シン・長田を彩るプレイヤー~新長田で創る・芸術のターミナル~(前編)
アーティストと作るギャラリー
-記者-
一度ギャラリー活動を休止していたということですが、どういった経緯で始めることになったんでしょうか。
-向井さん-
2017年に兵庫県立美術館の学芸員の方から取材を受けて、今までとはもう少し違うやり方でギャラリーができるんじゃないかと思って始めました。
基本は①貸画廊はしない②発表を中心とした運営③アーティストの作品集やポスターなどの発刊で年に10回ほどに絞っています。
ここは祖父母の時から住んでいて、築後6~70年になる古いアパートを友人と改装したので、自分のペースでやっていけます。
ギャラリーって作品を搬入して、展示して、展示会が終わったら、作品を撤収して、また次の方が搬入するのが普通のパターンなんだけど、うちは出来るだけ搬入作業に時間をかけるようにしたんです。
-記者-
作家の方に寄り添い、その方の想い、こだわりをできるだけ反映するようにされているんですね。
-向井さん-
普通のギャラリーなら3時間ほどで搬入作業を終わらせますが、ここでは作家の方が満足いくまで作業できるように1週間ぐらい準備期間を設けてます。
ギャラリー内で作業し、壁にペンキを塗ったり、プロジェクターで映像を流したり、1週間かけて絵を描いたり、段ボールで架空の風景をつくったり、自由にやってもらっています。
-記者-
ギャラリー内で新たな作品を作って、そのまま展示するというのは他のギャラリーでもよくあることなんですか?
-向井さん-
ほとんどないと思います。
その場でしか体験できないインスタレーション(空間構成)にも力を入れています。
展示によっては壁面に直接ペンキで描いたりするので、修復作業も大変ですが、「現状復帰」さえできれば、作家に自由にやってもらうことにしています。
ギャラリーの壁面は4~5回塗りなおしています。
野外なら多少は出来るかもやけど、ギャラリーではなかなか出来ないと思う。
-記者-
室内となると難しいですよね。
作家の方にとったらこれだけ自由度が高いのはありがたいんじゃないでしょうか。
-向井さん-
表現の自由を保障して、うちのギャラリーではやりたい事を出来るだけ自由にやってもらうようにしています。
展覧会への道のり
-記者-
展覧会は向井さんから作家さんへ依頼するんですか?
-向井さん-
今のところ自分から直接依頼しています。
-記者-
それは神戸にゆかりのある方以外でもですか?
-向井さん-
そうですね。
六甲ミーツ・アート芸術散歩ってありますよね。
2018年に新潟のOBIっていう3人組アーティストユニットが大賞をとったんですけど、次の年もまた特別出品されるということで。
それでコンタクトをとってここに来ていただいて、「展覧会ちょっとやりたいんですけど」って依頼したら、「じゃあ1年かけて長田のまちリサーチします!」という風になって。
-記者-
1年もリサーチしたんですか?
-向井さん-
3人がcity galleryのFacebookで過去の展覧会の会場風景を見たり、色んな情報を収集しながらね。新潟から何回も来て音や街の映像を収集・編集し、彼らの『NAGATA』をギャラリーの中に創りあげた。
彼らも経費がかかったとは思いますが、
「ウチのギャラリーでやりたいから」っていうことが前提にあって。
経費くらいは作品を買うことによってお返しをする。
それがギャラリーコレクションになっていってる。
-記者-
お互い時間も労力もかかってますね。
-向井さん-
後は名古屋、東京、神奈川の方ともやったかな。
今年の11月には台湾の作家とやるんです。
-記者-
先ほど見せていただいた方ですよね。
どの作品もすごく可愛かったです。
-向井さん-
そうそう、台湾に在住でいますごく人気の出てきたアーティストなんですよ。
あとは韓国で有名な現代美術の大先生。
以前、韓国に行ったときに一緒に美術館とかギャラリーを回らせていただいて。
で、だいぶ前ここに来られて、「是非ともここでやりたい」と。
東京や京都でも個展をしたアーティストだけど、「向井さんが面白い活動してるからここでやりたいんだ」って言われて。
2、3年後にやると思うんだけど、まずお金のことよりかはそういう繋がりですね。
もちろん神戸の作家も大事にしたいと思うんですけど。
地域性や採算を考えてというよりは、自分がやりたいことを展覧会を通じてお伝えしてる。
-記者-
やりたいことをとことん追求すれば人が自然と集まるということですね。
こちらのギャラリーでは一度の展覧会でどれくらい来場者数がいらっしゃるんですか?
