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デザイナーズライフスタイル ー日本のバウハウスをー

この超私的デザイン概論も今回で15回目となります。概論としてはいったんここまでとしますので、今回がひとつの区切りとなります。
さてここでは、デザイナーとしての私の(不思議な)ライフスタイルのお話となります。デザインを長年学んできたことで、自ずとそのライフスタイルも試行錯誤を繰り返しながら独自の性の高いものになっているのではないでしょうか。もちろん私はデザイナーですので仕事の内容はデザインの実務とデザイン教育が中心にはなりますが、仕事内容がデザインだからできるというライフスタイルということでもないように思います。オンラインで仕事をすることが社会的に広く認知されてきたからこそ、お仕事の仕方が変わったという方も少なくない中で、仕事や家庭との向き合い方など「私の場合」をお話しさせていただければと思います。

趣味が仕事
しばらく前に美大ってどんなところかをお話しした際に、私はサークルをやっていなかったということをお伝えしたように思います。じっさい忙しくてサークルをしている時間を設けることができなかったというのは確かなのですが、それ以前にやりたいサークルがなかったというのが大きい。就職活動の時にも趣味を書く欄があったのですが、これもずいぶん悩んだ末「デザインすること」と書いたことを記憶しています。美術系でデザインを学び趣味もデザイン。なんと広がりのない、よく言えば筋金入りのデザイン好きのような印象を与えます。
現在では趣味は料理ということにしています。いつの頃からか、ただめんどくさいだけだった料理でしたが、あるとき「食材を揃えさえすれば、好きな食べ物がなんでも食べられる」と発想を切り替え、どれだけ美味しく作れるかを試していくうちに今では趣味といっても良いくらい、週末にはほぼ必ずといっていいほど数時間キッチンを独占しています。趣味があるというのはなんとありがたいことか、そのように思います。

しかしそれもここ10年くらいの話です。その上私はこれまで何をしても長続きしない性格でした。唯一幼い頃から好きだったのは絵を描くことと、工作をすることです。
しかしいつの間にか、その唯一の趣味がデザインという仕事に結びついてしまった。そうするともう趣味といえるものがありません。
本業とする仕事を月曜日から金曜日までして、土日は趣味のキャンプにいくだとか、仕事終わりにダンス教室にいくだとか、それがとてもうらやましいと常々思っていました。趣味を仕事にしてしまうと、それこそストレスを発散したり頭を切り替えたりすることができないのです。

仕事が趣味
趣味が仕事になったというのは一見、なんだか楽しそうな印象を受けます。たしかに好きなことをしてお金になるというのは幸せなことでしょう。しかし、楽しくやっていたはずの趣味が今度は重圧に変わってきます。辛くなってくるのです。そうするともうほかの趣味といった逃げ場がありません。
私はこれまでに一度だけ、デザインを辞めて他の職に就こうかと本気で考えたことがあります。そうすればまた楽しく絵を描いたり、新しいことを考えて個人の創作としてデザインができます。しかしやはりそれではやはりつまらない。なんとか楽しくデザインワークをすることができないものかと悩みました。
そこでふと思いついたのが、なんてことはない、趣味を仕事にするのではなく、反対に仕事を趣味にしてしまえないかということでした。
少し理屈っぽいかもしれませんが、趣味が仕事であることと、仕事が趣味であることとではずいぶんと違います。仕事が好きで、他のことをするよりも毎日でも仕事をしていたいというのが、仕事が趣味ということになります。その仕事の内容がデザインならば、それは私にとってこれ以上ない喜びです。
では、仕事を趣味にするためにはどうしたら良いか。他者から指示をされたり予め決められたルールを守らなければならない「いわゆる労働」とならないようにすれば良い。ルールは自分で好きなように(=適切に)決めて、それに従って自律的に動けば良いと考えました。
では次に、自分がルールブックになるためにはどうしたら良いかということです。
私は単純に「独立開業」という旗印を掲げたわけです。
とはいえ、何でも自分の裁量で決めることができる職場をこしらえたとしても、仕事には相手があります。相手はお金を支払う側のクライアント様ということになりますから、やはりそこはクライアント様の意向を最優先して…となると、また重圧が生じます。もとの木阿弥です。

だからここのところをちょっと変えてみる。お金をくれるから何でもするということではなく、共に新しい価値を創っていく仲間という対等、または対等に近い関係であれば、まるでグループワークのように仕事は楽しくなってくる。そうすれば、私の専門家としてのポテンシャルも遺憾なく発揮できますし、クライアントも嬉しいし、ユーザーも嬉しいとなる良い循環が生まれます。
私は大学で教員をしているので、そこにはきちんとしたいわゆる「就業規則」があります。もちろんこれもとても楽しくやらせて頂いていますから、当たり前のことを当たり前のこと以上として、毎回出てくる彼らのスタディをまだかまだかと心待ちにしていますし、学生たちがより魅力的に思う話をしようと常に心がけます。大学というクライアント、縛られている感のない楽しんでいる私本人、そして知見を求めている学生たちという三者がうまく回っているわけです。

win-winという造語があります。両者にとって嬉しいということを表しますが、私は仕事という趣味でもってwinをいつくつくることができるか、多ければ多いほどよくて、それがデザインワークなのかなと思っています。
大学を含め、私にお仕事をくださる方々は、やはりそうした考えの方しかいないといっていいでしょう。トップダウン型から協調型へ、winをどれだけ積み重ねることができるかという考え方が台頭していることは、現代人なりの進化の過程を辿っているように強く感じます。

