【読書メモ】『マネジャーの最も大切な仕事』──小さな進捗を見過ごさないために
1. はじめに|本との出会い
最近、チームづくりや育成の話題になると「小さな成功体験を積み重ねることが大切」とよく耳にします。そんな折に目に入ったのが、テレサ・アマビール & スティーブン・クレイマー著『マネジャーの最も大切な仕事』。副題にある「95%の人が見過ごす『小さな進捗』の力」というフレーズに惹かれ、「もしかすると、私もその5%を見過ごしているのではないか?」と気になって手に取りました。
著者の2人に関しては、これまで特段の知識はありませんでしたが、本の帯に「1万超の日誌を分析」と書かれており、かなり実証的な研究に基づいている印象。経験や勘だけでなくデータをもとに「小さな進捗」の意義を説くという点が、私の現場感覚ともリンクするのではと期待しました。
2. 著者・研究の背景
テレサ・アマビールは、組織行動やクリエイティビティ(創造性)の研究で有名なハーバード・ビジネス・スクールの教授。スティーブン・クレイマーは心理学者として、組織やモチベーションに関する研究を行っているそうです。
彼らは、669人のマネジャーに「仕事を活性化するための最も重要な要素は何か」を問う調査を実施。すると「小さな進捗(進捗のサポート)」を1位に挙げたのはわずか5%に過ぎなかったというのです。彼らはさらに、多くの企業・チームの日誌やインタビューを1万件超収集し、そこから「インナーワークライフ」を活性化する方法を探究。その結論として浮かび上がったのが「進捗の原則(The Progress Principle)」です。
3. 本書の要約|進捗の原則とインナーワークライフ
インナーワークライフ
人が仕事をする際の「認識(認知)」「感情」「モチベーション」の3つの要素を指します。これらが活性化すると、創造性や生産性がグッと上がる。逆に停滞するとモチベーション低下や離職につながる可能性が高まる。小さな進捗の力
チームの雰囲気や成果を左右するのは、「明確な目標」「対人サポート」なども大事ですが、最も見落とされがちなのが「進捗をサポートする仕組み」。些細な成功体験や前進をメンバーと共有し、当事者が自分で「今日は少し前に進めた」と実感できるようにすることがカギになる。7つの触媒ファクター&4つの栄養ファクター
本書では、仕事の進捗を促進する要素を触媒ファクター、人間関係を支える要素を栄養ファクターと呼んでいます。具体的には「仕事の目標を明確にする」「邪魔をしない」「適切なフィードバックを与える」「メンバー同士が相互支援できる環境を作る」などが挙げられ、これらが充実するとインナーワークライフが高まり、結果的に業績に好影響をもたらすと説かれています。
4. 読んで感じたこと・行動プラン
私自身、スポーツ指導(テニスコーチ)や社員教育の経験を通じて、「完全な成功じゃなくても、前回よりちょっと良くなった点を見逃さない」という姿勢の大切さを痛感してきました。ところが、仕事が忙しくなると意外と見過ごしてしまうもの。本書を読んで改めて「自分も5%の中に入れてるか?」と問い直す必要を感じました。
特に印象的だったのは、進捗を“上から管理”するのではなく、当事者が内からチェックできるようにサポートすること。マネジャーはただ報告を受けるだけでなく、「何ができたか」「どんな課題が残っているか」をチームと一緒に整理する姿勢が大事だとわかりました。また、組織全体で取り組まないと局所的な成功体験だけで終わってしまいかねない、という著者の指摘にもハッとさせられます。
実際にやってみること
業務マニュアルを3か月かけて再構築する際
マニュアルの項目ごとに「できた/できない」ではなく、「前回よりどこが改善したか」をメンバーに書き込める仕掛けを取り入れてみたい。
組織への提案
もし組織の風土がインナーワークライフを阻害しているなら、どうしようもない場合もある。ただ一方で、社員それぞれが“小さな進捗”を認識・共有できるような制度づくりを少しずつ提案してみたい。
5. どんな人におすすめ?
管理職・マネジャー層
チームの生産性や離職率に悩んでいる方、部下の育成に行き詰まっている方。
一般のビジネスパーソンや“部下”と呼ばれる人たち
インナーワークライフの活性化は組織全体で行う必要があるため、上司だけでなくメンバー側も本書を読めば「なぜ小さな成功体験が必要か」を理解し、互いに声をかけ合える。
組織・企業の人事担当者
階層関係なく進捗を見守る制度を作りたい、仕事の仕組みを再編したいという方に特におすすめ。
6. まとめ
『マネジャーの最も大切な仕事』は、「ほんの小さな進捗」を認め合うことが、いかに組織の活力や個人の成長を高めるかを、膨大なデータと実例で示してくれます。私自身も、「自分は本当に5%のマネジャーになれているだろうか?」と自省すると同時に、業務マニュアルや組織提案など具体的な行動を起こすきっかけを得ました。
気になった方はぜひ手に取ってみてください。CEOであろうが中間管理職であろうが、さらには部下の立場であろうが、この“進捗の原則”は誰にとっても学びの多い概念だと思います。