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あれから13年 ただの都会に感じられるようになったバンコク -第4章ー(2) Nickとの別れ、旅立ち

お付き合いを続けていくなかで彼女の境遇を知り、同情はしたものの、気付いてみたらそれは愛ではなかったし、もう自分の手には負えない何かがある事がはっきり分かっていたから、何とか自立して幸せになって欲しい、そう思っていた。

破天荒なNick

Nickの破天荒さは、野生のそれだった。
優しくされるとすぐにそちらの方へなびいて行き、気に入らない事があれば人眼をはばからず、相手を蹴落とす。幼い頃の境遇から培われてしまったものなのかもしれなかった。

自分勝手すぎて、仲良くなりかけた友達と大喧嘩をしでかし、絶縁となってしまうケースがあまりにも多く、また僕の友人に対しても同じような態度をとってしまう為、2次被害が尋常ではなかった。このまま行くと、2人での無人島生活は避けられそうになかった。

ある時、友達カップルと車でチェンマイへ旅行に行った時などは、自分が行きたい所に行けないからと大声でわめき散らし、対処に困った僕は、友人たちの手前、仕方なくNickをチェンマイに置き去りにした。あと10年から20年くらいは、Nickの顔を見たくないと思った。それでもNickは、無一文から自力でバンコクへ帰ってきてしまった。しかもその件があってからは、当然その友達カップルとも疎遠となってしまう。 
-このようなケースを、誰彼構わず、幾度となく繰り返していた。


ある日など、家の近所の市場を1人で歩いていると、見覚えのある車と擦り違った。僕が会社から支給されている社用車だった。何度も何度も注意したのに、Nickは無免許で勝手に僕の社用車を乗り回していた。1回は無免許で大事故を起こし、無免許のNickが運転していた事になると逮捕されかねないので、身代わりになった事もある。

夜のクラブ遊びを覚えてからも酷かった。僕の両親がタイに遊びに来て家に泊まりに来ている時でさえ、厚化粧とミニスカートで夜遊びに出掛けて朝帰りししてしまうし、またどこで知り合ったかしらないが、Nickの女友達が知らぬ間に家に住み着いている事もしばしばだった。それでも放っておいたのは、Nickが自分と分かち合える素晴らしい男性に出会えかもしれないという淡い期待を抱いていたからだ。


ある日、チャトチャックに2人で行った時、かわいい犬を見つけて我慢できなくなり、買ってしまった。 −ただこれに関しては、犬好きの僕も根負けしてしまったという側面が多分にある。子犬でいっぱいの檻に手を入れた瞬間、Nickの手に寄り付いてきた、真っ白な子犬。Nickはその子犬を抱き上げ、そのまま持ち帰る事となった。連れて帰る車の中で、助手席でコトっと寝てしまった子犬の寝姿を良く覚えている。
根負けするほど説得されて買ってきた犬なのに、Nickは面倒を見る事もなく、数日後には僕がシングルファザーになってしまっていた。Nickは、かわいいから買いたい、それだけだったのである。Nickをかばう訳ではないが、面倒は見ないけれど、かわいがっていたのは本当で、僕がこれだけ面倒を見ていたにも関わらず、どちらかと言えばNickの方によりなついていた。
別れる時も、ジャパンを連れて行こうかどうか、本当に迷った。ジャパニーズスピッツなので、Nickがジャパンと名付けた、かわいくて頭の良い二足歩行できる犬。ただジャパンに会いたいが為に付きまとわれる危険性があると考え、泣く泣くジャパンとお別れする事にした。

Nickが夜遊びに行って、僕が夜逃げする日。荷物をまとめて車に乗り込んだ。ジャパンがいつまでもついて来てしまうので、最後フリスビーを投げ、ジャパンがフリスビーを取りに行っている間に家の門を閉め、最後のお別れをした。

なんでこうなっちゃったのかなんて、説明できない

Nickと過ごした4年間、楽しいこともあったけど、80から90%がツラい思い出である。理解できず、魂を擦り減らし続ける日々だった。「話せばわかる」という言葉は、Nickには通用しなかった。僕は彼女にとって彼氏でもなかったし、兄でもなく、あしながおじさんでもなかった。-いや、あしながおじさんだったのか。

ただ彼女の生い立ちを辿っていくうちに、それは理解し合える次元のものではないと感じ、気持ちを改め、何の因果か自分の身近になってしまったこの子が、独り立ちできるようになって欲しいと思うようになっていた。ただその思いだけで大学に行かせ自立を促し、どんな形でもいいから幸せになって欲しいと、近いような遠いような所から眺めていた。

最終的にNickは、僕が夜逃げした数か月後に別の外国人と結婚して子供を授かり、当然のように2度目の離婚している訳だけれど、それでもたまにSNS等で近況を覗いてみると、何とか大学を卒業し、シングルマザーとして幸せそうにやってくれてそうなのが、僕の励みになっている。

※登場人物は、全て仮名です。

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