TECHNICOLOR'S 吉野石膏コレクション展:1 /表参道ヒルズ
表参道ヒルズで吉野石膏のコレクション展が開催されていると聞き、会期終了の前日に滑りこみで行ってきた。
吉野石膏は石膏ボードの国内最大手メーカーで、印象派を中心とした西洋絵画、日本の近代絵画のコレクションでも知られている。
企業名に冠された「吉野」は、石膏の原料を採掘した創業の地に由来する。
すでに閉山している吉野鉱山がかつてあったのは、奈良の「花の吉野」でも、吉野川が流れる徳島や高知でもなく、山形県の南陽市。その縁で、美術コレクションは山形県内の山形美術館や天童市美術館へ寄託、公開されている。
隣県で都会を夢見る美術少年であったわたしの西洋美術への渇望を満たしてくれたのは、これら吉野石膏コレクションだった。高校の授業をサボタージュし、仙山線で越県した日のことが懐かしく思い出される。
表参道というロケーションが関係してか、本展のテーマは「所蔵作品と若手作家のコラボレーション」。
吉野石膏美術振興財団では、若手作家への支援もおこなっている。本展は6名の若手作家がコレクションを着想の源として新たに制作した作品を、もとになった作品とともに展示しようというもの。
そのコンセプトもさることながら、わたしが魅せられてしまったのは、メインビジュアルに採用されているモネの《サン=ジェルマンの森の中で》。
氾濫する色と光。消失点へ、途切れなく続いていく木々、梢。
小径は落ち葉に覆われて、どこまでが道かわからないほど。紅い葉は、これからまだまだ落ちていくだろう。画面から、葉擦れの音までがさわさわと聞こえてくるようだ。
道すがらこのような景色が現れたら、きっと、感嘆の声をあげてしまう。そして、しばし眺めたあと、スマホを向けたくなる。
モネが描く風景はそんな、今ふうにいうと「映(ば)える」風景が多いように思われる。絵になる理由、絵にした動機が、ひと目でよく理解できる。これもそんな一枚だ。
モネの描いた木々のトンネルに吸い込まれるように、わたしはこうして表参道までやってきたのだった。(つづく)