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神戸市の「タワマン規制」 / 三宮は大阪のベッドタウンとなるのか?

神戸市のタワマン規制を考察

兵庫県神戸市は全国でも珍しいタワーマンション規制を行っています。
メディアにも取り上げられることが多く賛否両論ある政策です。
ですが、関西に住んだこともない東京の人が見当違いなコメントをしているところをよく目にします。
今回は「タワマン規制」について考えていきます。

神戸市がマンション建設を規制するエリア
https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017050071.shtml

タワーマンションは全国的に大人気


タワーマンション、通称「タワマン」は、現在非常に人気の高い住居の一つです。最近では、職場に近い便利な場所に住みたいと考える人が増えており、「職住近接」というトレンドが広がっています。

しかし、都市部は土地の価格が高く、一般の人々が購入しやすい住宅は限られています。その中でマンションは比較的手に入りやすい選択肢です。特にタワマンは、限られた土地を効率的に活用し、多くの世帯が住めるように設計されています。一つのタワマンには数百世帯が入居できるため、狭い土地でも多くの人々が暮らすことが可能になります。

こうした理由から、都心に住みたいと考える人々にとってタワマンは手頃な価格で都心生活を実現できる魅力的な選択肢となっており、その人気が高まっています。

タワマンの利点は、限られた土地に多くの人が生活できるだけではありません。タワマンからの眺望は多くの人の羨望を集めます。また、多くの人が集まる大規模住宅であり多くの共有設備を利用することができます。エントランス、ラウンジ、フィットネスジム、コンシェルジュサービスなどです。これらの共有施設は入居者のQOLを高めステータスとなります。

人気が人気を呼び、タワマンは資産価値の面でも優位となっています。この十数年でタワマンの資産価値は大きく上がりました。住宅の価格は年数とともに低下していくことが一般的ですが、人気のマンションは値下がりしにくい傾向にあります。特にタワーマンションとなると購入時より価格が上がっていることも多いです。

自治体としてもタワマン建設は利点が大きいとされます。日本全体でも人口減少が問題となっており、各自治体は住民とそれによる税収アップを求めています。タワーマンションは数百人単位の人口増加が見込めるため、積極的に誘致する自治体も多いです。

以上のような理由から、現在の日本ではタワーマンションの人気が高く、再開発では積極的にタワーマンションが建設されています。


流れに逆行する神戸市のタワマン規制

全国的なタワマン建設ラッシュの中、神戸市はタワマン規制を行っています。
なぜ神戸市はタワマンに反対しているのでしょうか。

神戸市の見解や各種資料から考察していきます。

タワーマンションが抱える脆弱性

管理ができず廃墟となるリスク

神戸市長 久元喜造
https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017050071.shtml

神戸市の久元市長は会見で「数十年先、タワマンは廃虚化する可能性が高い。私はあの世から荒廃した神戸を見たくない」と述べています。
後半の部分が市長の個人的な感情のためよく揶揄されがちな発言ですが、このリスクは実際に問題となっています。
タワーマンションに限らず住宅は管理が必要です。この場合の管理とは、普段の清掃や植栽の手入れ、メンテナンスや修繕の計画・発注など多岐にわたります。
賃貸住宅は大家が管理しますし、戸建てなら持ち主が管理します。マンションは占有部と共有部があるため、室内は占有部のため住民が自分で管理しますが、共有部は管理組合で管理します。管理組合は住民の代表が行うことが多く、マンション管理に関しては素人です。そのため、管理がうまくいかずにマンションが荒れ果ててしまうことがあります。特に管理費滞納や修繕積立金不足が起こると、管理や修繕ができず、マンションの住みごごちが悪くなり、住民が減ってしまいます。住民が減るとより管理が悪くなる悪循環となり、そのまま廃墟となってしまうのです。

住民の高齢化 タワマンは令和の団地?

タワーマンションは同時期に同じような世帯が大量に入居します。子育てのしやすさから、ファミリー層である30歳代も多いことが特徴です。築浅のタワーマンションは前述したように人気ですが、これが築30年、40年となるとどうでしょうか?最初に入居した世代は高齢者となっています。うまく世代交代ができなければ、タワマンは建物が古くなるだけでなく、住民も高齢化してしまうのです。
昭和や平成の団地・ニュータウンのように高齢化して人が減り、衰退してしまうリスクを抱えています。

将来の建て替えができない!?

