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えっ! 神戸にダチョウ牧場

 こんにちはド・ローカルです。突然ですが、ここでクイズを1問。
 「世界最大の単細胞って何でしょうか?」
 正解は「ダチョウの卵」です。神戸市西区の農村部・神出町ではダチョウの卵から作った抗体を使い、画期的な抗菌作用を持つ商品が続々と誕生しています。薬局で買えるマスクから米陸軍の対テロリスト用ワクチンまで。日本での生産拠点は約45羽を飼育する西区のこの施設「ダチョウ牧場」のみといわれます。
 開発のきっかけは、獣医師で京都府立大学(京都市左京区)の塚本康浩教授(現・学長)の「気付き」でした。

抗菌作用の商品続々 ウイルスから守る ダチョウパワー インフル、虫歯… あらゆる菌に応用可能

ダチョウと戯れる塚本教授。このオスに膝を蹴られて骨折したという

 「なんであんなに頑丈なんだろう」
 2001年ごろ、塚本教授は牧場を駆け回るダチョウを見てふと首をかしげた。当時、千葉県でBSE(牛海綿状脳症)感染牛が見つかり、代替肉としてダチョウが脚光を浴びていた。神出町でも約100頭を飼育する牧場が誕生し、塚本教授は主治医として定期訪問していた。
 ダチョウの寿命は50~60年。けがを負ってもすぐに治り、劣悪な衛生環境でも病気にならない生命力を持つ。塚本教授が試しにウイルスを注射したところ、約2週間で体内に抗体ができた。「他の動物ならやっと抗体ができ始める時期なのに…。ダチョウはすでに商品化できるくらいの量になっていた」。抗体は卵に凝縮され、1個でワクチン接種8万回分が精製できることも分かった。
 「製造コストはマウスや鶏を使った場合の4千分の1」と塚本教授。素早く、大量に作れる抗体を使い、08年に完成した商品が「ダチョウ抗体マスク」。マスクにしみこませた抗体がインフルエンザウイルスに結合し、感染を防ぐ効果があるという。同様の手法で花粉症にも効くマスクを作り、これまで計約7千万枚を売り上げた。
 その後もアトピー性皮膚炎の患者向け化粧品▽虫歯菌の抗体入り口腔(こうくう)洗浄液▽アレルギー用キャンディー―などを開発。14年ごろには、米陸軍からも共同研究の依頼が舞い込んだ。
 その対象はアフリカで流行し、「殺人ウイルス」の別名を持つ感染症「エボラ出血熱」。生物兵器によるテロ攻撃に備えたワクチンや防毒のスプレー剤の開発に尽力した。商品はシンガポールや香港の国際空港などでも使用されているという。塚本教授は「あらゆる菌に応用が可能なのが強み」と説明する。
 西区に時折様子を見に来る塚本教授を4年前、思わぬアクシデントが襲った。「怒ったオスから跳び蹴りを食らって…」。巨体から繰り出されるキック力は4トンを超える。ひざを骨折し、2カ月間の入院を余儀なくされた。今春もあばら骨を蹴られて骨折し、激痛に見舞われたという。
 これまでダチョウの行動パターンを研究したこともあったが成果は得られず、このままでは今後もきっと、手痛いキックを食らいそうだ。その前に…。
 「ダチョウのキックを防ぐ抗体、作れませんか?」

2019年12月30日神戸新聞朝刊
ダチョウの卵を使い鳥インフルエンザの抗体の大量生産に取り組む塚本教授。
ダチョウの卵から精製した抗体で開発した商品

 新型コロナウイルス対策としても、ダチョウの卵が持つ抗体パワーは世界から注目を集めました。

「ダチョウ抗体マスク」 中国から注文30万枚

抗体作りに使われるダチョウの卵

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、神戸市西区で飼育するダチョウの卵で作る抗体を染み込ませたマスクが注目されている。
 開発者の塚本康浩・京都府立大教授によると、新型コロナウイルスの遺伝子配列が感染症「重症急性呼吸器症候群(SARS)」と似ているといい、中国の政府機関や全国のドラッグストアからSARS抗体マスクに大量の注文が舞い込んでいる。
 抗体は、体内に侵入した細菌やウイルスに結合し、体内から除去する分子。医療用は通常、マウスやニワトリの体内で作られるが、塚本教授は他の動物よりも早く抗体が形成されるダチョウの卵を使い、約4千分の1のコストで精製することに成功。2008年にインフルエンザなどの抗体をコーティングした「ダチョウ抗体マスク」を商品化すると、これまでに約8千万枚が売れたという。
 塚本教授によると、中国の研究者によって1月10日ごろに明らかにされた新型コロナの遺伝子配列がSARSと似ているという。SARS用の抗体でも効果が期待できるとし、備蓄していたSARS用抗体を3日から工場に出荷し、マスク生産を開始。中国の政府機関からは早くも30万枚の注文が舞い込んでいる。全国のドラッグストアにも2週間後には発送する見通しで、25枚入り税込み5千円程度で販売予定という。
 また塚本教授は、新型コロナの一部を模した抗原をダチョウに注射し、新型コロナ用に新たな抗体作りにも取り組んでいる。口や鼻からの感染を防ぐキャンディーや、ドアノブなどに使えるスプレーも開発予定。「ワクチンを作ろうとすると、早くても夏ごろまではかかる。それまでに感染拡大を防ぐ一助になれば」としている。

2020年2月6日神戸新聞夕刊
ダチョウの抗体から作ったワクチンの効果をニワトリで試す塚本教授=インドネシア・ジャカルタ近郊(京都府立大提供)

 荒涼たる山間部を野生味たっぷりに駆け抜けていくダチョウたち。細く、そして、たくましい脚。山間部といえど、神戸市西区です。初めてこのダチョウ牧場を訪れた時、「こんな場所に…」と驚きました。
 このダチョウはどこからやってきたのでしょうか? 関係者に尋ねてみると食肉用に輸入された南アフリカやオーストラリア産ということでした。この土地を持っていた食品加工会社の経営者が、傷みが早く、産業廃棄物扱いで処分に困っていた「モヤシ」がダチョウのエサになることに着目し、この地でダチョウの飼育をはじめ、今のダチョウ牧場になったといいます。

<ド・ローカル>
1993年入社。低カロリーで高タンパク―。世界最大の鳥、ダチョウの肉が、牛、豚、鶏に次ぐ「第四の食肉」として注目を集めているそうです。飼育が容易で早く出荷でき、鳥インフルエンザなどの病気にも強いとあって、飼育農家も増えているとか。一度、食してみたいものです。

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