
あのアニメの鬼とはちょっと違う!? 個性豊かな兵庫の鬼たち
「鬼は外、福は内」の節分が近づいています。この時期、紙面には鬼がたびたび登場します。「鬼追い」や「鬼踊り」「追儺式」などと呼ばれ、昔話に出てくるような、退治される悪者だけではなく、住民らに頼られる鬼など役回りもいろいろです。個性豊かな鬼たちの写真とともに、播州人3号が紹介します。
はやし声で鬼追い
鶴林寺 修正会

昨年までの悪行を悔い改め、新年の幸せを祈る伝統行事「修正会」が8日、加古川市の鶴林寺であった。ぎょろ目の赤鬼とたれ目の青鬼が勇壮に舞う「鬼追い」の儀式では、参拝者たちが「どいやしょー」と声を合わせて鬼を追い払い、無病息災を願った。
平安時代から続くとされ、市の無形文化財に指定されている。同寺と安田地区の住民らでつくる鬼追い保存会が伝統を守っている。
この日、本堂では鬼追いの由来を伝える謡曲が奉納され、悪行を反省して無事を祈る「悔過法要」に続き、尾上小学校6年の4人が扮した子鬼が登場した。
子鬼がつえで刻む拍子に合わせ、赤鬼と青鬼が四股を踏み、本尊を安置する奥の間を周回。約200人の人垣に何度も乱入し、おのを振り上げたり、たいまつをたたいたりしたが、親子連れらが大声で「どいやしょー」とはやすと徐々におとなしくなり、7周半回って改心しきった。
ぎょろ目とたれ目の顔つきが怖さを和らげます。
「どいやしょー」という住民の掛け声に追い払われる鬼ですが、ヒーローのような言い伝えの残る鬼もいます。
鬼にふんした 5人が舞披露
魚吹八幡神社で武神祭

姫路市網干区宮内、魚吹八幡神社で25日、春の伝統行事「武神祭」があり、鬼にふんした男性ら5人が厳かに舞った。
鬼舞は奈良時代、家島付近を異国の船に攻められ、征伐を命じられた播磨国の国司が、同神社に勝利を祈願したところ、鬼が現れて相手を打ち破った―とする言い伝えに由来する。地域や家庭の繁栄や安泰を祈っており2006年に市の無形民俗文化財に指定された。
太鼓の音が響く中、社家と呼ばれる神社ゆかりの5人が、赤や緑色の装束の鬼にふんして登場。長さ約2メートルの矛やたいまつをかたどった飾りを振りかざし、豪快に足を踏み下ろした。
祭に花を添える献納行列やもちまきは、氏子を代表して熊見自治会が47年ぶりに担当。法被姿の男性らが献納船を引き街を練り歩いた。同自治会長(74)は「地域の絆で盛り上げ、みんなの幸せそうな顔を見られたのが喜び」と語った。
人間を超越した力を持つ者を「オニ」と表現するのでしょうか。
あの人気アニメに出てくる、人間を襲い食らう鬼たちとはだいぶ異なります。「神々の代理」と位置づけられている鬼もいました。
散る火の粉 迫力の舞
神戸・長田神社で追儺式
節分に無病息災願い

節分の3日、鬼の面をかぶった男たちがたいまつを手に舞い、家内安全や無病息災を願う追儺式が神戸市長田区の長田神社であった。大勢の参拝客が詰めかけた境内で、鬼たちが火の粉をまき散らしながら踊りを披露した。
室町時代から続くとされる伝統行事で、1970年には県の重要無形民俗文化財に指定された。鬼は神の使いとされており、神々に代わって全ての災いを払い清めるために踊る。
鬼役を務めたのは選ばれた7人の氏子。前日に境内の井戸でくんだ水をかぶり、当日は朝から須磨海岸の海水で身を清め、厄払いの舞に臨んだ。
ほら貝の音が鳴り響く中、境内に「一番太郎鬼」が姿を現した。その後、赤鬼と青鬼らがバチバチと激しく燃えるたいまつを振りかざすと、参拝客らが拍手を送った。最後は「餅割鬼」がおのを餅に振り下ろし神事は締めくくられた。
伝統行事として国の重要無形民俗文化財に指定されたものもあります。
加西・東光寺で「田遊び・鬼会」
火の粉飛ぶ中 勇ましく

