宍粟、養父、倭文…。全部読めますか? 難読地名の数々
地元の人には当然なのでしょうが、なんでそう読むのか見当もつかない地名があります。「難読地名」と呼ばれ、赴任間もない記者たちのコラムの定番にもなっています。その読みにくさがきっかけで交流が生まれたり、まちのPRに生かしたり…。そんな記事4本を、播州人3号が紹介します。
栗花落、一番合戦、忍海辺、釈氏、泥…
紙面に掲載した「難読名字」の投稿はこちら
最初は兵庫県の西部にある「宍粟(しそう)市」の話題です。
宍粟市 官公庁も誤記
郵便物「穴栗」でも届くけど…
職員ら連呼、PR
全国屈指の難読地名として知られる宍粟(しそう)市で、官公庁から市役所に届く郵便物でも宛名の誤記が相次いでいる。隣接する姫路市や兵庫県ですら「宍栗」「穴粟」などと誤った宛名を書いたケースがあった。市名を間違っても郵便物は届いているものの、宍粟市職員は「まずは官公庁に正しい市名を覚えてもらおう」と、他市町との会合などで「しそう」の連呼に努めている。
宍粟市は2005年の合併により誕生。09年発行の「日本の珍地名」(竹内正浩著、文春新書)で難読・誤読地名の西の横綱に選ばれ、これを機に、難読を逆手に取ったPRを進めている。東の横綱の千葉県匝瑳(そうさ)市との合同イベントを6月に開催、市名の歴史的背景を学ぶ講座なども手掛ける。
市では今年に入って市役所に届いた郵便物を調査、その結果、月に10件程度、宛名の誤記が見つかった。官公庁からのものでは、国土地理院や国民生活センター、日本銀行などが「穴粟」と表記。兵庫県地域再生課や姫路市観光交流推進室も間違えていた。
「視察に来られた方からのお礼状でも、よく間違えられる」と市の担当者。個人からの郵便を含めれば、年間100件以上はあるという。印刷された宛名にも間違いが見つかり、「パソコンに“しそう”と打ち込めば漢字変換されるのに…。そもそも正しく読まれていない」と苦笑い。
市職員は正しい市名を伝えるため、市外で名刺交換する際には「難しい地名で西の横綱に選ばれた“しそう”です。穴栗(あなぐり)ではありません」などと念押しし、地道な努力を続けている。
(2012年10月5日付朝刊より)
播州人には合併前の「宍粟郡」のころから慣れ親しんだ地名ですが、「穴」や「栗」など似た漢字があるだけに書き間違えも多そうですね。
宍粟市は、兵庫県内で2番目に広い市域を持ち、その9割を森が占めています。1000㍍を超える山々がそびえ、滝や渓谷などの景勝地も有名です。
新型コロナの影響で、公開や営業などが中止されていますが、平安時代に植えられたとされる「千年藤」(同市山崎町)や、川の対岸から伸びる約30メートルの樋を、そうめんが雪解け水とともに流れてくる「滝流しそうめん」(同市波賀町)も知られています。
記事中にもある難読地名の紹介本の影響で「宍粟」の名は一気に知れわたったようです。
興味深いのは、それをきっかけに災害応援協定にまでつながった交流です。
宍粟市 難読地名の縁
千葉・匝瑳市と災害応援協定を締結
難読地名が縁で交流を続けている宍粟市と千葉県匝瑳(そうさ)市は22日、災害時に救援物資の提供などで連携する「災害時相互応援協定」を締結した。
両市は2009年、「日本の珍地名」(竹内正浩著、文春新書)で、難読ぶりが東西の「横綱」に選ばれた。これを逆手に取ってPRしようと、2年前に交流を始めた。
協定は、食料や飲料水ほか復旧に必要な資機材の提供▽復旧活動に必要な職員の派遣▽被災者の一時受け入れ―などを盛り込んだ。両市とも、隣接しない県外自治体との災害協定は初めてという。
締結式は宍粟市役所であり、福元晶三・宍粟市長と太田安規・匝瑳市長が出席した。匝瑳市は太平洋側の九十九里浜に面し、11年の東日本大震災では津波被害を受けた。太田市長は燃料などの確保に苦労した経験を振り返り、「東西で一度に被災する可能性は低く、今回の協定は非常に心強い」。福元市長は「距離はあるが互いが助け合う中で、観光面などでも交流を深めていきたい」と話していた。
