SHIBUYAで仏教美術 ―奈良国立博物館コレクションより /渋谷区立松濤美術館
“SHIBUYAで仏教美術” である。
流行の最先端(だという)渋谷で、仏像や仏画やお経を観るのだ。
開催の報を得た時点では、このネーミングは未公表。従来型の「奈良国立博物館仏教美術名品展」くらいの硬い名称でいくと思いこんでいたので、ギャップを衝いたこのキャッチーな展覧会名は意外だった。
会場をまわってみると、天下のSHIBUYAでありながら若者の闊歩する姿はなく、仏教美術の展覧会で見かけるいつもの客層といったところ(剃髪したお方も数人いらっしゃった)。根強く流行りの刀剣のように、そううまくはいきませんな……
わたしがひそかに期待していたのは、奈良博の公式キャラクター「ざんまいず」の面々が会場内を暴れまわること。
昨年、奈良博の現地で開催された名品展「奈良博三昧」で公式キャラとしてデビューして以後、どうも影が薄まっている気がしていたので、東京での捲土重来の機会があればいいなと思っていたのだ。花の東京で、本格的なブレイクを!
本展の会場にはざんまいずのざの字もなく、グッズもなく……シックな白井晟一の室内演出も相まって「劇渋」(渋谷だけに?)。若者が来館しやすい立地なのにもったいない。
なによりわたし自身が、ざんまいずたちに会いたかった。「東京開催を機に、ついに着ぐるみが新調されるかも」などと、いまから思えばあらぬ希望的観測をしていたものだが、それも叶わなかったのだ……
※ざんまいずに関しては、こちらの過去投稿で
展覧会そのものについては、もちろん楽しめた。
館内のかぎられたスペース、さらにこの館の場合はアールを描く独特な室内空間をいかしつつ、仏教美術の流れの把握と各分野のとりこぼしのない紹介につとめられていたし、そのなかで名品・珍品が散りばめられてもいた。
静謐で思索的な白井建築と、宗教美術との相性はやはりよい。とくに、白井自身が入れ込んでいた禅にまつわるもの、清拙正澄《法語》(重要文化財)などは、観る者を深い思索へと導くような空間との調和がみられた。
出品作中の白眉《牛皮華鬘(ごひけまん)》(国宝)はじめ、昨年の「奈良博三昧」ぶりとなる作品もいくつか。再会を喜んだと同時に、今度はやっぱり奈良で観たいなあと思うのであった。そのときには、ざんまいずとの再会も、ぜひ……
※奈良博の夏の展示では、ざんまいずが今年も登板! 夏休みだからか
※《法語》の隣には、藤原定家の日記《明月記》の断簡が。これが、たまたま訪問したその日と同じ4月20日の条で、奇縁を感じた(暦は違うけども)。鳥羽離宮で、後鳥羽上皇らと舟遊びを楽しむといった記述内容