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シン・長田を彩るプレイヤー ~空に焦がれる経営者~(前編)



今回は、ラミネート・コーティング業を営む伊藤世一さんを取材しました。
伊藤さんは株式会社テクノフローワンの代表取締役を務める傍ら、西日本唯一の本格飛行機操縦体験施設「テクノバード」も運営されています。
飛行機の魅力やこれまでの伊藤さんの歩みをたっぷり聞かせていただきました!



免許への道のり


―記者―
それでは、簡単な経歴からお聞きしたいです。

―伊藤さん―
生まれたのは長田で、実家がもともと五位ノ池町ってとこなんです。
それで、小学生まで長田にいて、中高は三田まで通っていました。
あまり勉強せずに入った大学には納得いかず、真面目に勉強せんとふらふらしてて。
そんな時父親に「今の自分に納得してないんやったら最後にチャンスやるから、アメリカ行って学位とり直して来たらどうや」と言われ、1985年に留学に行きました。


―記者―
アメリカのどこに行かれたのですか?

―伊藤さん―
住みやすいところがいいと思ってカリフォルニアに行きました。
元々日本で経営学部に行ってたけど、経営学を勉強し直したくて大学を探したら、全然なくて。
経営学部のある大学全部に手紙は書いたんですけど、大学側に同じ専攻で学位2回取るのは無駄やと言われたんですよ。
アメリカで経営の勉強を続けたいんだったら、大学院に行くしかなかった。
大学院なんて自信なくて打ちひしがれてたんですけど、留学仲間が「今のままでも帰らなあかんねんから、挑戦したらええやん」って背中押してくれて。
それで出願したら、来ていいよっていう大学院が見つかりました。
そこで、MBA(経営学修士)を取って帰ってきました。


―記者―
飛行機の免許をお持ちと伺いましたが、取得もその時に?

―伊藤さん―
そうですね。
アメリカって市営の飛行場が周りにいっぱいあって、飛行機がブンブン飛んでるんですよ。

―記者―
日本より飛行機が身近な存在だったんですね。

―伊藤さん―
そうそう。
それで留学中、交通事故にあいましてね。
保険が下りたので、その保険金で安い車に買い替えて余ったお金で、飛行機の免許取りに行ったんですよ。

―記者―
よかったのか悪かったのか(笑)
でも免許って浮いたお金でとれるくらい手軽なものなのですか?

―伊藤さん―
免許は二種類持ってるんですが、最初に取った単発機* の免許は当時約3000ドルでした。
  * 発動機を一基だけ備えた飛行機

―記者―
今でいうとどれくらいですか?

―伊藤さん―
45万円ぐらいですかね。
もう一つは多発 *ですね。そちらの免許も同じくらいの値段でとりました。
 * 発動機を二基以上備えた飛行機

―記者―
アメリカでは免許を手軽に取得される方が多いんですか?

―伊藤さん―
むちゃくちゃ手軽です。
自家用免許の場合はヘイワードっていう飛行場があって5,6件フライトクラブがあったんですよ。
順番に訪ねて話聞いて、自分に合うとこを選んで。
個人レッスンなんで、いつから始めるか決めてマンツーマンのレッスンが始まりました。

―記者―
我々が思ってる飛行機の免許の取り方じゃないですね(笑)
何故免許を取ろうと思ったんですか?

―伊藤さん―
自分で証明したかったんですよ。
「お前には無理や」って言われてた世界やけど自分でもできるって。
本当は昔からパイロットにはなりたかったんですけど、家業や国籍で諦めたので。


憧れの業界と繋がるテクノフローワン


―記者―
家業はもともとどういうことをされていたんですか?

―伊藤さん―
家業はテクノフローワンっていうラミネートとコーティング事業の会社なんです。
現在は、iPhoneの中の特殊な両面テープとして使ってもらったり、建材とか自動車のエンジン部分であったりとか、アパレルの生地の張り合わせに使われていたりします。
靴を作るときって、合成皮革に糊をそのまま塗ってもしみ込んじゃうので、目止めをしないとダメなんですけど、天然ゴムを溶かしてそれを表面に塗る糊引きっていうのがうちの祖業なんです。
で、僕はその仕事が嫌で(笑)

―記者―
何が嫌だったのですか?

―伊藤さん―
当時ほんとに3K(きつい、汚い、危険)の現場だったんですよ。
こっちに戻ってくるときに、3Kの現場を何とかしたいということと、将来何らかの形で航空業界に貢献したいなと思っていました。
そんな中2019年に、ANAが国際線のシートを一新したんですけど、ファーストクラスに4Kのテレビがついたんです。
実は、このテレビにはうちが作った特殊なフイルムが使用されているんです。
気が付けば飛行機に自社製品を提供できるようになっていたんですよ。


―記者―
すごいですね。
それはご自身で営業をかけられたんですか?

