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京都 細見美術館の名品 ─琳派、若冲、ときめきの日本美術─:1 /日本橋高島屋

 平安神宮に京都市動物園、京都国立近代美術館、京都市京セラ美術館……京都・東山の岡崎公園にある施設は、なにもかもがデカい。
 それらの施設に比べると、公園西側の橋を渡ってすぐの細見美術館は、たいそうつつましく感じられる。

 全体が土壁で覆われ、外に向けて閉じられているようにもみえる。美術館だと気づかずに通りすぎてしまいそうなくらいだが、ひとたびその穴ぐらのなかに足を踏み入れれば、日本美術の名品たちが来館者を待っている。
 考古遺物から仏教・神道美術、茶道具、中世・近世の絵画まで。ふだんは京都にある、細見家3代にわたるコレクションの特徴を存分に示す作品群が、東京・日本橋高島屋にやってきた。

 花車を描いた近世の金屏風をイントロダクションとして、以降はおおむね時代順に作品が並ぶ。
 最初のテーマは、古代・中世の祈りの造形。初代・細見古香庵は、仏教・神道にまつわる金工品の鑑識によって審美眼を養った。推古の金銅仏、密教宝具、熊野の掛仏に和鏡。峻厳な造形美に惹かれた。

 古写経や仏画の逸品は、いずれも巻子などの断簡を仕立てた軸物。そのうちの1点は、彩色の美しい《金胎仏画帖》。わたしの愛する平安仏画であった。

 続く章は「数寄」。茶や花の道具となりうるものが、主に並ぶ。
 時代としては中世の作が多いなか、須恵器の《鹿形装飾付瓦泉(はぞう)》が最初の1点。
 小壺に鹿の顔を取りつけ、竹などの枝の断面をスタンプにして突き、鹿の子の丸模様をあらわした珍品。画像でお見せできないのが悔しくなるほど、キッチュで愛らしい作である。
 初代古香庵は、縄文や弥生の土器、古墳の須恵器や土師器といった古代の考古遺物に美的なまなざしを向けた先駆的存在。さかんに土器に花を活け、茶席へ飾った。『土器に花』という著作もある。
 本作は「数寄」を物語る章のはじめにふさわしい、キャッチーさも兼ね備えた小品といえよう。

 土器に加え、伊藤若冲や江戸琳派、神坂雪佳などもそうであるが、細見コレクションには、まだ注目を浴びていなかった作家・分野の蒐集にいち早く乗り出している例が多々みられる。
  「根来」と呼ばれる黒地に朱漆を施したうつわや、芦屋・天明(てんみょう)といった茶の湯釜が、その最たるもの。
 初代古香庵は、根来や釜についても専門書を執筆・刊行している。学究肌であり、各分野の研究者に意見を求めながら蒐集が進められた。

 展示作の《芦屋十一面観音香炉釜》(室町時代)は、仏前に供える鉄製の香炉を茶の湯釜に改めたもの。茶道具であると同時に、仏教工芸としての側面をもつ。

 むろん、そういった背景にも惹かれるのであるが、実見すると、肌の鉄味(かなあじ)のほうにより魅力が感じられたのだった。
 金属の経年の風合いに味を見いだす美意識は、根来の手擦れの跡に対して向けられたそれに通じるものがある。使いこまれ、育ったものに表れる美のあり方を、コレクターは愛したのだろう。

 もうひとつ、室町水墨をご紹介したい。
 単庵智伝《梅花小禽図》。

 少ない手数でちょちょっと描かれる、ふっくら小鳥。梅というから、ウグイスだろうか。まるまるとしてかわいらしい。
 根来や茶の湯釜と同様、基本的に「シブい」ジャンルではあるが、本作は繊細にして可憐。光る小品であった。

 このほかにも、同じく単庵の山水図、元信印の花鳥図屏風、志野茶碗織部の手付鉢などを展示。
 ここまでの展示品を見わたしてみると、なかなかどうして「シブい」ものが多い。「若冲」や「琳派」といった看板に惹かれてこの会場にたどり着いた方々にしてみれば、いささか意外に受け止められたことだろう。
 次の展示室からは一転して、見目麗しく、華やかなものが続々登場する。(つづく

ナスの花ではなく「ワルナスビ」とのこと……有毒で、たしかに「ワル」。牧野富太郎の命名


 ※このあと名古屋、静岡、長野に巡回


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