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お正月・奈良さんぽ

 元日の人混みを避けつつも、お正月期間中には、奈良公園周辺に頻繁に足を運んだ。この時期ならではの「美」と「食」を求めさまよった、行きあたりばったりの散歩の記録を残しておくとしたい。
 

■東大寺から春日大社へ、山沿いに

 スタートは奈良県庁前のバス停。バスを降りずそのまま乗っていれば東大寺や春日大社の表口まで行けるが、混雑を避け、搦手(からめて)から攻めようと考えた。なにより、お気に入りの “黄金コース” でもある。
 依水園、入江泰吉旧居、東大寺の戒壇院、講堂跡……すなわち、大仏殿の西側から北側へと針路をとる。毎回、同じところで写真を撮っている気がするし、同時に、どこかに必ず新たな発見が潜んでいる。いくら歩いても飽きない道が奈良にはたくさんあるが、ここなど、代表格ではないか。

大仏殿の西側。人はほとんどいない。この日は鹿もあまり見なかった。左の塀は、先日御開帳にうかがった勧進所
二月堂裏参道。入江泰吉はじめ、この界隈の風情を愛する人は非常に多く、わたしもそのひとり。毎回、このあたりから写真を撮っている……
二月堂といえば「お水取り」。奈良在住の今年は、本腰を入れて臨みたい。『男はつらいよ』第1作のロケ地でもある
二月堂の瓜燈籠

 上の写真の左側・フレーム外にある二月堂・北の茶所では、正月3日と5日に「坊雑」が振る舞われる。読んで字のごとく、お「坊」さんがつくるお「雑」煮のご接待である。

 お出汁がきいてたいへん美味しいのだとうかがってはいたが、今年はあいにく「坊雑券」の購入システムがよく理解できておらず、機を逃してしまった。来年こそは、ありつけますように……徳を積みたい。

 二月堂ときたら、お隣の三月堂こと法華堂へのお参りは必須。そのまま南へ足を伸ばして、手向山八幡宮の鄙びた風情を感じつつ、若草山で鹿に会いに行き、そのまま春日の杜に入って春日社・若宮社参詣、参道を下っていく——これこそが、個人的 “黄金コース” の全容である(「個人的」といっても「個性的」とはいえず、同じ道を愛する人は多いだろうけれど)。
 もちろん、途中で脇に逸れて若草山に登るなどしても、その先をさらに行って高畑町、ならまちに繰り出すも、自由自在。

東大寺法華堂。超高密度・高濃度の仏教空間に、いつも長居してしまう。以前は7時半から開いていたはずだが、コロナ禍を経て8時半からに
さんざん奈良に来ているのに、鹿せんべいを手に取るのはじつは初めて。人間も食べられなくはないが、実際に口にするのは「修学旅行生くらい」とのこと(売店のお姉さん談)
坊雑にありつけなかった悔しさを、古民家キッシュ専門店「レ・カーセ」のランチで発散。イートインは初。これほど野菜もりもりとは!
水谷茶屋。以前前を通ったときはブルーシートで覆われていたが、葺き替えが完了したようだ。インバウンド客にも人気
物欲しそうに見つめる

 お正月期間中だったため、春日大社の境内は参拝コースが一方通行、表参道側からに限られていた。5日ともなると、さほどの混雑ではない。いったんぐるっと回って、表参道に合流。
 この時期の春日大社に来てみて驚いたのは、ふだんは入れない拝殿の前庭が開放されていたこと。いつもお賽銭を入れて拝んでいる向こう側を、歩いて横切ることになる。なんだか、ふしぎな気分。

拝殿の前庭より撮影。本殿への特別参拝でも、この位置に立つことはない
樹齢800~1,000年「社頭の大杉」を望むこの位置も、同様

 

■侍の魂 弓馬と刀剣 /春日大社国宝殿

 平安貴族のみならず、武士(もののふ)たちからも厚い信仰を集めた春日大社に伝わる「戦の道具」の展示である。
 武芸の修練は「弓馬の道」ともいわれる。出品資料は弓術や馬術の道具といったややマニアックな器物、そして刀剣、武者や僧兵の戦闘を描いた若干の絵画資料から構成。鐙(あぶみ)の形状の変遷過程(輪鐙〈輪状〉→壺鐙〈スリッパの先だけ〉→半舌鐙〈尾の短いスリッパ状〉→舌長鐙〈スリッパ状〉)、若宮おん祭の流鏑馬(やぶさめ)をする稚児の装束再現などが興味深かった。刀剣の展示は、昭和14年に天井裏から錆びついた状態で発見、近年研ぎなおされた太刀からの3振が主体。
 テーマからすると意外なことに、甲冑は出ていない。「究極の国宝  大鎧展」の開催を夏(7月5日~9月7日)に控えているからだ。「大鎧展」は、現在開催中の本展を差し置いて初詣のポスター上で早くも宣伝されるなど、たいへんな力の入りよう。本展は、その露払いという位置づけなのだろう。今年度いっぱい開催。

 

■特集展示「蛇―巳年にちなんで―」 /東大寺ミュージアム

 春日の杜を抜けて、広い芝生の春日野園地へ。この静かな憩いの場を占有して、K-POPの無料ライブを県主導でやろうとしているなんて信じられない……というのはさておき、東大寺の敷地内に戻り、金剛力士像のいる南大門の脇の「東大寺ミュージアム」を訪問。
 干支特集は壁付ケース1面分のみで、あとは通常の展示。とはいっても久々だったので、時間をかけて拝見。《灌仏盤》(奈良時代  国宝)側面に施された毛彫りのやわらかい線刻や、《日光・月光菩薩立像》(奈良時代  国宝)のまっすぐに先を見据える敬虔なまなざし、胸の前で手を合わせる立ち姿の美しさに見惚れた。
 特集展示では、ヘビにまつわる仏教美術を開陳。煩悩を食い尽くす存在として、しばしば意匠化されるヘビ。《青面金剛像》(平安時代  重文=下図)には、いたるところにヘビがからみつく。六臂の各腕、両足、さらには首飾りや耳飾りまで、ニョロニョロ。

 また、十二神将のうち《巳神》(平安時代  重文)は、十二神将と十二支が結びつけて造形化された最初期の例という。
 少数精鋭、内容の詰まった展示だった。

 

■興福寺中金堂・吉祥天倚像  御開帳

 興福寺中金堂では、1月1日から7日まで《吉祥天倚像》(南北朝時代  重文)が開帳されており、こちらも拝見。
 華々しく福々しい、見ようによっては堂々としたお姿とは裏腹な、小ぶりでかわいらしいお像であった。

興福寺中金堂。内部で特製の匂い袋(200円)を購入。収益は五重塔の大修理に使われるという。カバンに忍ばせて、香りを楽しんでいる

 

■(番外)奈良のお雑煮

 2日のこと。奈良好きの集まるお店「ことのまあかり」さんにて、奈良のお雑煮+ミニおせちのセットをいただいた。
 上品な白味噌のお雑煮のなかから丸餅を引き出し、きなこ砂糖にまぶして食する。テレビなどの「ご当地お雑煮特集」では高確率で取り上げられる、ユニークなお雑煮文化。甘みと塩みの相性ばっちり、具材ゴロゴロで、お腹も心も満たされた。

 来年こそは、東大寺の坊雑もこちらも、両方いただくお正月にしたいものだ……新年早々にして、そんなことを思いはじめている。
 

 
 

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