タワマンには建て替えができなくなる、といった問題もあります。採算が取れないので建て替えできない、が正しいかもしれません。
タワーマンションの多くは再開発で建設されています。元あった建物を壊して、新しくタワマンを建てているのですね。この際には莫大な費用がかかります。元あったものと同じような建物を建て直すだけでは、採算が取れません。そこで、現在の再開発は規制緩和を利用して、より大きな建物に建て替えることで、コストをペイしているのです。
現在のタワーマンションは、規制緩和を利用して容積率いっぱいいっぱいで建設されています。建て替えが必要となるのは何年後かわかりませんが、その時さらに大きく建て替えることができるのでしょうか。規制が緩和され建設技術が進化して技術的には可能となったとしても、人口が減っている未来にその需要はなさそうです。バブルのリゾートマンションのようにならないことを祈るばかりです。

都市計画の邪魔になってしまう

タワマンが建設される場所は需要の高い場所です。そのような土地は都市計画においても重要です。都市計画では都市機能を考慮して建物の新陳代謝を促していく必要があります、ですが、タワマンは建ててしまうと簡単に壊すことができません。住んでいる人を追い出して、新しい建物を建てることはできないからです。タワマンのように数百人が地権者となる物件では意思統一が困難なため、いちど建ててしまうと未来永劫残り続けます。
最近は駅直結タワマンが人気ですが、本来駅直結は公共施設・商業施設やオフィス・ホテルなどの開かれた場所であることが望ましいはずです。駅周辺の限られた土地を住民しか利用しないタワーマンションにすることは、街としての魅力を落としてしまいます。
街の要所にタワマンが乱立すると、都市計画の邪魔になり、長期的には街の活力を落としてしまう恐れがあります。

高層ビルとタワマン @神戸三宮阪急ビル

以上が、タワマンが抱えるリスクについてです。
タワマンは一時的な人口増を見込めますが、たくさんの居住者を抱えるため、管理リスクや建て替え・再開発のリスクをはらんでいます。


神戸市の抱える課題

次は神戸市特有の課題についてです。
神戸市がタワマンを規制している本当の理由はこちらにあると思います。

神戸は大阪と近すぎる

神戸市は大阪と非常に近い距離にあります。
大阪は日本第2位の都市で、特に大阪梅田は単一の都市としての規模は国内トップクラスです。その梅田と三宮はJR新快速で22分(阪急や阪神は30分前後)でつながっています。このことは神戸の大きなメリットですが、同時にデメリットにもなりえます。

大阪にオフィスや商業テナントを奪われる

大阪に近すぎるが故に、神戸にオフィスや商業テナントができにくい傾向があります。例えば、東京に本社がある企業が、関西に支社を作るときにはまず大阪に作ります。関西の中心である大阪にオフィスを構えれば、他の企業も多く便利ですし、神戸や京都までも30分圏内だからです。同様の理由で商業テナントも大阪に吸い寄せられます。神戸市民も通勤やショッピングは大阪を利用する人が多いです。そのため、神戸にはオフィスや商業テナントができにくい構造となっています。

神戸都市圏の中心としての責務

神戸は大阪に近い港町であることから、関東における横浜市とよく比較されます。
確かに、神戸と横浜は似ているところが非常に多いですが、いくつか異なる点があります。ひとつは神戸は独自の都市雇用圏を形成していることです。
神戸の都市雇用圏は、神戸市を中心として明石市や三田市などの周辺自治体から人口流入があり、約257万人で国内第6位となっています。近隣に大阪都市雇用圏がありながらも昼夜間人口比率は102.3%です。

国勢調査_通勤通学分析(市区町村)

関西は大阪をトップとしながら、京都・神戸が独自の雇用圏を築いています。東京一極集中の関東とは対照的です。横浜市には都市雇用圏はなく、昼夜間人口比率は92.5%です。横浜は巨大都市ながら東京のベッドタウンとしての側面があります。

神戸市は、神戸市のことだけ考えるなら大阪のベッドタウンとして発展していく選択もできます。しかし、神戸の都市機能が落ちれば、神戸以西の周辺都市は雇用がなくなり衰退してしまうのです。
神戸都市雇用圏の中心である三宮は、周辺の雇用を守るためにもタワマンばかり建てるわけにはいかないのです。


神戸三宮の限られた土地

六甲山と海に挟まれた神戸市
中央の島の上が三宮周辺で、特に狭いことがわかる

神戸と横浜の異なる点はもう一つあります。それは市街地として利用可能な土地の広さです。似たような港町ですが、横浜が丘陵地帯であるの対して、神戸は背後に六甲山があり海と挟まれ、利用可能な土地が非常に狭いです。そのため、横浜のように大規模な住宅地開発ができませんでした。限られた土地だけでは居住地が足りなかった歴史があり、神戸の西神中央や須磨のニュータウンは山を切り拓いて作られています。そして、その土砂でポートアイランドや六甲アイランドといった人工島を作ってまで土地を拡充して、ようやく今の神戸市になっているのです。
特に三宮は南北に狭いためその限られた土地にタワマンが乱立しては、肝心のオフィスや商業施設を建てることができません。そのためタワマンを規制しているのでしょう。

小中学校の用地がない

そんな限られた土地の三宮には、もう小中学校を建てる余裕がありません。
タワマンを建てると子育てファミリーの人口が増え、小中学校の需要が増えます。
東京の湾岸タワマン地帯では、小学生が約4倍となり小学校のキャパシティ不足が問題となっています。しかし、今後の日本は少子化が進んでいくことは確実なので、できる限り新しい学校は建てたくありません。三宮には土地もないので小学校はできません。