(2014年11月24日付朝刊より)
「難読」で協定を結んだ両市は、実際に豪雨の被害が出た際には市民らから義援金が届くなど関係を深めています。
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こちらも兵庫県民にとっては知られた市名ですが、「難読」と言われてみれば、初めて見る人には読みにくかもしれません。
養父市〝名誤読〟募集
ようちち、イクメン、やふー…
難読逆手、知名度アップ作戦
兵庫県以外では「ようふ市」「ようちち市」などと誤読されることの多い養父(やぶ)市が、あえて面白い読み間違いを募るユニークなキャンペーンを始めた。〝難読〟ぶりを逆手に取って知名度を高めることが狙いで、既に「イクメン市」「やふー市」などの読み方が寄せられているという。
「なにかと読めないまち養父市キャンペーン」と銘打ち、事業費には国の緊急経済対策を活用。「読めない」には地名のほか、「どんな事業に挑戦するか先が読めない」との意味も込められている。
読み間違いは短文投稿サイトのツイッターで募集。応募方法は、キャンペーン用のアカウントをフォローし、つぶやく。
同キャンペーンでは合わせて、農業分野で指定されている同市の国家戦略特区や移住、定住促進などの取り組みをアピールする。
(2015年9月7日付朝刊より)
難読を逆手にとったキャンペーンです。宍粟市もそうでしたが、ちょっとしたきっかけも逃さない、行政マンのたくましさを感じます。
紙面でたびたび取り上げられる難読地名ですが、一ひねりしてクイズ形式で読みにくさを伝える記事が見つかりました(答えは最後にあります)。
兵庫県内各地の魅力を紹介する連載の1回です。
国生み 古代地名の宝庫
今回は、国生みの島・淡路の難読地名をたどる旅。
播磨灘に面した淡路市北部の野島蟇浦(①)から山を越え、洲本市の安乎(②)や炬口(③)を経て南へ。タマネギやレタスなど豊かな農産物で知られる南あわじ市に入る。榎列掃守(④)に志知佐礼尾(⑤)、神代地頭方(⑥)…。市市(⑦)や阿万(⑧)も外せない。沼島と結ぶ連絡船が発着する灘土生(⑨)。極め付きは倭文(⑩)だ。
いずれも、現役の地名である。明石海峡大橋の開通以降、観光客はすこぶる増えたが、すらすらと読める島外の人は少ないだろう。
なぜ、多いのか。淡路地方史研究会顧問の武田信一さん(82)は「淡路島は古代地名の宝庫だから」と説明する。およそ千年前、平安末期以前から受け継がれる地名には、長い歴史の積み重ねが宿っている。
皆さんはいくつ読めましたか? 正解は、最後まで読んでいただければ分かります。
(2018年7月15日付朝刊より)
市町名は読めても、地名となると、住んだことのない地域の場合、さっぱり読めません。
5月から音声ニュース「めっちゃ兵庫」で、紙面に掲載された最近のニュースを記者が声で届けていますが、困るのが地名や施設名の読み方です。こうとしか読めない、と思いながらも、念のため筆者や現地のデスクに問い合わせたり、勤務したことのある同僚に尋ねたりして確認しています。
音声ニュース「めっちゃ兵庫」はこちら
一方で、紙面では読みにくい地名にルビ(読み仮名)を振るようにしています。デスク作業の際、勤務したことのある地域の原稿では地名がすらすらと読めてしまうので、大刷り(ゲラ)になって慌てて読みを加えることがあります。
先ほどの淡路の地名の答えです。いくつ読めましたか?
①のじまひきのうら
②あいが
③たけのくち
④えなみかもり
⑤しちされお
⑥じんだいじとうほう(「じとほ」とも)
⑦いちいち
⑧あま
⑨なだはぶ
⑩しとおり
<播州人3号>
入社25年目。姫路市内の地名に「夢前」があります。「ゆめさき」と読み、川の名前や学校名にも使われています。10年ほど前、市外の人から「夢の前と書いて『ゆめさき』ってロマンチックな地名ですね」と言われ、はっとしました。地名以外にも外から指摘されて気付くことって意外に多いです。