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府中さんぽ 府中市郷土の森公園:2
(承前)
府中市郷土の森公園に移築・復元された文化財は、(「軒」でなく「件」でいうと)商家が2件、町役場が1件、郵便局が1件、茅葺き屋根の農家が3件、長屋門が1件。ほかに、写真から再現された小学校の校舎が1件。なかでもとくに気に入ったのは、町役場と郵便局だった。
大正10年に建てられた旧府中町役場は下見板張りの瀟洒な洋館で、淡いグリーンのカラーリングがキュート。「かわいい町役場」というフレーズが浮かんでしまうような、お茶目な小品だ。受付の長いカウンターで立ち呑みのバーでもやってみたら、さまになるのではないか。
その隣にある、桂離宮と見粉うような数寄屋ふうの和風建築が、明治初期の郵便局・旧府中郵便取扱所。
横から押せば倒れてしまいそうな華奢さもまた魅力。
こちらも「カウンター」がよい。
このアーチ窓を通して切手やはがき、お金のやりとりがされたのだ。
写真だけ見ると、城郭の壁に開けられた狭間(さま)や禅堂の花頭窓のようでもある。とても単なるカウンターには見えない。
公園の一角に梅園があると聞き、蕪村のひそみにならって探梅としゃれこもうとしたところ……蕾はまだ固く閉じていた。
梅に代わって春の足音を感じさせてくれたのは、柵の外から垣間見えたあの桃の木。近寄って見上げると、逆光で像がぼやけ、桃の花や木と青空との境が曖昧となって見えた。牛島憲之の描いた、溶解しそうなモチーフの描写が想起された。
ほかにも、少々気の早い数本の桜や、木蓮、雪柳がきれいだった。とりわけ、茅葺き屋根の農家を背景に群れて咲く小さな雪柳の花には大いに惹かれるものがあった。梅も桜も、そう待たずして咲き誇るだろう。(つづく)