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古美術逍遙 ―東洋へのまなざし:3 /泉屋博古館東京

承前

 高麗仏画の他にもう1点、第2展示室から挙げるとすれば《線刻仏諸尊鏡像》(平安時代・12世紀  国宝)だろうか。
 金属の鏡面に諸仏を刻んだ、いわゆる御正体(みしょうたい)。鏨(たがね)の描線ならではの、拙なる素朴さがよい。コンディションがすこぶる良好でよく反射するため、角度を工夫して表情を変化させられる楽しみがあった。

 中国絵画の部屋と対になる第3展示室では、日本美術の名品を展示。
 茶道具、香道具、お能の道具と、いくつかの絵画からなっている。六曲一双の《二条城行幸図屏風》から手のひらに乗る仁清《白鶴香合》まで、素材も大きさもさまざま。

 わたしが再会を切望していたのは《小井戸茶碗 銘・六地蔵》(朝鮮王朝時代・16世紀)だった。
 大井戸茶碗の堂々たる風格に比べれば、小井戸は同種の釉薬を使いながら、まことに控えめな佇まいをみせる。自己主張弱めの、確かな実力者……この《六地蔵》など、まさにそんな茶碗であろうかと思う。
 たいへんな、景色のよさである。口縁のニュウすら味わいのうち。秋の深まりゆくこの時季などに、来し方を思い返しながら眺めていたくなる――そんな一碗だ。
 この茶碗が茶を擁し、紅潮するさまは、どんなにかよいだろう。そのような姿をいつか、手にとってじっくりと鑑賞してみたいものだ。

 お初にお目にかかった作品としては《蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱》(16~17世紀)がよかった。
 桃山から江戸初期にかけての造形は、時代の気性を反映して活力・活気に満ち、とてもエネルギッシュ。この箱の第一印象も、そのようなものだった。すごく、この時代らしい造形物だなぁと思う。
 小さな箱の各面に、非常に高い密度で文様が配されている。それぞれのモチーフは、みずからの存在を強くアピールしてひしめき合っているが、全体として破綻はみられない。細部に散りばめられ、脇役に徹したつつましい螺鈿も、よいアクセントとなっている。
 美しいのみならず、観る者・使う者を元気にしてくれるような、活気のある箱……ちょっと、欲しくなってしまった。

 第4展示室として、小部屋がもう1室新調されていた。
 以前はバックヤードだったコインロッカー奥のスペースで、中国趣味の煎茶飾り・文房具、明清の書画などを展示。こちらをもって、展示は終わりとなる。

 改装によって、素っ気なかったエントランスや受付はかなり「らしく」整ったし、念願だったであろうミュージアムショップとカフェが新規オープンしたことで、来館者サービスは大幅に向上した。
 今後、ますます発展していかれることだろう。目が離せない。


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