゃれた感性」とは、このようなものを指している。
美術館で絵はがきを購入するのは、部屋に飾るため。「シベリア」の絵はがきが豊富なバリエーションをみせるなか、わたしは迷わずこの3点に手を伸ばした。もちろん、戦争は二度としてはならないし忘れてはいけない、目を背けず直視せねばならないけれど……机上に飾るものは、明るく楽しいものにしたい。
《ハムとトマト》は、絵はがきがあったらうれしいな、けども望み薄だろうなと踏んでいたもの。思いが通じたようで、格別の喜びがあった。
この《ハムとトマト》や《山羊》は、山口県長門市(旧・三隅町)の「香月泰男美術館」に所蔵されている。香月が永年暮らした街にある、遺族からの寄贈による個人美術館。本展にも、同館からの借用品が多数出品されていた。
代表作の「シベリア」シリーズは、全点が山口県立美術館に入っている。こちらの館の作品は最期まで作家の手元に残されたものだけあって、小品や素描、画題でいえば動物や花、食材など、親しみやすい作が多い。「シベリア」とはかなり印象の異なる作家像を感じ取ることができよう。
※下記リンク先の下のほうで、主な所蔵作品が紹介されている
今回の会場でも、凄惨・壮絶な「シベリア」のそばに、凧揚げだとか洗濯物干しだとかいった日常のひとコマを描写した作が展示されていた。これらが同時期に並行して描かれたことは、少し意外だ。
最近出合った香月作品といえば、丸紅ギャラリーの闘牛と、UNPEL GALLERYの白椿。いずれも、たいへん好もしく感じられた。
本展には白椿と同様の構図で、蓮のつぼみを描いた作が出ていた。
白椿と同じく、花は満開に咲いていない。
たまたまかもしれないが、そんなところにも、この画家の視点のおもしろさを感じるのである。
「明るい香月」をもっとたくさん観るために、香月の故郷・山口にいつか足を運んでみたいものである。
(もう少し、「明るい香月」の話しがしたい。次回につづく)