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シン・長田を彩るプレイヤー ~僕のガラスアートが未来に残せること~(前編)


今回のインタビューは、ガラス工房「がらす庵」でアート作品を制作される吉田延泰さんを訪ねました。パート・ド・ヴェール(ガラスの粒や粉を型の中で熔融して成型するガラス)という技法で制作し、ガラス教室も開催されています。そんな吉田さんの制作に対する向き合い方、また長田のまちに抱く想いについて取材してきました。



ガラスとの出会い

-記者-
ではまず、学生時代のことや仕事、住んだ場所、長田に来たきっかけなど教えて頂ければと思います。

-吉田さん-
生まれは神戸市長田区で、四十数年このまちに住んでいます。
子供の頃、家がジュースやアイスクリームの卸業をしていた事から、お好み焼き屋や銭湯、駄菓子屋との距離が近く、商売のやりとりを観て育ち、水族館や動物園へ売り子として、お小遣いをもらう為によくついて行っていました。
学生時代は、近畿大学の芸術学科絵画コースへ通い、絵画、立体、版画、ガラスの各先生のもと、総合的な勉強をした後に、ガラスを専攻として選び、卒業しました。
大学院への受験の際に、彫刻科へ進学を希望したのですが、”君はガラスを研究したいのなら富山か、海外へ行ったほうが良い”と言われてしまい(苦笑)
出来れば国内で進学したかったのですが、中学英語から勉強をやり直し、英語圏への研究留学を志望するようになりました。

-記者-
自ら進んで、ということではなかったんですね(笑)

-吉田さん-
2003年頃、初飛行機でイギリスにあるノッティンガムトレント大学へ行って2−3週間語学の勉強をしたのですが、その経験がすごく濃くて。
色んな国から色んな背景の人が来ていて入り混ざりカオスな状態だったのですが、長田に住んできた経験があれば、どんな治安や状態でもある程度、住めると実感しました。(笑)
国内で進学するよりも、イギリスへ来た方が人生の幅が広がるかも、と思えた経験でした。国内は国内の競争の中で消費されていくことを感じていたので、各大学の卒業生の作風などをリサーチして求める作風に近い進学先を探しました。
語学留学の後、一度日本へ帰国し、大阪で語学学校のチラシやテキストブックのデザインをアルバイトとして造りながら、約1年間英語漬けの日々を過ごし、 2004年9月にUCA(University for the Creative Arts)のMA 現代工芸科へ正規留学をしました。

-記者-
1年間留学して卒業後は?

-吉田さん-
9月末頃、ガラスに関する英文研究レポートと作品、スケッチブックを提出した後、ヨーロッパのガラスに関する場所を、時間の許す限り観て周りました。
年末にビザの期限で戻らざるを得ないので勤め先を探していた時に、兵庫県西宮市にあるアトリエクラフト西宮が、キルンワーク(ガラスを窯で焼く技法)講師を募集している事をmixi友達から教えて貰って。ビザ期限ギリギリで帰国し、面接を受けました。
ガラスを継続する為の機材と場所が必要だと思っていたので、実家から通える距離で良いタイミングでキルンワーク講師が決まりました。2006年から4年ほど勤め、その後、施設の閉鎖に伴い、一部の生徒さんと機材を引き継ぐ形で、2010年1月からパート・ド・ヴェール専門の教室と工房「がらす庵」を始めました。

-記者-
独立するのは何かきっかけがありましたか?

-吉田さん-
きっかけは、アトリエクラフト西宮の閉鎖が決まった事でした。
いつか独立したかったのもあり、空き物件を探していた時に、馴染みの大工さんに、この場所を紹介頂いて。JR新長田駅からの立地の良さ、天井高や空間、窯が焚ける環境等が気に入ったので、この場所に決めました。
                  
    


   

作品の背景にある、あの頃の記憶

-記者-
ガラス作家をするうえでテーマや表現したいものってありますか?

