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新兵庫〝珍百景〟Ver.2

 北は日本海、南は太平洋に面し、摂津、播磨、丹波、但馬、淡路の旧五国からなる広大な兵庫県。日々、さまざまな記事を取材し、120年以上新聞を発行していますが、まだまだ知らない場所、目を疑いたくなるような建物、驚くような人との出会いはつきません。
 新兵庫〝珍百景〟の第2弾は、「神戸の中学校で脈々と続く黙想」「正体不明の黄金のハト」「環状交差点VS円形交差点」の3本を記者歴約30年のド・ローカルが紹介します。

神戸の中学校で脈々と続く「黙想」って何?

目を閉じ、心を落ち着かせる「黙想」。神戸では、集会前に行う中学校が多い

 とある神戸市立の中学校。集会で着席した生徒たちは隣や前後との会話に夢中で、ざわざわと騒がしい。「気持ちを切り替えましょうね。はい、黙(もく)想(そう)!」。教師の号令で生徒が一斉に目を閉じた。30秒…1分…。静寂が降り落ちる。「やめ」。合図で目を開けると、みんな落ち着いた様子だ。そのまま集会が始まった。三重県出身の私にはなじみのない光景だ。どうやら神戸の中学では、当たり前に行われているらしい。黙とうじゃなく「黙想」って―?

 神戸市教育委員会によると「推奨しているわけではないが、昔から黙想を採り入れている中学校は多い」とのこと。無作為で選んだ市内30校に問い合わせると、9割近い26校が主に集会前に採り入れていた。座ったまま背筋を伸ばし、目を閉じるのが共通するやり方だ。
 「気持ちを切り替え、次の物事に集中するため行います。人が集まる場では静かにするというルールを身に付けるためでもある」とは、神戸市兵庫区の市立中学校の校長。この学校では休み時間が終わる2分前に着席。黙想をして授業に入る。2年生の女子生徒は「気分が落ち着き、勉強に身が入る。みんな静かな分、集団行動も早くなる」と話す。
 テスト前や帰りのホームルームで黙想をする学校もあり、教師たちは「いちいち『静かに』と注意しなくていい」と口をそろえる。
 規則やマニュアルがあるわけではない。先輩教師を見習って自分も始めたという教師が多く、「私が中学生の時からやってましたよ」と話す49歳の教頭もいるくらいだから歴史は古そうだ。由来を尋ねると、みんな「さあ?」と首をひねる。
   
 関西大学の男性助教=教育学=によると、明治末期から大正にかけ「黙想」や「黙思(もくし)」の名で、姿勢を正して瞑想(めいそう)する健康法が流行したという。それが精神集中法として、主に関東の私立学校で採り入れられた。東京・成城小学校の文献には、1921(大正10)年に授業の前後、黙想をした記録が残る。
 90年近い時を経て、なぜ神戸で、しかも中学校で“伝授”され続けるのか? 兵庫県内の他地域を調べてみると、宍粟やたつの、朝来市でも黙想を採り入れる学校が多いことが分かった。
 「伝統ある私立校はともかく、公立校で黙想が広まっているのは珍しい」と小室助教。その理由について、戦後、神戸大学で教師論などを教え、退官後は神戸海星女子学院大学で教壇に立った教育者、森信三氏(1896~1992年)を挙げる。背筋を伸ばすことで、集中力や持続力を養う「立腰(りつよう)教育」を提唱するなど、戦後の教育界に大きな影響を与えた。
 森氏は教師に対し、授業の合間合間に立腰を指導するよう勧めていた。その際に瞑目(めいもく)することも説いており、助教は「兵庫は森氏の地元。黙想の文化が学校現場に浸透しやすかったのでは」と推測している。

(2012年6月15日朝刊から)

 この記事を取材したのは三重県出身の記者です。神戸市内の担当となり、中学校の取材をした際、初めて見る光景に驚いた様子でした。当時、私は記者の原稿を手直しするデスクと呼ばれる仕事をしていました。報告を聞いて「何んで驚いているの?」と問い返しました。それもそのはず、私はこの原稿にも出てきますが、朝来市出身。中学時代、黙想をやっていた立場だったので、当たり前と思っていました(笑)

正体不明の黄金のハト

背中と羽の先端が黄金色のハト
ドバトの群れの中で、ひときわ目立つ=いずれも神戸市兵庫区、湊川公園

 背中と羽の先端が黄金、首筋がピンク色…。グレーが基調の地味な群れの中で、ひときわ目立つ奇妙なハトが神戸市兵庫区の湊川公園に飛来している。鳥類の専門家は「人為的には見えないが、金色のハトは見たことがない」と首を傾(かし)げる。なぜ「黄金のハト」になったのか。調べてみた。

