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薬師寺の「お身ぬぐい」
年末の風物詩となっている、お寺や神社の「すす払い」や「お身ぬぐい」。
先日12月15日の唐招提寺に続いて、昨日29日、同じ西ノ京の薬師寺でも「お身ぬぐい」を拝見してきた。
自転車を飛ばし、唐招提寺を通り過ぎて薬師寺まで。それでも、大した距離ではない。いいところに引っ越したなぁと思う。
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いざ入ってみると、人1人が通行できる程度にはまだ余裕があった。中尊に参拝し、人並みをかき分け、向かって左奥に陣取る。月光菩薩が側面から見え、かつその奥に御本尊の横顔を望める好位置だ。
唐招提寺と同じく、お身ぬぐいといえど堂内での撮影は許されていなかったけれど、幸いなことに、3分間の美しい映像が公開されている。この映像を起点に、現地ならではの情報や個人的に気づいた点をまじえつつ、振り返っていきたい。
薬師寺のお身ぬぐいは、お正月の餅を準備することからはじまる……と言ってしまうと語弊があるが、もち米を蒸し上げる際に沸かしたお湯を再利用して、お身ぬぐいはおこなわれている。
定刻の13時、加藤朝胤管主をはじめとする僧たちが入堂、さらに5分ほど経ったころ、朱金棒のジャラジャラという音とともに朱漆の湯桶3つが堂内に担ぎこまれ、三尊それぞれの前に置かれた。湯桶はドラム缶半分くらいの容量で、たぷたぷの湯が入った状態では、かなりの重量だろう。
朱金棒も湯桶も、白丁の男子が担当。大学生くらいだろうか。後ろには、緑の法被を着た同年代の女子たちがついてきた。
しばしのあいだ、読経がおこなわれた。仏前には、蓋がされたままの湯桶、白い布が何枚も積まれた高杯。見馴れない、少し変わった光景である。
色とりどりの散華の紙が撒かれたのち、読経が般若心経に切り替わるとともに……黒い袈裟の僧侶と、先ほど湯桶を運んできた白丁の男子、緑法被の女子が慌ただしく仏前になだれこんできた。お身ぬぐいとは、こんなに急にはじまるものなのか!
湯桶の蓋が開けられ、高杯の上の白い布巾「浄布」がどんどん湯に浸されていく。
須弥壇裏に用意されていた木のハシゴが壇上に持ち込まれ、月光菩薩の胸に立てかけられた。像に直接当たらないよう、ハシゴ先端の2か所は白い布を巻いて養生されてはいたけれど、ハシゴと人間1人分の重みは胸のところに集中するわけで、見ている側としてはひやひやもの。
ハシゴに登るのは、僧侶の役目だ。中尊の薬師如来坐像に関しては、僧侶が台座の上に直接上がって拭いていた。白丁たちは台座や足もとなどの低いところや、手の届く範囲を担当。
法被姿の女子たちは、湯に浸してよく絞った浄布を壇上の面々に渡し、また使い古したものを次々と受け取っていった。使い回しはせず、必ず新しい布を使用。ハシゴの上に対しては、3メートルほどの竹竿の先に浄布を引っ掛けて渡していた。
金堂の薬師三尊像をはじめ、薬師寺の講堂、東院堂に安置される主要なほとけたちは、みな金銅仏。もちろん細心の注意がなされることは前提ではあるものの、布で直接拭くという、文字通りの「お身ぬぐい」をしたとしても、いちおうは問題ない。このあたり、木像や乾漆像とは勝手が違う。
濡れた浄布で拭いていくと、金属の表面は湿り気を帯びて艶やかに輝きだす。塵が拭い取られ、ピカピカになったことがひと目で伝わるのがテレビ的にもよいのであろう、かなりの台数のカメラが押し寄せていたのだった。
ニュースとして編集されたVTRを観ると、どの局も年末の風物詩らしい長閑なテイストで報じているようだった。
じっさいの堂内では、般若心経が速めのピッチでエンドレスリピートされており、長閑どころか、なかなかにせわしない。誰一人として終始ペースを緩めず、躍起になって拭き拭きしているのであった。
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——お身ぬぐいを終えた薬師三尊は、風呂あがりのようにすっきりとした風情。見ているこちら側も、1年の塵が拭われていくようであった。
お身ぬぐいの一団は、次なるお堂へ移動していった。わたしは金堂に残って、しばし薬師三尊をながめて、寺を辞した。
もう少しゆっくりしてもいいのだけれど……わが家も、大掃除があるので……
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