元ニュータウンの人口減少

神戸市は人口150万人を切ったことがニュースになりました。
皆さんがイメージする神戸は三宮周辺の都心やウォーターフロントだと思います。それらが位置する神戸市中央区の人口は今も増え続けています。神戸市全体の人口が減っている原因は、西区や須磨区などの減少が著しいからです。

神戸市HP 毎月推計人口
神戸市中央区の人口は右肩上がりに増加している

つまり、三宮にタワマンを建ててまで人を集めるより、人口減少が続く郊外の元ニュータウンの人口減少を食い止める方が優先順位が高いのです。そのために神戸市はすでに対策を始めています。市営地下鉄西神・山手線の名谷駅(須磨区)、終点の西神中央駅(西区)、JR垂水駅(垂水区)を中心とした再開発「リノベーション神戸」です。これら拠点駅の周辺にテコ入れをし、住環境を改善することでニュータウンの活性化を図っています。

就職や子育てで若者が流出

神戸市の人口減少の根本的な原因は、就職で若者が流出していることです。神戸は都市雇用圏を持ち、大企業の本社も複数ありますが、それでも若者にとって魅力的な雇用先が不足しています。
社会人口増減は、主に「進学」と「就職」で変化します。兵庫県は全国で5番目に大学が多いこともあり、神戸市内にも複数の大学があります。そのため、15-19歳や20-24歳の転入は多いです。しかし、就職にあたる25-29歳で一気に転出超過となってしまいます。これは福岡市などと構造が似ています。
また、30-34歳が転出しているのは子育て世帯と考えられます。子育て支援で有名な隣の明石市(※実際の子育て支援は神戸市もほぼ負けていないが)や、大阪市(高校授業料無料)に転出していると指摘されています。
この若年層の流出に歯止めをかけたい狙いがあります。タワマンを建てることで一時的に流出は止まるかもしれませんが、持続はしません。それよりは、雇用や子育てしやすい環境を作ることで若者に選ばれる街にしたいという狙いがあるようです。

神戸市HP 人口動態
年齢別転出入の状況

阪神・淡路大震災で復興が遅れた

神戸市は約30年前に阪神・淡路大震災で大きな被害を受けました。神戸市発展の礎となった神戸港は大きく破壊され、長田の街は火災に見舞われました。震災の復興にかかった費用の半分は、兵庫県と神戸市の負担となり市の財政を大きく圧迫しました。(※この反省もあり、東日本大震災では自治体の負担はほぼなく、復興税まで導入されました)
本来であれば三宮含め神戸市の再開発を行い魅力ある街となっていたはずが、震災の借金で必要な公共事業ができず、神戸市の衰退を招いたのです。

災害対策の余裕がない

タワーマンションは高さが60mを超えるような高い建物となります。そこに多数の人が暮らすため、災害対策は必須です。神戸市は阪神・淡路大震災の経験から、災害対策に力を入れています。しかし、タワマンが乱立し都心の人口が増えすぎると災害時の避難や消化活動に懸念が生じます。そういった理由もあり人口の過度な集中を避けているようです。

神戸は大阪のベッドタウンになる?

関西では、「京都で学び、大阪で働き、神戸に住む」ことが理想とされています。
神戸は独自の都市雇用圏を持ちながらも、近隣の大阪都市雇用圏に転出超過しています。つまり、神戸市に住みながら大阪で働くという需要は確実にあるのです。何もしなければ横浜市のようにベッドタウンとなってしまいます。

仮に神戸市が独自の都市雇用圏を諦め、大阪のベッドタウンとなることを選んだ場合はどうなるのでしょう。
大阪への通勤に便利な東灘区、灘区、中央区(三宮含む)は、ベッドタウンとして人気になるでしょう。一方、北区や西区、須磨区、長田区、垂水区などは、大阪へ通勤する時に乗り換えが必要となり、通勤時間も長く不便です。神戸市内が衰退し大阪しか働くところが無くなれば住みたがる人が減ってしまいます。そもそも、大阪で働くのであれば神戸に限らず多くのベッドタウンがあります。吹田市、高槻市、尼崎市などに負けてしまいます。
神戸市全体としては、大阪のベッドタウンとなってはいけないのです。

こういった事情を全く知らない東京の人は、安易に神戸市タワマン規制を批判します。東京で例えるなら「渋谷」や「池袋」をベッドタウンにしろと言っているようなものです。

最後に神戸市公式noteによる神戸市タワマン規制の理由を載せておきます。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
面白かった、興味が出たと思っていただけたら幸いです。

よければこちらのnoteも読んでください。

ここからは有料記事とさせていただきます。
タワマン規制の改善案を提案していきます。
興味がある方は購入いただけると励みになります。

神戸市のタワマン規制の改善案

このように神戸市のタワマン規制には頷けるところも多いと思います。
しかし、足元の人口減少、そしてそれに伴うイメージ悪化は避けたいところです。
そこで、タワマン規制の改善案を考えていきます。

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