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「にゃんこ」が迷い込んだ先は…。アニマルレスキューの現場から

ふたたび播州人3号です。動物の世界にも「高所恐怖症」というのがあるのでしょうか。危険な場所で身動きのとれなくなった生き物のため、救助のプロが駆けつけることがあります。飼い主にとってはかけがえのない家族であり、たとえ「野良」であってもか細い鳴き声を聞けば、おなかをすかせているのではないかと放っておけないのが人情というものです。紙面などで取り上げてきた動物たちの救出劇のうち、「にゃんこ」のケースを紹介します。

犬にほえられびっくり柱の上へ 24時間後に救出


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 東灘区の御影高校で15日から16日にかけて、猫が運動場の柱(高さ約15メートル)に上ったままほぼ丸一日、下りられない状態が続き、消防隊などが出動して救出劇を繰り広げた。
 猫は15日夕、散歩中の犬にほえられたことに驚いて走りだし、そばのフェンスを伝って柱の上へ。下りられないまま翌朝を迎えた。
 16日午前、出勤した教諭が住民からの留守番電話を聞いて状況を知り、消防へ通報。しかし、到着したはしご車は運動場の入り口を通れず、思わぬ長期戦に入った。
 教諭らは猫が転落してもけがをしないよう、柱の下にネットを用意した。同日夕、消防から連絡を受けた高所作業車が到着。作業員2人がはしごを伸ばして近づき、網を使って救出すると、集まった住民らから歓声が上がった。近くの自宅から一部始終を見守った生徒は「たくさんの人が猫を心配し、力を合わせたから助けられた。本当にうれしい」と語った。

  (2020年4月18日付朝刊より)

突然犬にほえられ、逃げるのに必死だったのでしょうか。気付けば足もすくむ15メートルの柱のてっぺん。写真の表情もどこかさえません。

「転落」を想定しなければならないほど厳しい状況だったことが、記事からうかがえます。それだけに救出成功の瞬間、心配そうに見守っていた住民らの発した歓声が聞こえてきそうです。

大人の背丈ほどもある塀にも軽々とよじのぼるネコですが、迷い込んだ場所によっては、本格的な救助が必要になることもあります。

人気者の「ミィちゃん」が迷子になったのは、サッカーやラグビーのワールドカップの会場にもなった、あのスタジアムでした。

「ミィちゃん」大捜索 ヴィッセル本拠地“ノエスタ”屋根で孤立1週間

 サッカーJリーグ1部・ヴィッセル神戸の本拠地「ノエビアスタジアム神戸」(神戸市兵庫区)で、高さ約10メートルの屋上から1匹の猫が降りられない状態が続いている。住民らの努力もむなしく、孤立は1週間に及ぶ。15日には消防隊員らが出動し、住民らが祈るような表情で捜索を見守った。

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 「猫が1週間ぐらいノエビアスタジアムの上から降りられていない」。15日午前、神戸新聞社にスタジアム近くの住民から連絡があった。ツイッターで「ノエビアスタジアム」と検索すると、屋根からひょっこり顔を出す黒い猫の動画が上がっていた。実家で猫を飼う「ネコ派」記者も「これはかわいそう」と昼食を取るのも忘れ、現場に向かった。

複雑な構造のスタジアムです。

当日、現場に到着したネコ派記者からの電話を受けましたが、「屋根って、あのでっかい屋根のことかいな?」「ネコがあんなとこにどうやって上がれんの?」とかみ合わないやりとりがしばらく続きました。

届いた写真を見てようやく納得しました。


 スタジアム北側に、祈るように手を合わせて屋根を見上げる住民らがいた。近くには消防車が2台。消防隊員8人のほか、警察官の姿もあった。隊員に聞くと、コンクリートの斜面から続く屋根の上に猫がいるため、スタジアムの内側から隊員が屋根に降りて救出する作戦だという。
 住民によると、猫は不妊・去勢手術を終えて地域に住み着いた「地域猫」。黒や灰色の毛が特徴で、「ミィちゃん」の愛称で親しまれていた。今月8日ごろに仲間の「マメ」とともに斜面を伝って屋上に上がったが、怖がりだったのか、1匹だけ降りられず取り残されたとみられる。

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 周辺は人通りが多く、高いところから聞こえる「ニャーニャー」という鳴き声に、心配して立ち止まる人もいるという。住民が斜面を登って助けようとしたり、釣りざおを使ってエサで誘い出そうとしたりしたが、1週間たっても地上に降りてくることはなかった。背骨が見えるほどに衰弱した様子に、住民らが14日夜、消防や警察にSOSを出して助けを求めた。
 救出活動が決行された15日、午前中には姿を見せたというが、その後は確認できない。雨水槽に続く直径20センチほどの穴に入り込んだとみられ、隊員らの姿にびっくりして逃げ出したときのために網も用意して付近を確認した。

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 屋根の上の隊員から「鳴き声も聞こえません」「姿も見えません」との報告が続き、捕獲用のケージを仕掛ける作戦に変更。動物の保護活動に取り組む女性が持参したもので、ツナ缶のような柔らかいエサがケージ内に置かれ、猫が食べようとすると扉が閉まる仕掛けだ。猫が隠れたとみられる穴の横にケージを置き、隊員や住民らは午後2時ごろ現場を離れた。
 今後、スタジアムの警備員らが防犯カメラなどでケージを点検し、猫の姿が確認されれば、再び消防隊が出動する予定。
 見守っていた女性(65)は「みんなに好かれていた幸せな猫。なんとか無事でいてほしい」と話した。    