国の重要無形民俗文化財に指定されている伝統行事「田遊び・鬼会」が8日夜、加西市上万願寺町の東光寺であった。古式ゆかしい農作業の所作と、勇ましく暴れる鬼の姿に多くの参拝客らが見入っていた。
五穀豊穣や無病息災を祈る儀式で、いずれも室町時代末期には行われていたとされる。鬼などは毎年、地元の上万願寺町、下万願寺町の厄年の男性が演じている。
田遊びが県内で営まれているのは同寺のみ。烏帽子に裃、黒い能面を身に付けた「福太郎」「福次郎」が、木製のくわで田を耕したり、種をまいたりするしぐさを奉納した。
続いて「鬼こそ鬼よ」とのはやし声に乗って、厄災を追い払う赤鬼と青鬼が登場。たいまつを振り回したり、ほこを突き出したりしながらお堂を計13回、回った。
赤鬼がたいまつを柱などに打ち付けるたびに火の粉が飛び散り、写真愛好家らが盛んにシャッターを切っていた。
鬼役のまとう衣装や面も地域ごとに異なります。
紙面で同時に掲載する機会はなかなかありませんので、いくつかの写真を集めてみました。
どこかユーモラスで、親しみやすそうな鬼もいませんか。







炎を扱う鬼も多く、迫力満点ですね。
すべてを調べたわけではありませんが、兵庫県内の鬼の行事は播磨地域に多いようです。
やや古い記事ですが、関連のインタビューが見つかりました。
播磨は〝鬼どころ〟
流通科学大 藤原喜美子准教授
豆まきには欠かせない鬼。全国の鬼追い行事を調査し「オニを迎え祭る人びと」の著書もある流通科学大の藤原喜美子准教授(日本民俗学)に、播磨の鬼の特色などについて尋ねた。
――鬼追いや鬼踊りの行事が播磨に多い。
「兵庫県、特に播磨南部に集中している。年始から5月までに約30カ所である。行事がなくなっていても鬼の面や衣装が残る寺社もあり『鬼どころ』といえる」
――鬼追いの起源は。
「1年の最初に天下太平や五穀豊穣を願う修正会という行事が起源だとも言われる。この行事自体は全国にあるが、鬼という具体的な形を持っているのは播磨に多い。近隣の大阪や岡山でもあまりみられない。鬼が出てくる地域であっても鬼の性格が播磨とは違う」
――鬼の役目は。
「鬼というのはよい面でも悪い面でも人間の想像を超えるような力を持つもの。播磨の鬼は人間にとってよい方に導いた形といえる」
――播磨の鬼の特徴は。
「毘沙門天や不動明王などの仏の化身として扱われることが多い。鬼の持つ松明の残りを持ち帰り、厄をはらう風習もある。火が邪をはらう力を持つという見方もできるが、むしろ鬼に力があるからこそ、その松明にも御利益が生まれると考えられるのではないか」
――節分の豆まきの鬼とは異なるようだ。
「鬼をどのようにとらえるかで違う。節分の鬼は災いをはらうときの対象。鬼は恐ろしいもの、人間に関わるときによくないものというイメージも一方にあるので、そちらの性格が強くなったのではないか」
ところで並べた写真を見て何か気づかれませんでしたか。
参拝者や観客の多さ、にです。
ずいぶんと目にしていない光景ですね。
コロナの影響で密を避ける対応だけでなく、行事の開催そのものが見送られるところも出てきています。
ただ、コロナ対策をした結果、例年とは違う雰囲気の行事になったところもあります。
災厄払う鬼 神秘の舞
姫路・書写山円教寺

姫路市の書写山円教寺で18日、五穀豊穣や穏やかな社会を願う鬼追い会式「修正会」があった。開祖の性空上人が亡くなってから千年も続くとされる恒例行事で、災厄を払う赤鬼と青鬼がたいまつなどを振り上げながら勇壮に舞った。
赤鬼は毘沙門天、青鬼は不動明王の化身と伝わり、災いを福に転じるともいわれる。
かつては夜通し行われた名残で、通常なら舞台となる摩尼殿の扉は全て閉ざされるが、新型コロナウイルス対策のため開放して実施。僧侶の読経後、赤鬼はたいまつの火の粉を飛び散らせ、青鬼は宝剣を手に力強く床を踏みしめながら堂内を回った。
夫婦で訪れた同市網干区津市場の男性(53)は、1年の無事を祈りに毎年足を運ぶ。「今年もコロナに負けず、元気に暮らせそう」と満足そうに話した。
再び急拡大している新型コロナの災厄。鬼の力を借りてでも退散させたいものです。
<播州人3号>
1997年入社。鬼の行事は動きのある場面が多く、迫力ある写真がとれるチャンスです。ある行事を取材したときのことです。最前列でカメラを構えていると、燃えさかる松明を鬼が柱に打ち付け、こちらに放り投げるではありませんか。直後には、その燃えかす(のように見えたもの)を求める参拝者にもみくちゃにされました。「密」という言葉を見ると、思い出す光景です。