自由な時間の使い方と自由な企画
先ほど、クライアントと対等または対等に近い立場として、グループワークのように仕事を趣味にしてしまうと述べましたが、ここは誤解のないように少し丁寧にお伝えをした方が良いでしょう。
私の事務所には、先ほど挙がった就業規則はありません。仕事は趣味なのでやらされるものではないからです。大げさにいうと、むしろお金がかかったり、時間を割いたり、多少疲れていてもやりたくて仕方がないものだから、規則を設ける必要がないということになります。
そうなると当然、率先してより良いものを考えるということになります。それももちろん期日内にです。
社会は結果を求めます。いわゆる仕事として汗水流して社内でどんなに働いても、結果が伴わなければ評価はされません。2日も徹夜しているんです、みたいなことをクライアントに言ったりは今の社会では普通はしませんし、それを言ってしまうのは恥ずかしい。しかし一方で、仕事を趣味とこちらが勝手に考えていても、結果に結びつけばそれは立派な仕事としての評価になります。
私はあくまでも無責任な遊びとして仕事を捉えているわけではないということは明確にお伝えをしておきます。

とはいえ、就業規則のない裁量制なので事務所に来て仕事を開始する時間も自由です。息子の幼稚園の発表会に午前中出席をしてビデオカメラを回し、午後から仕事ということもざらにあります。テレワークが現実的な働き方のひとつとなった今日では、そうしたことが可能な会社員の方も多いようですし、そうした時間の使い方をすること=サボっていると見做す組織も少なくなってきているように思います。
コアタイムに、たとえば平日午前中に行われている子どもの運動会の最中に電話を取ることもできます。メールを返信することもできます。仕事が趣味ならそんな相手とのキャッチボールをすること自体も楽しみのひとつでしょう。
時間は自由に使えるのです。

さらに、私の場合は仕事の内容自体も自分で考えて創ります。これをしたらおもしろいんじゃないか、といったことです。
たとえば上司から、「これこれについて、新しい企画をいついつまでに」といった司令がきっかけとなる企画立案とはずいぶん違うはずです。自分が「おもしろい!」と思って考えた企画でも、なんらかの理由で没になってしまってお蔵入りすることもあると思います。私の場合はまずそれがありません。おもしろそうだからやってみよう、それでできたのがデザインレッスンです。少しずつですが、応援してくれる方々が増えているのも事実です。
なんせ趣味ですから、自分で立ち上げた企画が形をなし、結果を伴い、いろいろなことを自由に裁量して、winの山を築けるというのは願ってもない働き方といえるでしょう。

私の構想
この超私的デザイン概論も最後になりますから、ここで私なりの今後の構想についてお話をさせて頂きたいと思います。
これまで、デザインとは何か、美大はどんなだ、デザインはいつ、どこで学べるのか、デザイン思考にはどういった選択肢や発想があるのか、といったデザインに関わる5W1Hみたいなことをお話してきました。
私はこのようなことを広く伝える場づくりを構想しています。
今は、事務所としている賃貸マンションの一室と、18歳から22歳くらいまでをお相手する大学という2つの場所で、こうしたデザインについて細々とお伝えしています。
しかしやはり、それでは少し物足りない。だから新しい企画、おこがましくも「日本のバウハウス」を考えるわけです。

私は全世代に向けたクリエイティブなデザイン教育をしたい。そのためには、発信していかなければなりません。発信するためには拠点となるプラットフォームが必要になります。
レッスンが出来、高度なものづくりが出来、たくさんのデザインの書籍が揃っている図書室があり、世代を超えたより多くの方々が気軽に出入りすることができる拠点です。
私は神戸在住ですから、やはり神戸がスタートとなります。明石海峡大橋が見える海際のとても美しい場所です。
ここからデザイン教育を全国に発信したいと考えています。これまでの美大とも違う、新しい総合学習の場としての教育機関です。
行政や金融機関からも共感をして頂いてるところもあり、これから活発に動いていきます。

ひとりでも多く、デザインという学問を伝えていきたい、そんな思いから始めたこのnote。第一章として、何かひとつでも記憶にのこる内容があったなら幸甚です。

2023,1/18
神戸市垂水区西舞子のアトリエにて
デザイン学博士, 建築家・デザイナー, 中村卓

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