文明と、そのカタストロフィのパターンについて調べてみた|Vol.1 シュメール文明編
はじめに
ごきげんよう。
みなさんは「シヴィライゼーション VI」(通称:Civ6)をご存知だろうか。
簡単に言えば、選択した文明をどんどん発展させて、別の文明を飲み込んだり、宗教戦争を持ちかけたり、科学力で圧倒したりするゲームである。楽しそうでしょ? (ちなみに、PCでもSwitchでも遊べるので気になった方はチェックして欲しい)
Civ6では、もちろん文明を発展させて、"世界一ィィィィ"な状態を作り出すこともできる反面、序盤で蛮族に邪魔されて全く発展できなかったり、重要な資源を取れずに科学力が伸び悩んだり、敵の侵略を受けて国力がダウンしたりすることもある。
最悪の場合、文明が崩壊する(ゲームオーバー)場合もある。
これは、何もゲームの中に限った話だけではない。人類の歴史においては、沢山の文明が興亡を繰り広げてきたし、衰退・崩壊した文明も数多く存在する。今回は、文明が「どんなパターンで衰退や崩壊を迎えてしまうのか? (カタストロフィに直面するのか?)」という点をご紹介できればと思う。シリーズものになる予定の為、気長にお付き合いいただけると幸いである。
この記事では、先ず文明等の定義付けを行うと共に、シュメール文明の例から、今後の記事の展開に向けての基礎を固めたい。次回以降は、ローマ帝国や大英帝国の例を取り上げたいと考えている。
過去の文明が「衰退」していった例を考察することで、私たちが今現在享受している文明・社会が衰退を回避する為のヒントを、歴史から見出してみようと思う。
そもそも、文明・カタストフィってなに?
では、先ず議論を進めていくうえで必要不可欠である、「文明」と「カタストロフィ(=衰退)」についての定義付けを行いたい。この定義付けは、この一連の記事の中での定義であり、他の論文・書籍の定義と異なる場合がある事に注意してほしい。
オーストラリア生まれの考古学者・文献学者であるゴードン・チャイルドは「文明は次のような特徴を持つ」として以下の点を列挙している。
①効果的な食料生産
②大きな人口
③職業と階級の分化
④都市
⑤冶金術
⑥文字
⑦記念碑的公共建造物
⑧合理科学の発達
⑨支配的な芸術様式
そしてそれを基にして、日本の文化人類学者である大貫良夫は以下のように文明を定義し、総括している。
では、文明という社会は、そうでない社会とどこがちがうのか。大きな人口は効果的な食料生産と、ある種の食料分配の制度があって、これを維持できる。そのような制度のもと、大きな人口は分業体制を持ったり、階層化したりしていて、これら分節化した人口をひとつの大きな社会の体系の中に秩序立てるのが政治のシステムである。そしてその政治のシステムの中には中心的役割を担う個人または機構がある。この中心機構は、行政上の指示を出し、これに従わない者には物理的な力を行使することを含む強制力を持つ。この強制力が公権力である。(中略)……一般に文明と呼ばれる社会とはこのような特徴を備えている。そしてそのもっとも特徴的な点はいま述べた政治のシステムであり、そのような政治システムを国家というのである。したがって文明とは国家という政治システムを持つ社会のことである。
この記述からすると、文明というものには、効果的な食料生産と食料分配の制度や分業・階層化を可能にする中心機構を持った政治システムが必要であるとした上で文明とは、[大きな人口を維持する為の制度を備えた政治システム]を持つ社会のことである...という形にまとめている。
これらの記述から、この一連の記事の中に於ける「文明」は以下のように定義したい。
① [大きな人口を維持する為の制度を備えた政治システム]を持つ社会
② ゴードン・チャイルドがいうところの9つの特徴を備えた社会
では、次にカタストロフィの定義を考えてみよう。広辞苑におけるカタストロフィ(catastrophe)の定義は次のようになっている。
①大変災。大惨事。②戯曲や小説の最後の場面。大詰。大団円。③悲劇的な結末。破局。カタストロフ。
つまり、巨大な破滅、大いなる終焉、悲劇的な崩壊、想像を絶する破壊というようなニュアンスを含んだ言葉であるといえる。
