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木津川の古寺巡礼:1 岩船寺

 京都府の最南部=「南山城(みなみやましろ)」には、魅力的な古刹・古仏が多く、大和国とはまた違った、かといってオーバーツーリズムの京都市内とはもっと異なる空気が流れている。
 恒例の「秋の特別公開」に合わせて、奈良市のお隣・京都府木津川市内の4つの古寺をまわってきた。

 越県とはいっても、岩船寺(がんせんじ)や浄瑠璃寺のある「当尾(とうの)の里」までは、近鉄奈良駅発のバス路線が至便であった。どうも廃止されてしまったらしい……かろうじていまの時期は「お茶の京都  木津川古寺巡礼バス」があり、便利。今回はこちらを利用させてもらった。
 わたしにとっては、2度めの当尾。美しい記憶を上書きしてしまうのがためらわれて、足が遠のいていたのだった。それくらい、いいところなのだ。
 浄瑠璃寺と岩船寺をつなぐ山道には、石仏の佳品が、これまたちょうどよい間隔で点在しており、ハイキングには最適。2寺の間をバスで移動する人を何人か見かけたが、非常にもったいないことだ。
 大雑把にいえば、岩船寺が山の上、浄瑠璃寺が山の下。前回は先にバスが停まる浄瑠璃寺から登ったが、今度は逆、岩船寺で下車して山道を下ってみることにした。

 岩船寺や浄瑠璃寺の門前では、無人販売所がたいへん充実している。とれたての野菜や漬物などの加工品が、束や袋単位で数百円、100円というのもめずらしくない。目移りしつつ、まずは参拝。

以前は門前に犬がおり、吠えまくられた記憶があるが……もういなかった
門をくぐると見えてくる、緑に囲まれた三重塔(室町時代・嘉吉2年〈1442〉 重文)
アジサイで有名な花の寺だが、緑と朱の対比もまた美しい
初層の開扉中だった
内部は極彩色。反対側には五大明王が

 本堂では丈六の《阿弥陀如来坐像》(平安時代  重文)と、その四方を護る《四天王立像》(鎌倉時代  京都府指定文化財)を拝観。
 阿弥陀さんと四天王、そしてわたしたちも含めて、とても密。須弥壇の奥を遠まきに仰ぎ見るのもよいけれど、こうして間近で、大きなほとけさまと空間を共有できるのはよいものだ。
 《普賢菩薩騎象像》(平安時代  重文)との再会は楽しみのひとつだったが、修復中で不在とのこと。12月に戻ってくるという。昨年秋の東京国立博物館「京都・南山城の仏像」にお出ましになったあと、そのままドックに入られたのだな。
 普賢さんは、細身・小柄で楚々とした、女性的なお像。岩船寺の池を中心としたコンパクトな境内に、なんとなくイメージが重なる。

 寺号に「岩」とつく岩船寺には、石造物にもいいものがある。

三重塔をそばで見守る《十三重石塔》(鎌倉時代  重文)
《石室不動明王立像》(鎌倉時代・ 応長2年〈1312〉 重文)。石の厨子に囲われた、レリーフ状のお不動さん
《地蔵菩薩坐像》(鎌倉時代)。「厄除け地蔵」として信仰を集める
《五輪塔》(鎌倉時代  重文)。五輪塔というのは「究極のかたち」のひとつだと思う
《石風呂》(鎌倉時代)。僧たちが入ったという、岩の湯船

 先に触れたように、当尾の里にはすぐれた石造物がたくさんある。これら岩船寺境内の石造物も、その一部なのである。(つづく



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