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表現の現場におけるジェンダー不均衡「ジェンダーバランス白書2022」

「ジェンダーバランス白書2022」が発表され、美術・映画・音楽などの世界のジェンダーバランスの不均衡が明らかになりました。
「美大学生は7割女性なのに教授は8割男性」というデータについてです。

私の身を置いている学校・業界の実情を、記しておこうと思います。

上記の調査のデータにも含まれている、日大芸術学部にて非常勤講師をしています。
私が教えている映画学科 映像表現・理論コースのシナリオ専攻では、女性の学生の割合が多いです。
今年度、私が教えている2年生のシナリオのクラスは、8人中、6人が女性です。
(毎年、5〜8人程度の学生を指導します。年度途中でクラス替えもあります)
傾向として毎年、「映像表現・理論コース」自体、女性の学生の割合が多いです。
また、私の主観も入っていますが、「優秀な学生」「モチベーションの高い学生」「コミュニケーション能力の高い学生」が、女性に偏っています。
単純に女性の方が人数が多いから、という問題だけではありません。もちろん男性にも優秀な学生がいますし、年度によってバラつきはあります。

また、その女性の学生たちの中で、プロになりたい人、なれる人は、どのくらいいるか?という問題。
今年度に限って言うと、2年生の小林クラスの8人中、2人が明確に「脚本家になりたい」と宣言しています。
「え? それだけ?」と思われるかもしれませんが、毎年このような状況です。シナリオ専攻でも、「脚本家になりたい」と明確に決めている学生の割合の方が少ないのです。
そして、今年度「脚本家になりたい」と宣言している2人とも、女性です。
ちなみに、昨年度のクラスでも、明確に「脚本家になりたい」と宣言して、熱心に相談に来る学生が1人いましたが、やはり女性でした。

では、すでに日芸を卒業して、年数が経ち、脚本家になっている学生たちは、どのくらいいるか? 私が教えたことのある学生たちに関しては、数えるほどしかいません。
が、「私のシナリオのクラスではなかったけど、クラスを越えて、学科を越えて、大学を越えて、私に『脚本家になりたい』と相談に来てくれた学生たち」「映像以外の執筆業で活躍している卒業生」も含めると、何人もプロになっています。
そして、やはりその割合は、女性の方が多いです。

一方、普段、脚本を書いている映像業界・アニメ業界について見ていきます。
女性の脚本家の割合は、作品の特性によって、制作会社によって、かなりバラつきがあります。が、女性の脚本家の台頭はかなり前から続いています。
作品によっては、複数の脚本家、全員が男性ということもあります。これは作品の特性上の問題もあります。
が、女性の脚本家とは一緒に仕事をすることも多いですし、自分がシリーズ構成の作品でも、女性の脚本家の方をお呼びしています。
また、女性のプロデューサーと組むことも多いです。特に、20代・30代の女性プロデューサーの台頭が著しい印象です。
ただ、これが監督となると、まだ男性の数の方が圧倒的に多いです。

続いて、私が常務理事を務めている「日本放送作家協会」について。
現在、私は理事として2期目を務めていて、15名の理事がいます。
このうち、女性は8名です。
以前の理事長は、女性の放送作家・さらだたまこ先生でした。
男女比はバランスが取れている印象です。

再び、非常勤講師を務める日大芸術学部に話を戻します。
では、教授・講師陣の男女比はどうなっているか?
女性の指導者の割合は、正直、とても少ないです。
映像表現・理論コースでシナリオを教えている先生方は、男性ばかりです。専任の先生も、私のような非常勤も、男性が中心になっています。
「美大学生は7割女性なのに教授は8割男性」という今回のデータは、私の身を置いている世界にも当てはまります。

実際に業界で仕事をしていると女性の脚本家の割合は多いし、大学でも優秀な女性の学生は多い。プロになっている人も多い。それなのに、なぜ大学で教えている指導者(教授・講師たち)は、女性が圧倒的に少ないのか?
ここに、大学ならではの問題がある気がします。
「表現者として仕事をすること」と、「大学で指導者として教える仕事をすること」の間には、男女の仕事のしやすさ・なりやすさに、大きな開きがあると言えるかもしれません。

今回の「ジェンダーバランス白書2022」のデータには、いろいろ考えさせられました。
「『そもそも指導者になりたいと思う女性が少ない』のならば、男性の割合が多くても仕方ないではないか」「学生は女性の割合の方が多いという不均衡は、無視していいのか?」という意見もあるでしょう。
では、女性の優秀な学生・優秀な表現者はいるはずなのに、なぜ大学という場で指導者になりたいと思う女性が少ないのか?
女性の優秀な表現者が、初めから大学で指導者になる可能性をイメージしにくい・諦めざるを得ない状況にはなっていないか?

以上は、あくまで私の身を置いている世界からの私見です。
学生の「優秀さ」の判断に関しては、主観が入っていると思います。
また、私が大学で教えているのは、せいぜい10年余なので、私が教えた世代の学生たちが40代・50代になる頃にはどうなっているだろうか? そんなことを思いました。

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