文明に於けるカタストロフィとは、すなわち文明の崩壊を意味するものである。ここでいう崩壊とは、広い区域内での居住人口の減少・又は政治的・経済的・社会複雑性の長期にわたる激しい凋落を意味する。
しかし、ある社会の衰退がどの程度激しければ崩壊と呼べるのかという判断は、非常に難しい(どうしても恣意的になってしまう)。
おそらく「ゆるやかな衰退」のケースの方が判断しやすい、かつ起こり得る可能性が高いと考えられる。
ここでの「ゆるやかな衰退」とは、人口・経済の縮小、隣接社会による征服、隣接社会の隆盛による社会の衰弱...によって判断することができる。
(また、低い生活水準、慢性的に高まっていく危険、社会の価値観を支えるインフラの崩壊などの要素も「ゆるやかな衰退」に含めても良いと考えている)
この一連の記事に於いては、文明が「ゆるやかな衰退」を迎えてしまったケースを主に考えつつ、パターンおよび教訓を見出してみたい。
シュメール文明を知ってるかい
現在のシリア北部からザグロス山脈の南麓、イラク北部にかけての北メソポタミアの「肥沃な三日月地帯」は、最も古い文明の発祥地であるとされている。そう、「メソポタミア文明」が発展した場所が、この肥沃な三日月地帯である。(世界史を勉強した方なら、もしかするとご存知かもしれない)
[上の図のうち、薄い緑色の部分が肥沃な三日月地帯であり、イラク南部の濃い緑の部分がシュメール文明の遺跡が見つかっている部分である。画像引用元]
しかし、人口増加や天候不順などで食糧の供給が困難となり、飢餓に苦しんだ人々は、極めて自然条件の厳しい典型的な夏季乾燥型で砂漠気候のチグリス・ユーフラテスに囲まれた南メソポタミアに南下していった。
肥沃な土地を捨てて、南メソポタミアに入植した人々は、困難かつ長期的な計画を必要とする灌漑施設を構築することに成功した。これにより、当時最大で最新の生産活動を可能とし、従来の雨水頼みの耕作地帯が生み出す量をはるかに超える生産性を確保することに成功した。
これは、その困難な条件を克服する工夫によって、農業の適格地以上の生産性を可能にしたのである。
このような生産活動を継続、そして持続させていくためには、高度で精密な灌漑施設を常に維持しなければならなかった。この為、集団を統率する有能で優秀な人物が必要不可欠であり、その指導者に従う上下関係にもとづく組織が生まれた。つまり、シュメール文明では政治システムが確立されていた。
ところが、この高度に発展したシュメール文明が、紀元前2000年頃には、凋落して衰退して行くのだが、その文明が滅びた要因は、“塩害による農業生産力の低下”であるとされている。
乾燥と高温による水分の蒸散の結果、地中の水分の塩類濃度が上昇していった。そしてなんと、苦労して作り上げた灌漑施設が塩類濃度上昇に拍車をかけていった。最初は塩分に弱い小麦の収穫量が減り、次に大麦まで影響を受け、最後にはナツメヤシ(果物)しか収穫できなくなってしまったのである。
悲しいかな、自然環境による様々な条件を克服した筈の灌漑施設が、塩害を引き起こすなど環境破壊に加担して農業収穫量の減少と農業生産性の低下を引き起こしてしまった。
加えて、灌漑施設を前提とした農耕ゆえに、各都市の領域が運河や水路などの水体系ごとに区切られ、その範囲内で余剰農産物を生み出す豊かさを享受してしまった為、その自己完結性から抜け出せず、それ以上の発展が見込まれなかった点も指摘されている。
シュメール文明を大いに発展させた要因(灌漑)が、都市国家の自己完結性の限界とあいまって、皮肉にも衰退をもたらしてしまった。
シュメール文明の事例からは、①その文明を繁栄させた原因や要素が、文明を衰退させる要因になる可能性があること ②自己完結してしまい、現状に満足してしまうことが文明崩壊に繋がりかねない点を読み取ることができる。
<※古代ローマ編へと続く>
(taro)
<参考文献>
青柳正規「人類文明の黎明と暮れ方」講談社, 2009年
大貫良夫, 渡辺和子, 前川和也, 屋形禎亮「世界の歴史1 人類の起源と古代オリエント」中央公論社,1998年
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