七十二時間聖地巡礼:2
(承前)
今回の「七十二時間聖地巡礼」の目的地は、築地明石町から佃大橋を渡った対岸・佃島にある。佃煮の佃島。
佃島では、タワーマンションを借景として、古い木造家屋が広範囲に密集している。人ひとりがやっと通れるほどの細い道が無数にあり、鰻の寝床の民家が軒を連ねている。
今回のロケ地「佃天台地蔵尊」も、こういった裏路地の途中にある。
お隣の銀座や神田・秋葉原などにも、ビルの谷間を縫う細い路地に小さな祠が残っている。こういった祠は、界隈で古くからご商売をする方々から厚く信仰され、手入れも行き届いている。
番組タイトルは「大都会 お地蔵さまの前で」だが、ここ佃天台地蔵尊は借景こそタワマンでも、向こう三軒両隣が木造の民家、街並みは下町そのまんまである。ここが、ビルに囲まれ、その一角だけ再開発から取り残された「対岸」の祠たちとの大きな違いだ。
上の写真中央に「佃天台地蔵尊」と書かれた木製の看板が見える。看板が示すのは「この先」ではなく、まぎれもなく「ここ」だ。ここを入っていかねば、たどり着けない。
すれ違いにこまるほどの狭さだから、人家に無断で立ち入るような緊張感がある。服や鞄、腕時計を擦ってしまわないかにも注意が必要。洗濯物の下を潜り、ガスメーターの脇をすり抜けると、お線香の香りが鼻をかすめる。
お堂の内部は、樹齢400年という銀杏の木の幹が多くを占めていた。人が動けるスペースはせいぜい3畳ほどだろうか。平たい石に線刻されたお地蔵さんを拝んで、なよっとした線を目でなぞった。
わたしと同じく、番組を観てやってきたとおぼしき人も多々。通路が埋まるほどではないが、常に3、4人はいる状態。わたしもミーハーのひとりであるが、今日どうしても行きたくなったのだから仕方がない。
帰りは月島のもんじゃストリートを突っ切り、勝鬨橋から築地へ。もんじゃというもの、熱くて食べづらい、腹持ちがよくないといった理由で申し訳ないがスルーし、「上ばかり見て」歩いていた。「上」というのは、商店街の庇の上に残る古いファサードのことだ。
佃島も月島も、古い木造家屋が密集するエリア。
考えたくもないが、首都直下地震などが来たら、ひとたまりもないだろう。国や自治体が再開発を推し進めたい気持ちもわかる。わかるけれど……生活者の気配を感じさせる下町の風情は、いつまでも残っていてほしい。地域の心の拠り所となっているあの地蔵尊にお参りしたことで、そんなことを思ったのだった。
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