―伊藤さん―
いやいや、いろいろ仕事を続けてきた結果。
元々はスマートフォンに向けて開発していたんですが、航空機のモニターでは世界トップシェアのパナソニックさんに採用いただいて。

―記者―
巡り巡って憧れの業界に携われているというのは縁があるような気がしますね。
航空業界に興味を持ったきっかけはあったんですか?

―伊藤さん―
飛行機は気が付けば好きになっていました。
元々親父がよく出張に行ってたんで、空港まで母と送り迎えについて行ったり。
僕が小さい頃って親父が忙しくて、一緒にキャッチボールとかしてもらった記憶は全くないんですけど、その分、盆と正月は家族旅行に連れてってくれたんですよ。
そのときに割と飛行機に乗せてもらう機会があったりしたので、飛行機には馴染みがあったんです。

―記者―
それで「操縦したい!」と思ったんですか?

―伊藤さんー
やっぱり、かっこいいじゃないですか(笑)
人間は犬とか馬とかみたいに速く走れないけど、走ることはできるし、魚みたいにきれいに泳げないけど、泳げるじゃないですか。
でも、空飛ぶことだけはできひんでしょ


―記者―
確かにそうですね。

―伊藤さんー
それを、知恵でもって飛べるようになってるのがやっぱり、飛行機ってすごいなぁと思って。

―記者―
ロマンですね。かっこいいです。

操縦体験を求める人々


―記者―
飛行機操縦体験施設「テクノバード」を開業したきっかけを教えてください。

―伊藤さん―
元々は家を建てる時に、本当の飛行機買いたいなぁと思ってたけど目立つので、ボーイングのコックピットと同じやつを家の駐車場に置いて自分で楽しんでたんですよ。
そこにJALとANAでキャプテンをやってる友達が来て、「こういう操縦体験が出来るとこって関西にはないし面白いんじゃないか」って言われて始めました。
でもぶっちゃけ儲かる商売じゃないんですよ。
だから費用を抑えたいというのと、自分の目の届くところからスタートしたほうがいいかな、と。
うち自社ビルなんで、あえて町工場の中にあっても面白いねということでここで始めました。


「ボーイング737-800」のシミュレーター


―記者―
確かに異色感がありますね(笑)
お客様はどういう方が来られるんですか?

―伊藤さん―
兵庫県内が多いのは多いですけど、関東圏や九州から来られる方もいらっしゃいます。
東京には結構あるみたいやけど、関西にはうちしかないんです。
うちは、飛行機や空に興味あればどなたでも来ていただけるというのをコンセプトにしています。
僕みたいに昔パイロットになりたかったけど色んな事情でなれなかった方とか、現在パイロットを目指している方、現役のパイロットの方も来られます。
昔は一般人もフライト中のコックピットに入れてもらえたんです。
僕、最長3時間半くらい中にいたこともあるんですよ。

―記者―
そんな時代があったんですか。

―伊藤さんー
コックピットに入れてもらうのが世界的に禁止されるようになったきっかけは、2001年のアメリカの同時多発テロですね。
だから、現役のキャプテンが家族とかに自分の仕事っぷりを見てもらいたいとか、そういう目的でうちに来られる方もいます。
お父さんこんなんやってるんやでって。

―記者―
いいですね、素敵です。

―伊藤さんー
あと、パイロットの方も別の機種を運転するには基本的に、飛行訓練や座学訓練を受けライセンスを取り直す必要があるんですけど、そのための自主練で来られる方もいますね。

―記者―
なるほど。本物さながらの体験が出来るんですね。

―伊藤さんー
そうそう。操縦の手順の練習に来られたり。
他にも自分の操縦で富士山の上飛んで、コックピットから景色を見てみたかったという方や、旦那さんや奥さんへの記念日のプレゼントとしてサプライズで予約される方もいらっしゃるし、様々です。



一度諦めた航空業界といま携われるようになったというお話に不思議な縁を感じました。
テクノバードを利用される方は多種多様でしたが、特に現役のパイロットの方も体験に来られるということに驚きました。
そんな本格的な操縦体験が出来る貴重な場所、テクノバード。
後編では、伊藤さんから見た長田や、今後の展望について熱く語っていただいたのでお楽しみに!
(編集:キタムラ・コゲちゃん)