-向井さん-
平均すると150人~200人。
このギャラリーだったら一日に10人前後かな。
一番多かったのは榎忠さんっていうアーティストの方が展示をしたときですね。
一日最高40人くらい来られたんやけど、すごかったですね。
-記者-
有名な方だったというのもあって沢山来られたんですか?
-向井さん-
そうですね。
もう76歳になる神戸在住のアーティストで、長田にアトリエと倉庫があり、イギリス・アメリカ・メキシコなどでも展覧会活動を50年以上続けてこられた方で、いろいろな方に尊敬されています。
ただその作品を売るっていう事が出来なかったので、ポスターを作ったんですね。セットにして3,000円で売ったら結構売れたんです。その売れた分のいくらかを作家の方にお渡しできるし。
SNSでギャラリーをより親しみやすいものに
-記者-
お話を聞いている限り、向井さんがギャラリーで得られている収益ってかなり限られてますよね。
-向井さん-
特に徹底しているのは作家の熱意を保証するということ。そして人が来ようと来なかろうと良い展覧会つくること。また、これらを外に向かって発信することも徹底しています。
あとはそのための発信力として、ウェブサイトをきっちりと作ったんですね。
Facebookでもずっと情報をながしています。
展覧会の2~3週間で来られるのって言うても250人ほどだと思うんですけど、Facebookでは4,000人くらいと繋がっていますから。
展覧会をやっていても来られない人っているじゃないですか。
遠かったり、時間がなかったりで。
そういう人にも展覧会の準備、セッティング、開期中の様子、アーティストインタビューなどを流しています。
-記者-
来られない人にとってはありがたいですけど、全て公開するのは珍しいですよね。
-向井さん-
展覧会って来る楽しみがあるじゃないですか。
でもここ2、3年はコロナ禍の影響で、人の流れが止まり、美術館やギャラリー、公演などができず、大変な時期がありました。
うちは活動を続けてきたのですが、この時にSNSの力を改めて知ったと思います。
それでも毎日アップしていると、だんだん行きたくなっていくんですよね、不思議なことに。
体験したい、というか。
だから、日を追うごとに来る人が増えてくるんですね。
-記者-
実際にFacebookを見てきたっていう人も多いんですか?
-向井さん-
Facebookはすごく多いですね、だからそういう力が物凄くあるなと。
あとは海外からも反応があります。
-記者-
SNSの発信にすごく力を入れてるんですね。
-向井さん-
そうですね。
うちはできるだけ人が入っている様子、子供たちが走っているところとか、許可を取って人が動いているとことかを出してるんですね。
そうすると距離が近くなるでしょう。作品の写真だけポンと載せられたら何か分からないけれども、人がこうやってアートを体験してると、実際に自分も体験してる感じがするし。
-記者-
体験型というか。見る人側も巻き込んでやるというか。
-向井さん-
搬入から搬出までずっと Facebookに載せたりしてるんですけど、その反響も結構あるかなーと思っていて。記録として残しておきたいというのもあります。
-記者-
ちなみに作家の方にお声掛けをするのも SNS が多いんですか?
-向井さん-
SNSと、後は実際にその人に来ていただいて、そこでやるかどうか1年ぐらいかけて考えてもらいます。
例えば、契約が既に決まってる人もいるし、スケジュール的に厳しい人もいれば、部屋の大きさ的にできない人もいるし。
(後編へ続く・・・)
編集後記
取材前にギャラリーの展示を紹介していただきましたが、
自宅だから出来る自由なギャラリー運営をされていて、何度も行きたくなる空間でした。
あんな場所が身近にあったのに、行っていなかったなんてもったいない!
後編も、たっぷりお話を伺ったのでお楽しみに。
(編集:キタムラ・せーた)