兵庫県には全国最多のため池があります。特に集中するのは西部の播磨地域と、淡路島です。中には管理が行き届かず、荒れたままの池もありますが、いずれも農業用の水を求めてきた先人の苦労の跡として眺めれば、違った光景に見えてきます。最近は水を貯めるだけでなく、生き物たちの命を育み、住民らの憩いの場になるなどの役割も注目されています。そんなため池と人々との暮らしを播州人3号が紹介します。
全国のため池のうち、5分の1が兵庫に集中していると言われています。
少し古い記事ですが、兵庫県の調査結果です。
ため池の数 全国の市町村別
淡路市1万3301カ所、洲本市7013カ所
農業用、小規模で多く築造
兵庫の3市がトップ3を占め、いかに集中しているかが分かります。
よく見ると、政令指定都市で唯一、神戸市が9位に入っています。
神戸市内で多いのは、三宮などのある中央区ではなく、西区や北区で、ともに農業の盛んな地域です。
ため池の大半は小規模なものですが、巨大な池もあります。
神戸市に隣接する稲美町の加古大池を訪れると、ため池のイメージが覆ります。
加古大池 兵庫県稲美町
濃緑の水がめ 田園潤す
写真に写る民家と池の大きさを比べてください。
甲子園球場の約12倍の広さです。
水辺の景色はもはや海のようです。
加古大池では、ウインドサーフィンなどの〝マリン〟スポーツも盛んです。
そんなため池王国が大きく揺るぎます。
全国最多3万8000カ所は水増し?
兵庫のため池 1万カ所消滅
大半の市町、現地確認せず報告
一斉調査の結果はこうでした。
県内ため池 2万4400カ所
全国最多のまま
3割以上減りましたが、全国1位の座は守られました。
不十分な確認などが原因だったようですが、実際に池が決壊し、浸水被害が出るなどしている中で、管理の徹底が求められます。
ため池の水は、周辺で暮らす人々の命をつないできました。
そんな感謝の気持ちも込められているのでしょう。
稲美町で続く儀式を紹介します。
豊穣願い みこしを池に
稲美・天満神社で〝投げ入れ儀式〟
写真では半分水の中に沈んでいますが、投げ込まれているのはみこしです。
そして氏子たちが飛び込んでいるのは海でなく、池です。
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池の機能も見直されつつあります。
まずは太陽光発電です。地上ではパネルを設置する用地の確保が難しいこともあり、ため池の水面にパネルを浮かべた太陽光発電所が相次いで誕生しています。
発電効率の良さや山林開発の必要がないなど地上に設けるよりメリットは大きいようで、高温になると発電効率が落ちる発電パネルが、水冷効果で発電量が陸地より増えたという実験結果もあるようです。
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ため池には魚や昆虫が生息し、周辺には植物なども多く、飛来した天然記念物のコウノトリも相次いで目撃されています。
2021年4月には、淡路市内でコウノトリのつがいが設けた巣で、ひながふ化しました。但馬地域以外では兵庫県内初となり、こちらも近くにため池が多く、豊富にえさがあることなどが影響しているとみられます。
昔ながらの行事も見直されています。
農閑期にため池の水を全て抜く「かいぼり」という行事です。
テレビ番組などでご覧になった方も多いでしょう。
かつては池の水質浄化などを目的に広く行われていましたが、農業者の高齢化や手間が掛かることなどから姿を消しつつあったようです。
水を抜くことで、普段は見えない池の中を点検できる▽貯水能力や水質の向上、外来種駆除にもつながる―などのメリットもあり、一部の自治体がかいぼりに対する補助制度を設けられています。栄養豊かな泥をかき出し、海に流すことで瀬戸内海の養殖ノリの色落ちや漁獲量の減少を防ぐ効果も期待されていると言います。
子どもたちの参加も多く、水面の下で豊かな生態系が保たれていることを確認する機会にもなりそうですね。
<播州人3号>
1997年入社。駆け出しのころ、ため池の多い東播磨地域で勤務しました。道路を造る前から池があったためでしょうか、郊外の道は池を避けるように延びます。そのため一定の方角に運転しているつもりでも、予想外の場所に行き着くことがありました。特に夜間は目印が少なく、誤りに気付いて戻っているつもりが、さらに目的地から遠く離れてしまうことも。カーナビが普及していない時代の話です。
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