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【絵本風】あいのはな

とある企画に提出するサンプル作品として書いたもの。

あいのはな

「あーちゃんなんか大キライ!」
ドンとつきとばされて、あーちゃんはびっくり。
見ると、真っ赤な顔でにらんでいるのは、いっちゃんでした。
いっちゃんは手に1枚の絵をもって、仁王立ちしているのです。
「いたいじゃない!」
地面に尻もちをついたあーちゃんは、目に涙をうかべながら立ち上がって、いっちゃんを見つめます。
「なんでこんなことするの?」
「・・・・・」
いっちゃんは手にもっていたものを、バサっとあーちゃんになげつけました。
そして、
「・・・きらい・・・あーちゃんなんかきらい!」
そういって、茫然としているあーちゃんを置いて、走り去ってしまいました。
 
 
「ねえ、おかあさん、いっちゃんは本当にわたしのことキライなのかな…」
その夜、あーちゃんはお母さんにそう尋ねました。
いっちゃんが投げつけたものは、くしゃくしゃになった1枚の絵。
あーちゃんが描いた、お父さん、お母さんと春の野原にピクニックに出かけた時の、楽しそうに笑っている絵でした。
お教室に飾られて「大変よくできました」というリボンの勲章をもらった、自慢の絵。
今はところどころ破れたり、土で汚れたりしています。
「そうねえ・・・いっちゃんは・・・さみしかったのかもしれないわね」
お母さんはそっと言って、あーちゃんの頭をなでます。
「きらわれちゃったのかなぁ…」
かなしそうなあーちゃん。
泣きだしそうなあーちゃん。
「きっと、そんなことないわよ」
お母さんはあーちゃんの額にキスしてやりながら、今日はもう寝なさいと、お部屋の明かりをけしました。
 
 
次の日。
いっちゃんはあーちゃんを見ると、きっとにらんで、駆けていってしまいました。
「おはよう」をいうひまもありませんでした。
 
 
その次の日も、そのまた次の日も。
いっちゃんは同じようにあーちゃんをにらんではどこかにいってしまいます。
 
 
学校に行くときも、帰るときも、休み時間も。
いっちゃんはあーちゃんを見かけると真っ赤な顔をしてにらむので、とうとう、あーちゃんは泣きだしてしまいました。
「あーちゃん、どうしたの?」
お友達がききます。
「どこか痛いのですか?」
先生が聞きます。
でも、あーちゃんには答えられません。
ただ、
「わからない」
というばかり。
「いっちゃんのせいだ!」
誰かがいいます。
「ぼく知ってる、いっちゃんがあーちゃんをつきとばしたの!」
「わたしも知ってる!いっちゃんずっと、あーちゃんのこと無視してるの!」
「いっちゃんのせいだ!」
「いっちゃんのせいだ!」
お教室の中はいっきにざわざわして、みんなの目がいっちゃんに集まります。
 
いっちゃんは…
 
いっちゃんはいつかのように、顔を真っ赤にして、あーちゃんをみていました。
なにもいいません。
 
先生が近づいていってそっと、いっちゃんの前にしゃがみます。
「いっちゃん?」
やさしく呼びかけます。
いっちゃんは真っ赤な顔を下にして、ぐっと唇をかみました。
「なにか、理由があるのでしょう?」
だまったままのいっちゃん。
あーちゃんも涙を浮かべたまま、いっちゃんをじっとみつめます。
 
「だって…」
小さな声でいっちゃんがいいました。
「だって、ぼくだっていきたかったんだ。ピクニック」
 
ぽつん、と小さな声が響きます。
ぽたっと、小さな雫が、いっちゃんの足の先ににじみます。
 
「ぼくだって、いきたかったんだもの。
いっしょにいくはずだったんだのも。
でもお熱がでちゃったから、お留守番しようねって」
 
ぽろぽろと、真っ赤な顔で泣き出すいっちゃんをみて、あーちゃんも思いだしました。
 
あーちゃんといっちゃんはお隣さん。
遊園地に行ったり、海に行ったり、生まれた時からの仲良しでした。
ただ、いっちゃんは生まれつき体が弱く、おうちから出られないこともありました。
そんな時は、お花やお菓子をもっていっちゃんのおうちにいって、一緒に絵本を読んだりしていたのです。
 
このピクニックも、本当はいっちゃんのおうちと一緒に行くはずでした。
前の日にいっちゃんは熱を出してしまい、しかたなくお留守番になったのです。
「お花をたくさん摘んでくるね!」
あーちゃんはそういって出かけたのでしたのが、あまりにピクニックが楽しくて、楽しくて。
はしゃぎつかれたあーちゃんは、おうちに帰ったあと、いっちゃんのところにもいかずに眠ってしまったのです。
次の日もいっちゃんは学校をおやすみしました。
そしてその日の美術の授業で描いた絵が、あの、ピクニックの絵でした。
 
「ぼくだっていきたかったのに…
お花をたくさん摘んでくるっていったのに…
あーちゃんの…うそつき…」
 
ぽろぽろと涙をこぼしながら、いっちゃんはいいました。
「一緒に・・・行きたかったのに…」
 
先生がこちらをふりかえって、あーちゃんを見ます。
 
「いっちゃん…ごめんね」
あーちゃんはいっちゃんに近づいて、ぎゅっと抱きしめます。
 
「やくそく、忘れてごめんね」
「・・・あーちゃん、キライっていって、ごめんね」
 
ふたりは一緒に、ぽろぽろと涙を流すのでした。
 
 
 
あれから、たくさんの、夏がきて、秋がきて、冬がきて、そしてまた、春がきました。
あーちゃんといっちゃんは、海にいったり、お月見をしたり、クリスマスパーティをして過ごし、
そのたびにあーちゃんは1枚、1枚と絵を描きました。
 
どの絵にもあーちゃんといっちゃんがいます。
楽しそうにわらっています。
 
「いっちゃん、お花、つんできたよ、キレイでしょ?」
 
少し大人びたあーちゃんが、そういってたくさんのお花を差し出します。
たんぽぽ、シロツメクサ、菜の花、レンゲ、チューリップ。
ふんわりと春のにおいがひろがります。
 
 
「いっしょに、いきたかったな…」
 
絵の中のいっちゃんが、うれしそうに笑ったような気がしました。
 
END

(2023_04)

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アトガキ?
最後の「」を書いた瞬間に、いっちゃんが故人になってしまったという、
無意識に人が減っていた作品(苦笑)

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