建部凌岱展 その生涯、酔たるか醒たるか:1 /板橋区立美術館
「たけべりょうたい」と読む。
その名前を聞いて作品や生涯が浮かぶ人は、ほとんどいないだろう。わたしの認識も甚だ怪しく、「建部綾足(あやたり)と同一人物でいいんだっけ……?」というくらいには、うろ覚えだった。
そんな「ど」がつくほどのマイナー絵師を取り上げたのは、板橋区立美術館。生え抜きのスーパー学芸員だった安村敏信先生が去られてからは、江戸絵画のパワフルな展示傾向が鳴りを潜めた時期もあったけれど、近年は盛り返している。それを象徴するような展示であった。
どのあたりが「板橋らしさ」を感じさせたのか。次の3点を挙げたい。
①を②でパッケージングして、③で会場展開するのが「板橋流」。
②に関してはリーフレットの実物を見ていただくのが早いのだが、データで失礼。こちらである。
外見は通常のA4ペラ1枚。手にとってみると、2つ折りであることに気づく。「ああ、A3だったか」と端に手をかけると、小口が二重になっているではないか。折れ目に従って全体を展開してみると……A2のポスターが姿を現すのだ!(※PDFの1ページめがA2の状態)
文字のデザイン、情報量、紙質にも、こだわりがうかがえた。
展覧会のリーフレットというものは溜まるいっぽうで、最近はあまりとっておかないことにしているけれど、これは例外に入れたくなる……
もちろん「デザイン負け」(①<②)なぞしていない。作品にも人にも、興味をひかれた。
冒頭で披露したわたしのうろ覚えもゆえのないことではなく、じつは画人「凌岱」としてよりも、文人「建部綾足」としてのほうが知名度が高い。
各種の辞書の項目立ては、おしなべて「建部綾足」となっている。マイペディアにいたっては、肩書は「江戸中期の俳人,歌人,国学者,読本(よみほん)作者」とされていて、絵師でもあったことは完全にスルーされている。
それくらい絵師としては隠れた存在であり、かつ実像のつかみづらい人物ともいえるのだろう。本格的な回顧展は、今回が初となる。
個人名で全集が編まれるほど、膨大・多彩な文芸作品を残している「建部綾足」。彼は「凌岱」という名の絵師でもあった――というわけだ。
そして絵師「凌岱」もまた、膨大・多彩なレパートリーをもっていた……この男、どれだけ広範な仕事をしているのか。
こういった、マイナーであっても規格外のスケールをみせる人物のことを知って、興味をもってもらえるように、さらに展覧会に足を運んでくれるまでにするためには、この大きなリーフレットが必要だったのだろう。
結果として、類を見ない情報量とインパクトの共存するリーフレットができあがったのだった。(つづく)