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湖北のおはなし:1 /東京長浜観音堂

 琵琶湖の北東・長浜のあたりには、土地の人が当番制で代々管理する小さなお堂が地区ごとにあり、平安や鎌倉のみほとけが静かに守り継がれている。みほとけを拝観するときは、当番の方と待ち合わせてお堂の鍵を開けてもらうことになる。
 秋の「観音の里ふるさとまつり」を含めて数度うかがったことがあるが、どの仏さんも地元で愛され、親しまれているのがわかった。日常に寄り添うように、暮らしの中心に仏さんがいる。仏さんの表情も、大寺院での須弥壇越し、美術館・博物館でのガラスケース越しとはいささか趣を異にしていた。
 信仰と生活の近い距離感。このありように失われつつある日本の原風景をみる思いがして、胸を打つものがあった。

 長浜には十一面観音のお像が多く、近年「長浜の観音さん」「観音の里」として自治体を挙げた観光PRも盛んになっている。
 おそらくは、地元の人たちのその「愛」や「親しみ」のなかには、こうした自治体主導の動きによって新たに生じた誇りや地域振興への思いも、多分に含まれているのだろう。「外の人から見れば、そんなにすごいものだったのか」と気づかされ、認識を改めたという方もいたのではないか。
 「日本の原風景」などと言ってしまったけれど、そのあたりは美化しすぎず、過疎の進む地方自治体の切実さとして捉える視点もまた失ってはならないと思う。

 さて、長浜市の観光事業の東京における出先機関が「東京長浜観音堂」。
 東京長浜観音堂があるのは、日本橋高島屋と東京駅八重洲口に挟まれた繁華街の一角。ほんとうにここで合っているのかと疑いたくなるくらい、いたってふつうのオフィスビルの4階に何食わぬ顔で入居している。
 この東京長浜観音堂を守り、来館者を迎えるのは、長浜から出張してくる主に平安時代の観音像だ。
 着任から2か月もすれば人事(仏事?)異動があり、また別の観音さんが派遣されてくる。このシステムで、仏像ファンの心とスケジュールを継続的にがっちりとつかんでいる。
 同様のシステムをとっていた前身の「長浜観音ハウス」は、上野の不忍池に面した好立地にあった。
 上野の美術館に来たときには、かならず山を下りて観音ハウスに立ち寄り、観音さんを観がてら休憩する(休憩がてら観音さんを観る)のが定番コースだった。
 テナントの事情からか2020年10月に4年半の歴史を閉じてしまい残念無念であったところ、時間をおいて東京長浜観音堂のオープンが告知された。
 今回は開館から2度めの展示。
 安念寺の破損仏群、通称「いも観音」のお出ましである。(つづく

※なお、「東京長浜観音堂」は今年7月から来年2月までの限定公開。また流転する。安住の地はどこに……


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