(20年12月15日神戸新聞NEXTから)

大規模な捜索作業の動画はこちらです。

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15日中の救出はかないませんでしたが、大方の人が予想されている通りのことが起きます。

ケージを置いてから2日後、ミィちゃんの消息を心配していた記者も喜んで現場に駆けつけました。

スタジアム屋上で孤立の「ミィちゃん」無事救出

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 神戸市兵庫区の「ノエビアスタジアム神戸」の屋上から降りられなくなった猫の「ミィちゃん」が17日午後、無事救出された。消防隊員ら約10人による半日がかりの“作戦”だった。
 近くの住民によると、ミィちゃんは不妊・去勢手術を終えて地域に住み着いた「地域猫」。高さ約10メートルの屋上に上ってから、10日ほど降りられなくなっていた。
 15日にも隊員が救出しようとしたが、驚いたミィちゃんが雨水槽に続く穴に逃げ込み、そのままに。エサを仕込んだケージによる捕獲作戦に切り替えていた。17日朝、ケージの中に入っているのを確認したスタジアムの管理者が消防に通報。午後1時過ぎから救助活動が始まった。ハイライトは午後2時。隊員がケージに毛布をかぶせ、ひもをくくりつけてゆっくりと地上に降ろした。
 「カラビナOK」「ロープ緩めて!」
 腰に命綱を巻いた隊員がケージをつり下げ、ゆっくりと降ろしていく。周囲でNPO法人「神戸猫ネット」のメンバーや住民が固唾をのんで見守る中、3分ほどで地上へと到達した。

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 下で待ち構える隊員が毛布をめくると、ケージの中から「ニャー」とか細い鳴き声。「心配掛けて」「やせたんと違う?」。住民らが口々に言い、ほっとした表情を浮かべた。

(20年12月17日神戸新聞NEXTから)


お騒がせのミィちゃんですが、その後、新しい飼い主に引き取られることになりました。

その経緯を紹介した記事がこちら

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こうした動物の救助はどれぐらいあるのでしょうか。

少し前の記事に件数などが触れられていました。

動物救出にも一役 2005年は13件出動、2件で成功 

 木から下りられなくなったり、側溝から出られなくなったり―。困ったネコたちの救出に、明石市消防本部の救助隊員らが大活躍している。火事や救急の出動など人命救助が最優先だが、窮状を見かねた目撃者からの通報を受け、業務に支障のない範囲で〝特別出動〟。動物救助を目的とした消防車の出動が二〇〇五年は十三件に上った。
 出動したうち、実際に救助活動をしたのは九件で、対象はすべてネコだった。五月と七月に各三件と集中しており、六、九、十一月にも一件ずつ起きた。 動物が相手だけに救助するのも大変だ。排水管や側溝から、ネコの鳴き声はするものの姿が見当たらなかったり、救助の途中に怖がって自力で逃げ出したり。救出に成功したのは、入り込んでいた側溝の鉄製のフタをバールで取り外し、エサでおびき寄せて救出(五月)▽桜の木に登って下りられなくなっていたネコを、隊員が横のフェンスに登って救出(六月)―した二例だった。助け出したネコは、飼い主が分かった場合には返し、飼い主が分からない場合は「拾得物」として警察に届けている。
 〇四年には、出動要請が十六件あり、うち六件で実際に活動した。救出成功例の中には、乗用車のエンジンルームに入り込み、エンジンとバッテリーの間に挟まれて脱出できなくなったネコを、通報を受け、救急隊員があらかじめ用意したほうきの柄を利用して救出した事案もあった。
 今年も既に二件出動しており、同本部は「国の通達があり、動物愛護の観点から業務に支障のない範囲で出動している」と話している。      

  (2006年3月20日付朝刊から)

15年以上前でも一定の出動があったことが分かります。

過去の紙面を調べてみると、ネコや犬のほか、キツネやタヌキ、イノシシの救助などが取り上げられていました。ミィちゃんの救助もそうでしたが、消防署員だけでなく、警察官や市職員が協力することもありました。

動物の救助は「アニマルレスキュー」とも呼ばれ、明石の記事では「動物愛護の観点」が出動の理由に挙げられています。

神戸市消防局に尋ねると、「災害対応が優先される中で、市民サービスの一環として動物を救助することもあります」と説明がありました。神戸市では昨年27件の出動が記録として残されているそうです。

飼い主にとっては大切な家族であり、慣れない救助を住民に任せれば、高所からの転落などの危険も伴います。

いくつかの現場を見て思うことですが、人の救助と違って、動物の場合、比較的現場に近寄ることができます。「市民の要請になんとか応えたい」と真剣に救助に取り組む隊員らの姿を間近で目にすれば、消防への信頼も高まるように思います。

ただ、消防の業務はあくまで人命優先です。兵庫県外の消防本部でしたが、「動物の救助を原則行っていない」とホームページでわざわざ断っているケースもありました。

ペットが危険な場所に近づかないよう気を付けるのも飼い主の役目ですね。

<播州人3号>
1997年入社。犬も猫も身近にいる中で育った「犬猫派」です。道路に寝そべっている野良猫や、暇そうにしている飼い犬を見ると、「だいぶ暑そうやな」とか、「きょうは留守番か」などとつい声を掛けてしまいます(人の多い場所では控えます)。

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