鹿の角きり 奈良・春日野
大和路の秋を象徴する行事、それが「鹿の角きり」である。10月の3連休に、初めて見に行ってきた。
この連休中には、さまざまな行事がバッティング。西大寺の大茶盛式のほか、地域のお祭りも同じ日程のところが多い。秋の展覧会も続々始まっている。これらの合間を縫って、春日野へ。
春日大社の参道を脇にそれたあたりに、会場の「鹿苑」がある。3連休に1日4回ずつ、1回30分。わたしは、最終日の13時40分の回に参加した。親子連れやカップルを中心に、なかなかの盛況ぶりである。
春日大社の下がり藤紋が入った幔幕をすり抜けて、角きりの会場へ。オーバル形のフィールドを観衆が取り囲んで覗きこむ、コロシアム形式。
観衆の入場と鹿のスタンバイが完了するまで、奈良の鹿愛護会のお偉方と思われるおじさまの饒舌な前説を拝聴。鹿の角きりの歴史と意義、鹿に接する際の注意点などが笑いをまじえて解説されており、たいへんためになった。
おじさまによると、鹿の角きりは寛文12年(1672)、時の奈良奉行の命により始まった。
春日の神鹿、神の使いたる奈良の鹿たちは、庇護の対象であるいっぽう、人間の暮らしを脅かしうる野生動物でもある。鹿と人間との共生をはかるために、角の切断は続けられてきた。
現代では麻酔後の処置が大半となっているが、行事としての「鹿の角きり」は、江戸時代と同じ古式ゆかしいメソッドによりおこなわれる。すなわち、以下のような手順を踏む。
立派な角を生やした3頭の雄鹿たちが、堂々入場。そのうち2頭分に対して、上記の手順が執行された。
②が最難関。はずしても当たっても、客席からは大きな歓声があがった。
会場を出てすぐのところに、鹿の角や加工品を販売する売店が設けられていた。
売られている角はさすがに、先ほど切ったそのものではないだろうが、角きりを見た直後だと、妙に欲しくなってしまうもの。立ち止まって品定めをする人が多くいたのだった。売り上げは、鹿の保護活動にあてられるという。
ここまで来たからには、春日大社にお参りせず帰るわけにはいかない。奈良に来てから、ごあいさつがまだでもある。本殿と若宮に参詣。
つい3日前のニュースで、春日大社の一之鳥居(江戸時代・寛永11年〈1638〉 重文)が新しく塗り直されたと報じられていた。こちらも忘れず訪問して、春日野を辞した。
——「鹿の角きり」は、歳時記にも載っている。晩秋の季語だ。
角きりの2週間後には、奈良国立博物館で正倉院展が開幕、秋はよりいっそう深まっていく……はずなのだが、まだまだ秋らしくない。そういえば角きりには、半袖を着て行ったのだった……
きょうの秋雨で、一気に秋めいてほしい。秋の奈良が、わたしはいちばんすきなのである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?