-吉田さん-
心象風景といって、子どもの頃にみた自分の記憶の中から掘り起こした景色や変容していく記憶。
人、物、事の関係性と共に、ガラス瓶の内包する、現代社会における意味をテーマに制作しています。

-記者-
具体的に何か子どもの頃に印象的だったことはありますか?

-吉田さん-
水族館や動物園で見た、動物や魚が印象的ですね。彼らは生物的に美しいんですよ、造形的にも。ジュースやアイスの売り子を終えたあとに園内を観て周る事ができました。
あと、出店の時に、冷やし箱の中で水に浮かぶ瓶や氷漬けのアイスクリーム用の冷凍室も原風景としてあります。

-記者-
パート・ド・ヴェールで制作すると、気泡がガラスの中に入って水の中にもぐってるような風景がイメージできるんですけど、やはり吉田さんのイメージしてるものを表現しやすい技法なんですか?

-吉田さん-
パート・ド・ヴェール技法での制作は、おっしゃるように中に無数の気泡があって、水に近い素材だなと思っています。ガラスって液体にあたるらしく、何万年かしたら傷が修復されるかも? 分子構造が不確かだそうです。
あとサンドブラストっていう、砂を吹き付ける技法があって。砂糖菓子のような風合いになるので、これも自分の原風景にあるアイスクリームなどにリンクしやすい技術だと思っています。
             

-記者-
最初にこういうものを作ると頭の中でイメージして作るのか、作りながらテーマを決めるのかどうやってますか?

-吉田さん-
テーマは都度、設定しています。
留学時に、作品を作るときはリサーチをして、背景の文献を調べ、何に影響を受けたっていうのを全部書き出せと言われていました。何に影響されてという背景と作品が繋がらないと作品がペラペラなんです。
そこから自分の課題をリサーチし、さらに次へどう発展させるかということを意識して造ってます。なかなかアイデアが、ぱっと出たのってそんなにイメージ通りに行かなくて。浅くて留まってしまう事も多いです。
作品について、どういうストーリーがあって、どの様な価値を持つのかを説明できるのがアーティストという教育を受けたし、僕自身も、それが肝だと思っています。

-記者-
感覚的なところをしっかり言語化していくということですね?

-吉田さん-
それが大切だと思っています。というか、あまりにも、ふわっとした作品や企画は嫌いです(笑) だって時間かけてないやん、考えてないやん、観た事あるって思っちゃう。

-記者-
僕も趣味で写真を撮り始めてから作品の背景とかが気になるようになりました。
作品は何にインスピレーションを受けていますか?

-吉田さん-
なるべく今の時代の展示を観るようにしています。
学生時代は週末にギャラリー巡りする日を決めて、観て周ったりしていました。
今、各地方で行われているアートフェア等は、同世代も多く、なるべく観たい、参加したいと思っています。アートフェアTOKYOは国内最大規模の祭典なので、全国のガラス教育機関合同展と併せて近年観に行ってます。
みんなが何を考えて、どう生きているか? 自分ならどう造るか? を考えるきっかけにしています。

-記者-
いま造ってるものって、リレーションっていうタイトルのものですか?

-吉田さん-
そうですね。
関係性をつなぐ。ガラスが溶けて滴り落ち、次の層とつながることで1つの形を成しています。

これもそうです。
瓶の形というのは、人であり、内臓であり、メッセージを海の向こうへ届けるツールでもあります。上から下へ氷柱状に滴り落ちることで下の層に影響を与えて1つのものとして成り立っているというシリーズで、シャンパンタワーみたいな(笑)
例えば、今話している会話一つも次への影響を与えている。一挙手一投足が、次へつながるという事を思いながら造っています。


原風景を元に制作をされる吉田さんの作品には、昔懐かしい夏の思い出がよみがえるような雰囲気がありました。
優しく温厚な人柄の中にある、常にアートの発展を求める強い灯がたくさん見えたインタビューとなりました。
次回、震災の経験や長田区で有名なあのドリンクの話も出てきます!お楽しみに!

(編集:サウスポー)