今から10数年前、神戸新聞阪神版で連載をしました。「阪神近代化ものがたり 産業遺産を訪ねる」。経済産業省が2009年に発表したリポート「近代化産業遺産33」を基にしたものです。
一口に産業遺産と言っても、洋館、橋梁(きょうりょう)、鉱山、ドック、機械など形状は多様で、その一つ一つに歴史的ドラマがあります。
1890年ごろ、農地だった尼崎臨海部に、尼崎紡績(現ユニチカ)などの紡績工場が次々と進出しました。やがて、旭硝子が日本で初めて板ガラスの量産化に成功、さらに日本リーバ・ブラザーズ(現日油)も国内初の石けん工場を設けるなど、臨海部は「軽工業から重工業」へと変身し、阪神工業地帯が誕生しました。
人が住み、学校ができ、灘五郷の一角、西宮・今津郷の日本酒業界も飛躍を遂げます。都市の発展を支えたそれぞれの建造物には、先人達の苦悩や産業躍動の息吹が刻み込まれています。ド・ローカルが、日本の近代化をリードしてきた阪神地域の主な産業遺産をご紹介します。
世界に誇る大紡績工場 ユニチカ記念館
繊維大手ユニチカの前身「尼崎紡績」の本社事務所には、市内で初めて大阪から電話線が引かれ、尼崎の市外局番が「06」となるきっかけになりました。ユニチカ記念館は老朽化で現在閉業されていますが、館内には同社の歴史資料が収蔵されています。「東洋の魔女」と呼ばれて1964年の東京五輪で金メダルを獲得した女子バレーボール日本代表の大松博文監督や選手の大半が会社チーム「ニチボー貝塚」に所属したことから、五輪ブレザーや手紙などゆかりの資料もあります。
近年ではNHK連続テレビ小説「あさが来た」で、尼崎紡績の初代社長・広岡信五郎の妻で女性実業家の広岡浅子がヒロインのモデルになったことでも注目されました。
銘酒育む名水 宮水公園
阪神地域には西宮のほかに、伊丹も酒所として有名です。清酒発祥の地とも称され、以下の建物も産業遺産に選ばれています。
酒造りの情熱刻み続け 白雪ブルワリービレッジ長寿蔵
阪神間では、大学の建物が産業遺産群として登録されているのが特徴です。冒頭の写真は神戸女学院の校舎。米国出身の建築家、W・M・ヴォーリズが設計を手掛けました。ヴォーリズはこのほか、関西学院大学も設計しています。武庫川女子大学の建物も産業遺産群の一つです。
匂い立つヴォーリズの美 関西学院大学
少しユニークなところで、こんな建物も選ばれています。さて、どんな建物なのでしょう。
残された阪神電車の礎 尼崎発電所
このほかにも、銀銅山やホテル、灯台、取水塔…など多様な産業遺産があります。連載で取り上げた写真を一挙公開します。どうぞ!
千年の歴史を誇る坑道 多田銀銅山
気品漂う和と洋の融合 旧甲子園ホテル
酒どころともし続け200年 大関酒造今津灯台
都市化支えた白亜の殿堂 ニテコ池取水塔
日本最古のカリヨン響く カトリック夙川教会
大正の息吹 現代に伝え 川西市郷土館
<ド・ローカル>
1993年入社。今回ご紹介したのはごく一部ですが、近代化産業遺産を珍しさや古さという尺度だけではなく、それぞれの地域との長い時間の中で、地域、産業史にどんな役割を果たしてきたのか、との視点で見てみるのも大切だと感じました。
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