木津川の古寺巡礼:4 浄瑠璃寺・下
(承前)
浄瑠璃寺の諸像のなかで、最も高い人気を誇るのが《吉祥天女立像》(鎌倉時代 重文)。まずは上のリンク先から、画像でしかとその美を堪能いただきたい。
堀辰雄「浄瑠璃寺の春」のみならず、吉祥天さまを慕って浄瑠璃寺を訪ねる人もまた多い。公開は春と秋、年始に限られており、この期間を狙って、こぞって人がやってくる。
わたしもじつは、そのひとり。「浄瑠璃寺へ行くなら、吉祥天は外せまい」というわけである。
吉祥天は中尊の左前に、厨子に入った状態で公開されていた。長らく秘仏として扉を閉ざしてきたことが、驚異的な状態のよさに繋がっている。
なお、オリジナルの扉は明治期に持ち去られ、東京藝大の所蔵に帰している。現在の厨子に嵌め込まれているのは、藝大の研究室による復元模写の扉だ。
※2022年に開かれた藝大美術館の展示では、この扉絵がフィーチャーされていた。
高さ90センチほどのお像。写真ではもっと大きそうに見えるし、じっさい、きらびやかな彩色は小ささを感じさせない。唐風美人の系譜を受ける下ぶくれの顔つきや体躯も、その印象を助ける。
眉目秀麗でたいへん美しいお像であるが、これを「かわいらしい」ととるか、「なまめかしい」ととるかは、意見が分かれそうなところ。儀軌には少女の姿にて表すものとあり、こちらが正解となるが、単にこのお像だけをみれば、どちらともとれそうだなとわたしは思う。
浄瑠璃寺の吉祥天は、1,000円切手の図柄として長く使われていた。日本で発売されたなかでは、額面が最も高い切手として知られる。
かつてコレクターであったわたしも、この切手を所有。吉祥天に関しては青いバックの印象がいまだに強く刻み込まれているが、それは浄瑠璃寺という名称の「瑠璃」と、頭の中で勝手に結びついてしまっていることも関係しているのだろう。
とかく語るべきことが多い、魅惑の仏像である。
浄瑠璃寺で、もうひとつ忘れちゃならないのが、境内に住まう猫たち。
かれこれ10匹ほどはいただろうか。うち半数は親子と思われ、子猫も4、5匹は確認できた。
阿弥陀堂への入堂受付の前には、陽当たりのよい猫たちの溜まり場が。長時間の足止めを喰らってしまうのであった。
自分でもすっかり忘れてしまっていたけれど……以前の職場では、デスクトップの壁紙に、浄瑠璃寺阿弥陀堂の濡れ縁でゴロ寝する猫の写真を使っていたのだった。そのことを、ようやく現地で思い出した。長いあいだ、お世話になりました。
いま浄瑠璃寺にいる猫たちは、あの壁紙の猫の血縁なのだろうか?
人馴れしていて触らせてくれる子が多かったし、なにより自然のなかで、のびのびと駆けまわっている姿が印象的だった。
浄瑠璃寺は、猫の浄土でもあった。(つづく)