神戸といえば「港町」とともに「異国情緒」というイメージで語られることがよくあります。
その始まりは19世紀半ば、横浜、長崎、函館、新潟と並び、神戸が日本で最初の開港地に選ばれたことにあります。以来、異国から多くの人々が移り住みました。ただ、神戸が他の開港地と違った点として、広大な「雑居地」の存在が挙げられます。
区画を整然と分けた外国人専用の「居留地」の整備が神戸では遅れ、外国人と日本人が隣り合わせで暮らす「雑居地」が周辺に設けられました。異人館で知られる北野エリアや、中華街の南京町がそうです。そこから神戸独自の文化が生まれました。
異国の人々の日常が息づいてきた神戸には、「食の世界旅行」ができるほどさまざまな国の料理の飲食店や食材店が点在していますが、同時に、さまざまな宗教施設が密集していることは、それほど知られていません。食と並んで、「信仰」は各国の人たちの暮らしに欠かせないものでした。
今回は私、ぶらっくまが、今も日々祈りが捧げられている、日本ではちょっと珍しい宗教施設を紹介します。異国を感じさせる建物なども魅力です。
なお各施設は外観の見学は自由ですが、内部見学の可否、時間帯、規則(肌の露出禁止)などはそれぞれ異なります。事前にお問い合わせください。
日本最古のモスク「神戸ムスリムモスク」
神戸ムスリムモスク
神戸市中央区中山手通2-25-14
電話:078-231-6060
日本唯一のジャイナ教寺院「バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院」
バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院
神戸市中央区北野町3-7-4
電話:078-241-5995
杉浦千畝「命のビザ」の舞台にも 「関西ユダヤ教団・シナゴーグ」
ナチス・ドイツがユダヤ人を迫害した時代の神戸は、手塚治虫氏の漫画「アドルフに告ぐ」でも描かれていますね。
シナゴーグに近い神戸・北野の一角には今も、ユダヤ難民救済の拠点だった神戸ユダヤ共同体(神戸ジューコム)の石垣が残り、世界各地からユダヤ人が訪れます。今年2月には1人の男性が82年ぶりにこの地に立ちました。
関西ユダヤ教団・シナゴーグ
神戸市中央区北野町4-12-12
電話:078-242-7254
三国志ゆかり 華僑の信仰集める「関帝廟」
関帝廟
神戸市中央区中山手通7-3-2
電話:078-341-2872
周辺にはほかにも、異人館を見渡す高台にある「北野天満神社」、インド仏教様式の大寺院「本願寺神戸別院(モダン寺)」、異人館街の中心に位置する「カトリック神戸中央教会」、神戸を代表する洋画家でクリスチャンだった小磯良平の邸宅跡に立つ「神戸バプテスト教会」、ロシア正教系の「神戸ハリストス正教会」など多くの宗教施設があります。
こうした多様な祈りの場が、徒歩圏内に隣り合っているというのも特徴です。さまざまな宗教施設が共存する神戸・北野を、世界文化遺産に登録しようと目指す動きもあります。
ウクライナ侵攻などで国際社会の分断が進む今、神戸のこうした施設を歩いて巡り、旅行気分や異国情緒を満喫しながら、宗教や平和などについて考えてみるのはどうでしょう。
〈ぶらっくま〉
1999年入社。神戸出身の私の愛読書に、戦時下の特高警察に検挙され、仕事も家庭も捨てて神戸に流れ着いた俳人・西東三鬼(1900―1962)の自伝的小説「神戸」「続神戸」があります。
トアロード沿いの「コスモポリタンのハキダメの、国際ホテル」などを舞台にロシアやトルコ、エジプト、台湾、朝鮮などさまざまな国の癖のある面々との関わりが描かれます。戦時中でありながら、敵性外国人や娼婦ら雑多な人種が肩を寄せ合うように生きる姿からは、開放的でわい雑な港町にしか存在し得なかったコスモポリタニズム(世界主義)が見て取れます。