生誕110年 香月泰男展:3 /練馬区立美術館
(承前)
中村橋駅から美術館へと向かう道沿いの街灯には、毎回、その時々の展覧会のフラッグが掲げられている。本展の出品作を代表してフラッグに採用されたのは、《公園雪》(島川美術館)だった。
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「香月泰男」で「雪」というと……シベリアの景色かな、一見明るい画面にも暗い戦争の影が潜んでいるのかなと疑心暗鬼になってしまうものだけれど、どうやら《公園雪》は、旅先の名古屋で見かけた情景を絵にしたものらしい。
その記述を読んで(変な話だが)ひと安心、改めて画面に見入るのであった。じつに抒情的で、どこかぼんやりと幻想めいてもいて、いい絵だ。
帰り道。街灯のフラッグを見て、《公園雪》の絵はがきを買いそびれたことに気がついた。引き返そうか迷ったあげく、そのまま駅へ向かうことにした。絵はがきは、帰省ついでに求めればよいかと思ったからである。
絵はがきを購入できなかった《公園雪》と、購入した《四重奏》のどちらもを所蔵する島川美術館は、わたしの故郷・仙台市の中心部にある。もと蔵王の山麓にあったが、数年前に仙台三越近くのビルにお引越ししてきたのだ。
移転後、一度だけうかがったことがある。
収蔵品は近代日本の洋画・日本画・陶芸、ピカソやユトリロ、ガレやドーム。百貨店の美術部が取り扱いそうな、日本の企業人のコレクションらしいラインナップといえるが、いくつか光るものはあった。
設立母体は、健康食品メーカーのジャパンヘルスサミット。社名よりも製品の「カニトップ」のほうで有名だと思う。盛んにテレビCMを流していたり、サッカーのベガルタ仙台のユニフォームに大きく書いてあったりと、地元ではなにかと耳目にする機会が多い。
開館は春秋の特別展のみという、関西の私立美術館でよく見かける方式をとっている。
島川美術館がちょうど開いている時期に、帰省ができればいいなと思っている。《公園雪》や《四重奏》とも再会を果たしたいところだ。
練馬で香月泰男を観て、故郷に思いを馳せることになろうとは。
香月にとっての「シベリアー山口」を引き合いに出すのはあまりにおこがましいが、意識の上では、わたしにとっての現在の「東京―仙台」も、ある意味で似たようなところがある。
次の春に帰ることができるか、秋になるのか。はたして……
※香月泰男美術館のショップのページを開いて、驚いた。3,000円のポストカードセット!……よくよく見るとそれは、月刊誌の表紙を飾った油彩12点の絵はがきを、特製の額と組み合わせたセットだった。毎月、季節の絵柄を差し替えて楽しめるという。しゃれたことをするなあと感心しきり(館のペア入場券もついてくる)