 そのハトを見つけたのは7月上旬。数十羽の群れに溶け込み、木陰で休んだり、仲間で追いかけっこをしたりしていた。頭やしっぽ、羽の大半は通常のドバトのグレーだが、首筋と羽の先に鮮やかなピンクと黄金色が交じる。羽を広げて飛ぶ姿は熱帯のインコのようだ。
 毎朝、同公園でハトにえさをやっている男性によると、黄金のハトが時々、飛来するようになったのは6月ごろだという。
 「出合うと、なんかええことがあるような気になる。珍しがって携帯カメラで撮影する人もおるで」
 人と自然の博物館(三田市)で鳥類を研究する布(ふ)野(の)隆之研究員(動物生態学)に画像を見てもらった。「自然な発色で、いたずらには見えない」。目の周囲の特徴からアルビノ(先天性のメラニン欠乏)ではないという。ドバトの色素は濃いグレー、白、茶色で構成され、交配でさまざまな柄や色になるが「どう掛け合わせても黄金色やピンクにはならない」。黄やピンクの色素を持つインコやオウムとの交配も「種が違うからあり得ない」と言う。
 それならば…。日本で唯一、鳥類を専門に研究する公益財団法人「山階鳥類研究所」(千葉県)に尋ねてみた。平岡考専門員は「自然発色でそんな色は聞いたことがない。レース鳩か、研究用の着色ではないか」との回答。
 日本鳩レース協会(東京都)にも聞いてみた。「レース鳩を着色することはない。第一、飼い主のいる迷いバトなら足輪をしている」。
 黄金のハトに足輪はない。手を尽くしたが、結局、鳥類の専門家らから「黄金」の謎を解明する答えを導き出すことはできなかった。
 7月以降、2回、そのハトを公園で見かけた。そのたび、何か得をしたような気分になるが、今のところ幸運は訪れていない。

(2013年5月14日付夕刊から)

 新聞社が原稿にする場合、調査を重ねると通常は何らかの答えが導き出せるものです。黄金のハトの場合、国内で考えつく、あらゆる専門家に取材を尽くしましたが、その答えは「分からない」でした。それはそれで、記事にするのも興味深いと思い、記事化しました。

「神戸・環状交差点」VS「豊岡・円形交差点」

 兵庫県内初の環状交差点。進入路に「ゆずれ」の表示がある=神戸市中央区港島南町6
中央部は寿公園となっている円形交差点「寿ロータリー」=豊岡市泉町

 ヨーロッパ発祥で、日本では2014年に改正された道路交通法(道交法)で導入が始まった「環状交差点(ラウンドアバウト)」。2017年12月26日、神戸市のポートアイランドの市道に完成した交差点を本紙などが「兵庫県内初」と報じたところ、「そんなはずはない! うちの町に昔からあるのに」との声が相次いだ。確かに豊岡市内で同じような円形交差点があり、運転に戸惑った記憶がよみがえった。一体、何が違うのか。車を運転し、違いを検証した。

 「昔からある」という円形の交差点。その代表格は県北部、豊岡市にある「寿ロータリー」だろう。大正時代に建設され、13年のバイパス完成までは国道426号にあたり、かつては全国の国道で2カ所しかない「円形(ロータリー)交差点」として名をはせた。
 フランス・パリのエトワール広場(当時)を参考に整備されたといわれ、中央部には同市出身で同市の水道建設に尽力した鉱山王・中江種造(1846~1931年)の銅像が立つ、地元で知らない人はいない場所だ。2車線の環状道路から放射状に6方向へ延びており、交通量も多い。
 このほか県内では、神戸市北区唐櫃台や宝塚市泉町にも円形交差点は存在する。このため、今回の「県内初」に違和感を抱いた人も多かったと思われる。
 では「環状交差点」と「円形交差点」は、何が違うのか。答えは簡単、進入する際に一時停止が必要かどうかだ。改正道交法は「環状交差点に入ろうとするときは(中略)徐行しなければならない」(第37条の2)としており、ラウンドアバウトには、路面上に「ゆずれ」と記されているだけで、一時停止の表示や「止まれ」の看板はない。一方、寿ロータリーをはじめとする円形交差点には、一時停止が必要(進入路によっては不要)で、これによって法律上の区分がなされているという。
 環状交差点導入の目的は、重大事故の減少や渋滞緩和にある。実際にポートアイランドの同交差点を走ってみると、信号がないため、自然と運転が慎重になった。諸外国では一般的とされるが、運転に慣れるには少し時間が必要かもしれない。一方、円形交差点を運転すると、一時停止線に安心感を抱いた。
 道交法上の解釈はさておき、大正時代に生まれた県内「元祖」への畏敬の念が湧いてきた。

(2018年1月9日付夕刊から)

<ド・ローカル>
1993年入社。新兵庫〝珍百景〟の第2弾いかがでしたか? みなさまの珍百景に認定していただけたでしょうか? 私の中にはまだまだ、ご紹介したい場所、人、モノがあります。第3弾もご期待ください。第1弾をお見逃しの方はこのURL(https://kobedx.kobe-np.co.jp/n/n2674e21173ec)からご覧ください。

#珍百景 #黙想 #ラウンドアバウト #ポートアイランド #豊岡 #ロータリー