【絵本風】あいのはな 3 仔骨(こぼね) 2023年11月8日 15:55 とある企画に提出するサンプル作品として書いたもの。あいのはな「あーちゃんなんか大キライ!」ドンとつきとばされて、あーちゃんはびっくり。見ると、真っ赤な顔でにらんでいるのは、いっちゃんでした。いっちゃんは手に1枚の絵をもって、仁王立ちしているのです。「いたいじゃない!」地面に尻もちをついたあーちゃんは、目に涙をうかべながら立ち上がって、いっちゃんを見つめます。「なんでこんなことするの?」「・・・・・」いっちゃんは手にもっていたものを、バサっとあーちゃんになげつけました。そして、「・・・きらい・・・あーちゃんなんかきらい!」そういって、茫然としているあーちゃんを置いて、走り去ってしまいました。 「ねえ、おかあさん、いっちゃんは本当にわたしのことキライなのかな…」その夜、あーちゃんはお母さんにそう尋ねました。いっちゃんが投げつけたものは、くしゃくしゃになった1枚の絵。あーちゃんが描いた、お父さん、お母さんと春の野原にピクニックに出かけた時の、楽しそうに笑っている絵でした。お教室に飾られて「大変よくできました」というリボンの勲章をもらった、自慢の絵。今はところどころ破れたり、土で汚れたりしています。「そうねえ・・・いっちゃんは・・・さみしかったのかもしれないわね」お母さんはそっと言って、あーちゃんの頭をなでます。「きらわれちゃったのかなぁ…」かなしそうなあーちゃん。泣きだしそうなあーちゃん。「きっと、そんなことないわよ」お母さんはあーちゃんの額にキスしてやりながら、今日はもう寝なさいと、お部屋の明かりをけしました。 次の日。いっちゃんはあーちゃんを見ると、きっとにらんで、駆けていってしまいました。「おはよう」をいうひまもありませんでした。 その次の日も、そのまた次の日も。いっちゃんは同じようにあーちゃんをにらんではどこかにいってしまいます。 学校に行くときも、帰るときも、休み時間も。いっちゃんはあーちゃんを見かけると真っ赤な顔をしてにらむので、とうとう、あーちゃんは泣きだしてしまいました。「あーちゃん、どうしたの?」お友達がききます。「どこか痛いのですか?」先生が聞きます。でも、あーちゃんには答えられません。ただ、「わからない」というばかり。「いっちゃんのせいだ!」誰かがいいます。「ぼく知ってる、いっちゃんがあーちゃんをつきとばしたの!」「わたしも知ってる!いっちゃんずっと、あーちゃんのこと無視してるの!」「いっちゃんのせいだ!」「いっちゃんのせいだ!」お教室の中はいっきにざわざわして、みんなの目がいっちゃんに集まります。 いっちゃんは… いっちゃんはいつかのように、顔を真っ赤にして、あーちゃんをみていました。なにもいいません。 先生が近づいていってそっと、いっちゃんの前にしゃがみます。「いっちゃん?」やさしく呼びかけます。いっちゃんは真っ赤な顔を下にして、ぐっと唇をかみました。「なにか、理由があるのでしょう?」だまったままのいっちゃん。あーちゃんも涙を浮かべたまま、いっちゃんをじっとみつめます。 「だって…」小さな声でいっちゃんがいいました。「だって、ぼくだっていきたかったんだ。ピクニック」 ぽつん、と小さな声が響きます。ぽたっと、小さな雫が、いっちゃんの足の先ににじみます。 「ぼくだって、いきたかったんだもの。いっしょにいくはずだったんだのも。でもお熱がでちゃったから、お留守番しようねって」 ぽろぽろと、真っ赤な顔で泣き出すいっちゃんをみて、あーちゃんも思いだしました。 あーちゃんといっちゃんはお隣さん。遊園地に行ったり、海に行ったり、生まれた時からの仲良しでした。ただ、いっちゃんは生まれつき体が弱く、おうちから出られないこともありました。そんな時は、お花やお菓子をもっていっちゃんのおうちにいって、一緒に絵本を読んだりしていたのです。 このピクニックも、本当はいっちゃんのおうちと一緒に行くはずでした。前の日にいっちゃんは熱を出してしまい、しかたなくお留守番になったのです。「お花をたくさん摘んでくるね!」あーちゃんはそういって出かけたのでしたのが、あまりにピクニックが楽しくて、楽しくて。はしゃぎつかれたあーちゃんは、おうちに帰ったあと、いっちゃんのところにもいかずに眠ってしまったのです。次の日もいっちゃんは学校をおやすみしました。そしてその日の美術の授業で描いた絵が、あの、ピクニックの絵でした。 「ぼくだっていきたかったのに…お花をたくさん摘んでくるっていったのに…あーちゃんの…うそつき…」 ぽろぽろと涙をこぼしながら、いっちゃんはいいました。「一緒に・・・行きたかったのに…」 先生がこちらをふりかえって、あーちゃんを見ます。 「いっちゃん…ごめんね」あーちゃんはいっちゃんに近づいて、ぎゅっと抱きしめます。 「やくそく、忘れてごめんね」「・・・あーちゃん、キライっていって、ごめんね」 ふたりは一緒に、ぽろぽろと涙を流すのでした。 あれから、たくさんの、夏がきて、秋がきて、冬がきて、そしてまた、春がきました。あーちゃんといっちゃんは、海にいったり、お月見をしたり、クリスマスパーティをして過ごし、そのたびにあーちゃんは1枚、1枚と絵を描きました。 どの絵にもあーちゃんといっちゃんがいます。楽しそうにわらっています。 「いっちゃん、お花、つんできたよ、キレイでしょ?」 少し大人びたあーちゃんが、そういってたくさんのお花を差し出します。たんぽぽ、シロツメクサ、菜の花、レンゲ、チューリップ。ふんわりと春のにおいがひろがります。 「いっしょに、いきたかったな…」 絵の中のいっちゃんが、うれしそうに笑ったような気がしました。 END(2023_04)<ご注意>朗読台本としての公開ではなく、あくまで個人の記録としての公開です。また、万が一「朗読してみたい」という奇特な方がいらっしゃいましたら、X(旧Twitter)のDM、もしくはSPOONのファンボードへご連絡ください。無断での朗読、自作発言などは硬くお断りいたします。アトガキ?最後の「」を書いた瞬間に、いっちゃんが故人になってしまったという、無意識に人が減っていた作品(苦笑) ダウンロード copy #オリジナル作品 #絵本風 #作仔骨 3 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート